第17話「呪われた一族①」
ここはダンの家の居間。
ダンとエリンが並び、テーブルを挟んでその向かい側に訪ねて来たアルバートとフィービーが座っている。
各自の表情は様々。
ダンは、別にいつもと変わらない。
但し、非難は一切受け付けないという頑なな顔つきだ。
傍らのエリンは……不機嫌そうだ。
頬をぷくっと膨らませている。
彼女が見せる不満な様子は、アルバート達闖入者に対しての拒絶反応である。
片やアルバートはというと眉間に皺を寄せており、フィービーは一気に疲れたようになっていた。
まずはアルバートが問う。
「ダン、この子は……一体どうしたんだい?」
アルバートの問いに対し、ダンは淡々と答える。
「一体どうしたもこうしたも、行き掛かり上さ」
「行き掛かり上? と、いうと」
「今回の依頼の際に助けたんだ、以上」
あまりにも簡潔過ぎるダンの答えに対し、アルバートは更に突っ込まざるをえない。
「以上って……おいおいおい! この子が何者なのか知っているのかい? 俺にはこの子の風貌を見て不安しかないが……」
何者呼ばわりされたエリンが、むきになって反論する。
「この子が何者って、何なのよ! 不安しかないって失礼じゃない! エリンはダンのお嫁さんなんだからぁ」
エリンの『嫁宣言』を聞き、アルバートとフィービーが驚く。
「ええっ!? この子が嫁って……そうなのか、ダン」
「ダンったら、冗談でしょう?」
驚くふたりを尻目にエリンは真剣だ。
「ね、そうだよね、ダン!」
問い詰めるエリンに対して、ダンは笑顔で頷く。
「ああ、成り行き上、そうなっているみたいだ」
「成り行き上って、もうっ! 違うもん、運命の出会いなんだもん。ダンはエリンの王子様なんだもん」
ダンから満足な答えを貰えず、エリンはむくれてしまう。
さっきより、もっと頬を膨らませている。
フィービーが恐る恐るダンへ問う。
まるで何か、言ってはならない事を仕方なく言うように。
「え、えっと、ダン。……そ、その子、エルフに似ているけど少し違う……古文書に描かれている特徴もあるし……も、もしかして……ダ、ダークエルフじゃない?」
フィービーの声は、震えていた。
この世界でダークエルフとは、それほど禁忌の存在なのである。
創世神の怒りによって、地上を追われたという事実は重いのだ。
しかし、エリンは「ずいっ」と前に出る。
胸を張って、フィービーの方を向く。
「そうよ! 私はエリン! エリン・ラッルッカ。ダークエルフの王トゥーレ・ラッルッカの娘よ」
ダンに対して聞かれた質問なのだが、エリンは自ら堂々と名乗った。
エリンは思う。
この人達は、一体何を言っているのだろうと。
ダークエルフは美しく気高いのに。
大昔、創世神には罰せられたが、悔い改めて地下で静かに暮らして来た。
その証拠に、他の者へ何も害を加えようともしていない。
エリンは王であった亡き父を尊敬していたし、自分以外は死に絶えてしまったがダークエルフの一族を誇りにも思っている。
恥ずべき事は、一切無かった。
「アルバート、フィービー、エリンの言う通りだ。この子はエリン、ダークエルフ王の娘。そして俺の嫁……かもしれない」
エリンの事を、ダンは擁護してくれた。
しかし煮え切らないダンの言葉に、エリンは少々イラついている。
「かもしれないって、何よ、ダンったら!」
怒るエリンへ、アルバートが初めて話し掛ける。
フィービーほどではないが、エリンがダークエルフだと知って少しだけ声が上ずっている。
「な、なあ……君はエリンと言ったね」
「そうよ!」
「……悪いが、ちょっと席を外してくれないか? ダンと話があるんだ」
席を外す?
これは絶対に碌な話ではない。
あまり人を疑わないエリンにだって、すぐ分かった。
「嫌よ! エリンに内緒でこそこそ話をされるなんて」
エリンが拒否すると、アルバートは覚悟を決めたように切り出す。
「……ならば言おう。ダークエルフとは古に創世神様により罰せられ、地の底へと追われた一族だ。俺達人間とは暮らせないぞ」
ダークエルフは、人間とは暮らせない!?
アルバートの衝撃的な発言を聞いて、エリンはショックを受けたようだ。
「暮らせないって……何故? そんな事言わないでよ、おじさん!」
エリンは、また悲しくなって来る。
たったひとりのダークエルフでも、この地上で生きようとしていたのに。
大好きなダンと一緒なら、頑張れると思っていたのに。
辛い表情になったエリンへ、フィービーが追い討ちを掛ける。
ダンに向かって、ずばり言い放ったのである。
「そ、そうよ、ダン……この子は神様に呪われた一族の娘じゃない。ここに居るときっと災いが起こるから、すぐに元の地下世界へ帰って貰った方が良いわ」
フィービーの情け容赦ない言い方に、エリンは目の前が真っ暗になる。
「エリンが呪われた一族って!? 酷い、酷いわ! エリン達は地の底で一生懸命生きて来たわ。誰にも迷惑を掛けていない。それなのに……悪魔達が攻めて来て……う、ううう……」
泣き出してしまったエリンを見て、ダンが手を挙げて発言を遮る。
「アルバート、フィービー、もうやめろ! そんな事言ったら、俺だってまともな人間じゃない」
自分が、まともな人間ではない。
ダンの発言を聞いた、アルバート達の顔色が変わる。
しかし、ショックの余りむせび泣くエリンの耳に、ダンの衝撃的な言葉は一切入っていなかったのである。
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