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第165話「ベルナールの決意①」

 ……冒険者ギルドマスター専用の応接室を、重い沈黙が満たしていた。

 衝撃の事実を明かした、余韻がはっきりと残っている。


「……以上で、俺の話は終わりです」


「…………」

「…………」


 ベルナールとイレーヌはは、まず変貌したエリンの素晴らしい容姿に、そしてダンの話す話のスケールにも圧倒されてしまっていた。

 

 目の前に居る『ダークエルフ』のエリンと話しても関わっても、不幸になどけしてならない。

 つまり創世神の教えは誤った伝承か、迷信である事。

 

 そして、ダンが述べた歴史の中に隠された重大な秘密の数々……

 デックアールヴの秘中の宝という『指輪と誓約書』がはっきりした証拠だ。

 

 衝撃の事実を知り、証拠の秘宝を見せられ、ベルナールは考えた。

 全ての話が真っ赤な嘘、完全な作り話だったらと……

 指輪と誓約書も後世の偽物……という可能性もなくはないと。

 しかし、そんな考えはダンに軽く一蹴されてしまった。


 リストマッティなるデックアールヴのリーダーが、一切嘘をついていないのは明白だという。

 底知れぬ魔法使いのダンは『魂の波動』から感じたという。


 そして『論より証拠』である。

 ダンはこの誓約書、つまり『オリジナル版』をたずさえ、リョースアールヴの国イエーラ、そしてアイディール王家へ乗り込むらしい。


 イエーラでは、ヴィリヤの祖父、ソウェルのヴェルネリ・アスピヴァーラへ。

 アイディール王家では、国王の弟、宰相フィリップに直接会って話すというのだ。


 結果……

 イエーラと王家の宝物庫に、リストマッティの言った通りに材質違いの指輪と同内容の誓約書が秘蔵されていた場合、それが動かぬ証拠となるのだ。


「この話が、もしも認められなくとも、それは構わない。結果イエーラと王家が支援してくれなくても仕方がない」


 両国の協力が得られない?

 それでも構わない!?


 言い切ったダンへ、ベルナールは驚き、思わず噛んでしまう。


「ダ、ダン殿っ! そ、それは、ど、どういう意味だっ!?」


「いえ、両国からの支援があれば、確かにありがたい。ですが、それよりも心の問題が大事です」


「ふむ、心の問題が大事……か。成る程……な」


「ええ、ベルナール様にも分かるでしょう? 俺達へ共感し、一緒に歩もうとする気持ちが大切なのです」 


「う、うむ! 確かにそうだ……」


「はい! 3者に固い友情が結ばれても、長い時間を経た中で、祖父、父、子と同じ考えがずっと受け継がれる保証などないのです」


「ふむ……」


「心変わりや考え方の変貌があっても、けしておかしくはない」


「な、成る程……そうかもしれないな」


「ええ、万が一、協力は不可とか、何か危害を及ぼされるなどの事態におちいれば、俺は相手が誰であれ遠慮なく『忘却の魔法』を使います」


「な! フィリップ殿下と、アールヴのソウェルにもか!」


 ダンの思い切った言葉に、ベルナールは驚いた。

 

 しかし、『エルフ』……否、『アールヴ』のヴィリヤとゲルダは平然と聞いていた。

 事前に、ダン達の中で念入りな相談があったのは間違いなかった。


 ダンは、軽く唇を噛みながら、話を続ける。


「ええ、当然ですが、まずはソウェルと殿下を説得します。ヴィリヤやベアトリス様との兼ね合いもありますから……」


 ベルナールは知らないが、妻となったヴィリヤは、自分の祖父を非常に敬愛している。

 

 そして創世神の巫女……

 フィリップの妹ベアトリスはダンを一途に慕っている。

 

「…………」


 無言となったベルナールへ、ダンは言う。


「説得がどうしても無理ならば、害のない方法で、相手の記憶を消すのです……結果、デックアールヴの案件は、最初からなかった……という事になる」


「…………」


「そうなったら、俺は事を秘密裏に運びます」


「…………」


「敢えて、俺が使者となり、3国を結ぶのは、この誓約書に記された素晴らしい遺志に報いたいからです」


「…………」


「だが、約束をたがえてそむかれたら、仕方がない。支援なしで、デックアールヴの国創りだけに邁進します」


「むう、成る程な」


「はい! そして、いくら状況が変わろうとも、スタンスは変えません」


「スタンスは変えない?」


「はい! アイディール王国開祖ゼブランは、凶暴な魔物や凄まじい災害に難儀する人々を助け、この国を打ち立てた。俺達も難儀する人々の為に働きます」


「難儀する人々の為に……働く」


「ええ、国といっても最初は冒険者が若干集まるくらいの、ほんの小さな村レベルから始まるでしょう。そこから徐々に規模を大きくして、最終的には大きな国へ創り変えて行きますよ」


「…………」


「まあ……俺が言うほど、簡単には行かないでしょう。だが個々では小さな力でも、結集すればいずれ大志は成し遂げられるものです」


「…………」


 考え込んだベルナールへ、ダンは大きな声を出す。


「ベルナール様!」


「お、おお!」


「前置きが長くなりました。ズバリ結論を言います! 俺達には、『貴方』が必要なのです。共に新国創立の為、働いてくれませんか?」


「…………」


 ダンの申し入れに対し、ベルナールはすぐに返事をしなかった。


 しかしダンは彼から答えを貰うのを、焦らなかった。


「ベルナール様……じっくり考えて返事を下さい」


「…………」


「明日の早朝、俺達はヴィリヤの屋敷から、イエーラへ向けて出発します」


「…………」


 相変わらず、ベルナールは無言であった。

 

 そんなベルナールへ、エリンが叫ぶ。


「ベルナール様! 約束を覚えているよね?」


 いきなりの、エリンの呼び掛けに、ベルナールは反応する。


「エリンさん……」


「ベルナール様、イレーヌさん、人数が増えたけれど……一緒にクランを組む約束は今だって生きているんだよ。エリン、待ってるから!」


「…………」


 だが……

 エリンの問いかけにも、ベルナールは無言で答えた。


 片やダンは落胆もせず、「予想通り」という表情だ。


「と、いう事です。ちなみに返事は、俺達が戻って来てからでも構わないです。ずっと……待っていますから」


 ダンはそう言い残すと……

 イレーヌへ辞去の意思を告げる。

 そしてエリン達を連れ、冒険者ギルドをあとにしたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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