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第169話「確固たる絆」

 慈愛の眼差しに変わったヴェルネリを見て……

 初めてダンは笑顔となった。

 

 未知で不確定ではあるが……

 光り輝く明るい未来へ、希望を持とう、信じよう、

 と促す晴れやかな笑顔だ。


「ソウェル殿。どのような常識であっても、必ず変えられる。もしそれが間違った事ならば。くだらない迷信ならば。俺はそう信じている」


「…………」


「貴方の言う通り……確かに、今の俺達は微力で、とても小さな存在だろう」


「…………」


「しかし、小さな力だっていくつも合わされば、大河のようにいずれは大きな力となる」


「…………」


「ほんの少しずつだが、真実を知る者は……同志は増えているんだ」


「…………」


「このまま、いつまでも立ち止まってはいられない。歩き出さないと何も始まらない」


「…………」


「だから俺は決めた。愛する者達の為に、たとえ茨の道でも、困難な道でも、ゆっくりとでも、まずは、第一歩を踏み出すと」


「…………」


 無言のままのヴェルネリへ、ダンは深く頭をさげた。

 そして大きな声で言い放つ。


「ソウェル殿、頼む! 俺達には貴方の力が必要だ! どうか! 力を貸してくれ!」


 ダンの真摯しんしな熱い言葉に感極まり……

 エリンが、そしてヴィリヤが叫ぶ。


「旦那様ぁ!」

「だ、旦那様!」


「な、何!」


 会話の途中から、再び沈黙を貫いていたヴェルネリであったが……

 さすがに、ヴィリヤのひと言は看過出来なかった。

 大きな声で、ヴィリヤへ問い質す、


「ヴィ、ヴィリヤ! お、お、お前っ! 今、何と言った?」


 対して、ヴィリヤも大きな声で言い返す。


「はい! ダンを、私の旦那様だと申し上げました!」


「何! こ、この勇者が!? お前の旦那様だと!」

 

「はい、お祖父様! 私はダンと! 勇者ダン・シリウスと結婚します! 共に歩いて行きますっ!」


「な! なんという事だ……」


 ヴェルネリは思わず頭を抱えてしまった。

 

 リョースアールヴは排他的、且つ純潔主義でもある。

 代々ソウェルを務める宗家アスピヴァーラ家の直系が、同族以外の人間と結婚する……

 ヴィリヤの言葉を聞き、ヴェルネリは大きなショックを受けた。


 しかし!

 敬愛する祖父の、うれいに満ちた表情を見ても、ヴィリヤは全く臆する事がない。


「お祖父様! 私はダンを愛しています! ……ここまで私を支え、成長させ、導いてくれた旦那様を心の底から愛しているのですっ!」


「むむむ……」


 頭を抱えるヴェルネリへ、ダンは言う。


「ヴェルネリ殿、貴方に俺達の確固たる絆を見せよう」


「確固たる絆?」


「そして改めて、貴方の常識をぶっ壊そう」


 もう何度……

 ダンはこのセリフを言った事だろう。

 

 しかし、正体を明かすエリンは感じる。

 相手の常識が木っ端みじんに壊れる度に……

 また信頼すべき仲間が増えるのだと。


 一方、ヴェルネリは、疲れたような表情でダンを見る。

 ヴィリヤの結婚宣言で受けたショックが、いまだに抜けていないようだ。


「私の常識を? ぶっ壊す……だと?」


 かすれた声で告げる、ヴェルネリの質問をスルーし、ダンは仲間へ声を掛ける。


「エリン、ヴィリヤ、そこに立って並んでくれ、ゲルダも一緒に」


「え? 私も?」


 自分も?

 ゲルダは一瞬、戸惑った。

 妻ではない自分を、ダンは何故呼ぶのかと?


 しかし、ダンは優しい笑顔をゲルダへ向け、断言する。


「ああ、お前も大切な家族だ。エリン、ヴィリヤと一緒に並んでくれないか」


「は、はいっ!」


 ダンから『大切な家族』だと言われ、ゲルダは心の底から嬉しかったのであろう。

 大きな声で応え、脱兎の如くエリンとヴィリヤの下へ走り、ぴたりと寄り添った。


 女子3人はエリンを真ん中にして、ヴィリヤとゲルダが並ぶ形である。

 3人は固い絆を示すが如く、しっかり手を繋いでいた。

 

 ダンは満足そうに頷き、いつもの通り、「ピン!」と指を鳴らす。

 

 瞬間!

 ダンから発する強力な魔力波オーラを、ヴェルネリは感じた。

 

 ついダンに視線を向け、ハッとしたが……

 慌てて見やれば……

 ヴィリヤを含めた女子3人のうち、あっという間に、ダンの妻エリンの容姿だけが変わって行く。


 瞳がダークブラウンから菫色すみれいろへ、髪が薄い栗色からシルバープラチナへ、そして耳も変わった。

 左右からエルフ族特有の、尖った小さな耳がぴょこんと飛び出したのである。


「ああ、そ、その娘は!? ま、まさか!?」


 驚愕するヴェルネリを見て、ヴィリヤは微笑み、叫ぶ。


「エリン、堂々と名乗って! はっきりとお祖父様へ真実を告げるのよ」


「了解! ヴィリヤ!」


 『親友』ヴィリヤに促され、エリンは思い切り息を吸い込む。

 そして吐き出しながら、一気に言い放つ。


「私は、エリン・ラッルッカ。偉大なるデックアールヴの王、トゥーレ・ラッルッカの娘よ」


 ヴィリヤとうりふたつの、ヴェルネリの美しい碧眼には……

 愛する孫娘、忠実な部下、ふたりと手を繋ぎ仲睦まじく並ぶ、美しいデックアールヴの少女が……

 胸を張り、本名と素性を告げるエリンの立ち姿が、はっきりと映っていたのである。

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