第174話「フィリップの驚き」
ヴィリヤの祖父ヴェルネリ・アスピヴァーラから全面的な協力を取り付けたダン達は……
アイディール王国王都トライアンフへ戻った。
この王都における拠点は当分ヴィリヤの屋敷となる。
イエーラへ行っていた間に、早速、動きがあったらしい。
留守をさせていたヴィリヤ付きの護衛、つまり副官ゲルダの部下が、王女ベアトリスからの手紙を預かっていたのだ。
ヴィリヤが手紙を読むと、驚くべき事が記されていた。
何と!
このタイミングで、『神託』が出たという。
具体的な神託の内容は当然、記されてはいない。
このような場合、いつもなら王宮魔法使いのヴィリヤがベアトリスの下へ伺い、記載された書面を受け取り、ダンへ伝える形をとっていた。
そしてダンは神託……
つまり災厄を払う『任務』を粛々と遂行する。
しかし、今やダンの置かれた状況はガラリと変わった。
確かに、端から神託を無視は出来ない。
しかし課せられた使命も果たす必要がある。
神託の件も含め……
まずはベアトリスの兄、この王国で実権を握る宰相フィリップから、ヴェルネリ同様に前向きな協力の約束を取り付けなくてはならない。
また屋敷へは『朗報』も入っていた。
冒険者ギルドのマスター、ベルナール・アスランから『返事』が来ていたのだ。
サブマスターのイレーヌと共に、ダン達に『全面的に協力する』旨を手紙で伝えて来たのだ。
ダンは喜んだ。
そしてそれ以上に喜んだのはエリンであった。
ベルナールとイレーヌが、ダン、エリンと共にクランを組むという『約束』を守ってくれたからだ。
他に、アルバートやフィービーへの協力要請もあるが……
エリンの正体を知り、既に真実を知ったふたりは、受けてくれるとダン達は見ていた。
となれば、残るのはフィリップだけである。
やがて夜となり……
ダン達は『勇者亭』へ向かった。
店主のアルバン、リアーヌと合流。
先に連絡済みのベルナールとイレーヌもやって来て……
一行は、明るい未来を夢見て、大いに前祝いを行ったのである。
『仲間達』とすっかり打ち解けたヴィリヤは……
180度方針を変えた。
大好きなワインを、笑顔でにぎやかに楽しんだのはいうまでもなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日午前、王宮……
ダン達はベアトリスの居間に居た。
その向かい側には、車いすに座ったベアトリスだけではない。
何と!
兄フィリップも一緒に長椅子に座っていたのだ。
いつもはベアトリスひとりだけで、ヴィリヤへ『神託』を伝える。
この場にフィリップが居るのは、イレギュラーというか初めての事だ。
時間は少し遡る。
実は……
王宮に到着し、いつも通り、取次ぎの為にヴィリヤがベアトリスに謁見したが……
間を置かず、すぐに戻って来た。
息を弾ませた、ヴィリヤ。
抜けるような白い肌が紅く染まっている。
とても興奮しているのが、はっきりと見て取れた。
「ダン、大変よ! ベアトリス様が全員にお会いになると仰っているわ。それに何と! フィリップ様も一緒にお会いされるのですって」
「成る程……今回の神託、絶対に何かありそうだ。まあ手間が省けるとも言えるな」
ベアトリスからの神託が何であれ……
今日の本題は別にある。
宰相フィリップの協力を取り付ける事である。
そのフィリップが一緒ならば、面倒くさい謁見手続きなし、手間が省ける。
ダンの言う事は至極当然であった。
「確かに手間が省けますね!」
「いよいよだよ、旦那様」
「行きましょう!」
ヴィリヤが相槌を打ち、エリンが気合を入れ、ゲルダが出発を促した。
今回は、ニーナもダンの妻として同行している。
生まれて初めて王族に会うという事で、とても緊張していたが……
こうして……
王宮護衛の騎士に連れられ、ダン達はベアトリスの部屋へ到着、フィリップとベアトリスの兄妹に謁見している……
という次第なのである。
まずはいつもの通り、
「ではベアトリス様、ご神託をお願い致します」
ヴィリヤが厳かな口調で、お願いすると……
意外にもベアトリスは、首をゆっくりと横に振る。
「うふふ、ヴィリヤ。私の神託は後で良いのよ」
「え? ご神託が後ですか?」
「はい! ダンはお兄様に大事な要件がある筈。その話が終わってから、神託を伝えますから」
「え? 本当に宜しいのですか?」
念の為、ヴィリヤが聞き直したが……
ベアトリスはにっこり笑う。
「うふふ、本当に構いません!」
「じゃあ、ベアトリス様、お言葉に甘える。先に貴女の兄上と話をさせて貰おう」
そのフィリップも、妹と同じく先ほどから「にこにこ」と笑っている。
もしやこの微笑みは、神託の内容を知っているのか?
それとも、ダンが話す内容を予測でもしているのか?
しかし、今日のダンは作戦を決めていた。
『切り札』はたくさんあるのだ。
なので簡潔に大胆に、ど真ん中のストレート勝負なのである。
「フィリップ様、今日はお願いがあって伺いました」
「ほう、お願い?」
「はい! お願いです。既に全く同じお願いをしました」
「ほう、誰に?」
「イエーラのソウェル、ヴェルネリ様です。彼からは全面的な協力の約束を取り付けました」
「ほう! 全面的な協力を? あのヴェルネリ殿がか?」
エルフのソウェル……
つまりリョースアールヴの長が、ダンに全面的な協力?
フィリップは全く話が見えないらしい。
苦笑し、首を傾げた。
しかし、ダンは「間違いなし!」
と、大きな声で返事を戻す。
「はい!」
「ふ~む……」
唸るフィリップは何やら思案しているらしい。
片や、ダンは話を続ける。
ここからが本題なのだ。
「さて! フィリップ様は王国宰相として、国内はもとより、世界の様々な事情に通じておいでです」
「…………」
「ですので、今からご覧頂くものが、俺の説明の代わりになるかと思います」
「ダン、これから私が見る物が? 君の説明の代わりかい?」
「はい! これらは……この国にとって、稀に見る国宝にも等しいかと」
「稀に見る国宝? ……ふむ、ダン。君がそこまで言うとは、とても興味深い。ぜひとも見せて貰おうか?」
フィリップから請われて、ダンが取りだしたのは……
小さな銀製の指輪と、古めかしい紙。
「そ、そ、それはっ!!」
それまで比較的冷静だったフィリップも……
ダンが収納の魔道具から出した『宝』を見ると、大きな声を出して驚いたのであった。
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