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第171話「高貴なる4界王」

 何もない空間から突如現れ、全員の目の前で、宙に浮いているのは……

 色白で細身の女性であった。

 

 ひと目で人間ではないと分かる。

 かといってアールヴでもない。

 銀色の青い模様を配した生地で作られた、独特なデザインのドレスを着込んでいる。


 ヴィリヤは息を呑む。

 相手は初めて会う存在である。

 

 しかし彼女の放つ強烈な波動にとても近しいものを感じる。

 その波動とは、自分が唯一無二と信じる水の魔法。

 彼女はその加護を与えた偉大なる存在だと確信する。

 

「あ、あ、貴女は……も、もしやっ! す、水界王様! ア、アリトン様ではっ!」


 地・水・風・火、4つの元素がこの世界を成立させている。

 その元素を司るのが4大精霊と呼ばれる存在である。

 地はノーム、水はウンディーネ、風はシルフ、そして火はサラマンダー。

 

 その4大精霊を統括する大いなる存在が、高貴なる4界王と称される上級精霊達なのだ。

 

 水界王アリトンは高貴なる4界王のひとりだ。

 あらゆる水の変遷を管理する存在であり、水の精霊ウンディーネ達の支配者なのである。

 伝説の存在とうたわれた、高貴なる4界王のひとりが姿を現したのだ。

 水の魔法使いであるヴィリヤもアリトンにとっては眷属のひとりに過ぎないといえよう。

 慌ててひざまずき、頭を下げるヴィリヤに対し、アリトンはりんとした声で言い放つ。


「アールヴの子ヴィリヤ・アスピヴァーラ! 我が水の加護を与えたる者よっ!」


「は、ははっ!」


なんじが申す通り、わらわは高貴なる4界王のひとり、水界王アリトンであるっ!」


「ははっ! アリトン様にお目にかかれて……ヴィリヤは、光栄でございますっ!」


「ふむ、汝には分かる筈」


「は!」


「心の中にあった、偽りの足枷あしかせから解放され、汝は今や自由の子になったと」


「はいっ! アリトン様! 貴女様の仰る通りです」


「よって、ヴィリヤ・アスピヴァーラよ! 妾はお前を祝福するっ!」


「は、はいっ! ありがたき幸せっ!」


「汝の心には更なる寛容さを! そして、お前の夫君となるダン・シリウスへは我が力を! 大いなる水の加護を与えようっ!」


 アリトンから、『祝福の言葉』が投げかけられた瞬間!


「旦那様ぁ!!!」

「おおおっ!!!」

「ああっ!!!」


 エリン、ヴェルネリ、ゲルダが叫んだ。

 悲鳴に近い、驚愕の声である。


「え?」


 思わずヴィリヤが振り向くと、『想い人』ダンの身体全体がまばゆく白光していた。

 まともに正視出来ないくらいだ。

 ヴィリヤが感じた事がない強力な魔力波オーラも発せられている。


 ダンの身に、一体何が起こった!?

 

 驚いたヴィリヤが、再びアリトンへ目を向けると……

 何と!

 アリトンはダンへ視線を向け、面白そうに笑っていた。


「聞け! ダン・シリウスよ! 今こそ目覚めの時! 我が加護を受け、全属性の魔法が使用可能となった今、汝はまぎれもない救世の勇者となる。神の代理人(エージェント)となるべき時が、遂に来たのだ」


 神の代理人(エージェント)!?


 ヴィリヤ、ゲルダと共に……

 ダンを心配そうに見守るエリンの記憶が、掘り起こされる。

 かつて……

 悪魔王アスモデウスが発した謎の言葉が、再びこの偉大なる上級精霊の口から告げられたのだ。


「だ、旦那様ぁ!」


 発光してから、ひと言も発さないダンへ…… 

 エリンは必死に呼び掛けた。

 しかし、ダンからの返事はない。


 眩く発光するダンを見つめ、頷いた水界王アリトンは、次にヴェルネリへと向き直った。


「聞け! リョースアールヴの長、ヴェルネリよ!」


「ははっ!」


 孫娘同様、跪くヴェルネリへ、アリトンは告げる。


ふるき世に生きた今は亡き父祖の遺志。汝へ受け継がれた贖罪しょくざいこころざし。遂に叶う時が来た!」


「ははっ、ありがたき幸せ」


 歴代の長が成し得なかった贖罪しょくざいを、今、遂に己が成し遂げる。

 ヴェルネリの胸には万感の想いが迫っている。 


 そんなヴェルネリへ、再びアリトンは言い放つ。


「汝の願いを! 救世の勇者たるダン・シリウスに望め! 手立ては既にダンが考えておるっ!」


「は、はいっ!」


「ヴェルネリよ! 汝の持つ危惧きぐ懸念けねん……全ての難題解決もダンに望むが良い! 孫娘ヴィリヤの婚姻もそうだ。一族から出るであろう不満も、相手が救世の勇者ならば異論は出まい」


「はいっ! アリトン様の仰る通りです!」


「うむ!」 


 ヴェルネリから発せられた肯定の返事を聞き、アリトンは満足そうに頷いた。

 と、その時。


「ちょっと、待ったぁ!」 


「ああ! 旦那様!」

「旦那様!」

「ダン!」


 発光しているダンが、ようやく口を開いたのだ。

 それも、アリトンとヴェルネリの会話をさえぎる形で。


「おい! 問題解決が全部俺にってどういう意味だ」


「はっ、不満か?」


「それはちょっと無茶振りだろ? アリトン!」


「ほほほ、ダン! 救世の勇者たるお前にはそこまでの力がある。妾も大いに期待しておるという事。そして、この者もな」


 アリトンがそう言うと、「ひゅっ!」と一陣の風が吹く。


 瞬間!

 細身の少女がひとり、現れた。

 緑色の薄絹を纏い、端麗な顔立ちをした美しい少女だ。


「はは、オリエンスか」


 少女の顔を見たダンが、嬉しそうに笑った。

 二度目の出会いとなるエリンも、喜び勇んで挨拶する。


「オリエンス様っ! ご無沙汰しておりますっ!」


 驚いたのは、ヴィリヤ、ヴェルネリ、ゲルダの3人である。

 何と!

 アリトンだけではなく、もうひとり高貴なる4界王が現れたのだから。


「な!?」

「ええっ!」

「おお、空気界王オリエンス様までも!」


 そう……

 少女の名は空気界王オリエンス……

 彼女も高貴なる4界王のひとりだ……

 

 オリエンスは東西南北、世界全てに吹き抜ける風のみなもと

 風の精霊シルフ達の支配者であり、あらゆる天候をつかさどる上級精霊である。

 

 彼女は風の精霊らしく敏捷にして快活。

 その反面、気侭きままな性格であり奔放、そして残酷なのだ。


 以前オリエンスが機嫌を損ねた時、ダンの飛翔魔法が発動せず……

 あわやダンとエリンは、墜落死しそうになった。

 ※第9話参照


 しかし今、ダン達の前に現れたオリエンスの表情は、とても柔らかく慈愛に満ち溢れている。


 オリエンスを見たアリトンが苦笑する。


「見よ、わがまま娘の爽やかな笑顔を。数千年ぶりか? 珍しいものよ、ほほほ」


 アリトンにそう言われ、オリエンスは「い~っ」と、可愛く舌を出す。

 そして、改めてにっこりと笑った。


 晴れやかなオリエンスの表情を見て、アリトンも晴れやかに笑う。


「我らふたりだけではないぞ! 火界王パイモン地界王アマイモンも、ダン、汝には協力を惜しまず! そう申しておるっ!」


 地・水・風・火……

 世界の根幹を為す、高貴なる4界王全員がダンに協力する。

 

 彼等彼女達の加護はまさに救世の勇者に相応しい力であろう。

 この力が、新たな建国への後押しとなる。


「ありがとう! アリトン! オリエンス! そして高貴なる4界王の力、存分に使わせて貰う!」


 ダンは大きな声で言い放ち、深々と頭を下げたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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