第164話「皆が還って来る!」
勇者亭を出て、ダン達が向かったのは冒険者ギルド本部である。
元々、今回の英雄の迷宮探索は冒険者ギルドからの依頼ではない。
しかしギルドとリョースアールヴの国イエーラの大きなバックアップを受けており、双方へ報告を入れる暗黙の義務があった。
そしてダンには、重要な任務がある。
アイディール王国の元騎士でドラゴンスレイヤーと呼ばれる英雄。
ギルドマスターのベルナール・アスランを建国の『同志』として、引き入れる役目だ。
ダン達はいつもの通り、サブマスターのイレーヌにより応接へ通された。
やがてベルナールが入って来る。
迷宮探索前にギルドを訪れた際、ベルナールはたまたま不在であった。
久々にダンとエリンの顔を見た嬉しさからか、嬉しそうに目を細める。
だが王宮魔法使いのヴィリヤ、副官のゲルダが一緒に居るのを見て、
少しだけ怪訝な表情となった。
ダンが立ち上がり、一礼する。
「マスター、ベルナール。今回の救助及び調査はギルドと共に、ヴィリヤ様の故国イエーラにも多大な協力をして頂きました。ですから、おふたりが同席されるのには何の不自然さもありません」
「おお、そうだったな」
「はい、マスター! 私イレーヌの判断で全員を通しました」
「うむ、適切な対応だな、ありがとう」
ベルナールは、目を細める。
イレーヌは、日々成長していると。
柔らかい表情のベルナールを、ダンはじっと見つめた。
とても真剣な眼差しで。
ベルナールは報告書らしき書類に目を通すと、深いため息をついた。
どうやら、ダン達が行方不明者の発見等、成果を得られず……
「探索は失敗に終わった」……と思っているようだ
「ダン殿……こちらへ報告が入っている。どうやら、行方不明者の救助は叶わなかったようだな?」
「…………」
ベルナールの問いかけに何故かダンは無言、答えなかった。
苦笑したベルナールは話を続ける。
「伝統ある英雄の迷宮が、今や悪名高い人喰いの迷宮と呼ばれているのだからな。3人共、無事に戻ったのだ。それだけでも良しとすべきであろう」
ベルナールに続き、イレーヌも微笑んだ。
「マスターの仰る通りですよ、ダン殿。迷宮出張所からの報告によれば貴方がた3人は最下層地下10階まで到達したとか……大したものだと思います」
しかし……
ダンは澄ました顔で、首を横に振った。
「おふたりから、過分といえるお褒めの言葉を頂き、感謝したいと言いたいところだが……」
「むう」
「ダン殿、含みのある、その言い方は気になります……何かあるのですか?」
ベルナールは唸り、イレーヌは、ダンに尋ねた。
対してダンは大きく頷き、
「今の俺の言い方で、おふたりはお察しだと思います。今回の探索、目的はほぼ達成しました」
「何? 目的を達成した?」
「そ、それはどういう!?」
「ええ、行方不明になっていた冒険者ルネ、そしてクラン炎のメンバー達は全員無事です。俺達3人は、彼等に直接会いました」
「ほうっ!」
ミッションをクリアしたと聞き……
ベルナールは感嘆し、イレーヌはダン達の行動を訝しがる。
「で、ではダン殿! ど、どうして!」
「何故、彼等を地上へ連れて帰らなかったのか? おふたりには……当然起こる疑問ですよね」
「ダン殿……事情を詳しく説明して欲しいものだ」
「ええ、ダン殿。お願い致します」
ダンが、これから説明し明かす事は、『秘中の秘』である。
ベルナール達はゲルダやアルバンと比べ、まだダン達と『心の絆』は強くはない。
それゆえ、しっかりと念を押さねばならない。
「ベルナール様、イレーヌさん。おふたりともまず誓って下さい。これから俺が話す事は、そして見る事は絶対に他言無用だと……もし、約束を違えるのなら、ベルナール様達といえど、容赦なく『忘却の魔法』を使わせて貰います」
厳しいダンの物言いであったが、それだけに重大事と察したのであろう。
ベルナールは、ためらう事なく了解する。
「了解した。ダン殿、私の命にかけて誓おう」
「え? ベ、ベルナール様!」
片や、慌てたのはイレーヌだ。
まるで『脅し』ともいえるダンの物言いなのだ。
しかしベルナールが首を振り、「従うように」と合図をすると、覚悟を決めたようである。
「……わ、分かりました、私も! 同じく誓います」
準備完了と判断し、ダンはエリンへ『念話』を使い話しかける。
何故、肉声で頼まないのかといえば、
問題解決に必要不可欠な『儀式』とはいえ……
毎回、まるで『さらし者』のようになるエリンが、ダンにはとても不憫なのである。
『エリン、何度もごめん。まるでお前を見世物みたいにして』
『ううん、違うよ! 旦那様、エリンはね、思うんだ』
エリンは首を横へ振り、とびきりの笑顔を向けて来た。
ダンも優しく微笑み返してやる。
『ん? どうした?』
『だって! エリンが本当の姿を見せる度に、信頼出来る仲間が増えるんだもの』
『ああ、確かにそうだ。頼もしい仲間がどんどん増えて行くよな』
『でしょう? エリンはね、こうして仲間が増えると凄く嬉しいの。亡くなったお父様を始め、天へ還ったデックアールヴのみんなが還って来る、どんどん還って来る! そんな気がするの……』
エリンの笑顔と言葉に、ダンは救われる。
彼女は、いつも前向きでひたむきなのだ。
明るい性格に、誰もが惹かれてしまうから。
『成る程、そうか!』
『うん、絶対にそうだよ』
エリンは、きっぱりと言い切った。
ダンの気持ちに、穏やかに温かさが満ちて来る。
エリンを……
愛する『想い人』の気持ちを絶対に守ろうという、強い決意も満ちて来る。
『……そうだな。俺もエリンに同感だ』
『うん! だから何度やっても、全然平気よ。旦那様は、いつも上手くやってくれるもの!』
『おお、そうか?』
『うん! 本当の姿で本名をフルネームを名乗るのは、エリン、とても誇らしくて気持ち良いよ』
『じゃあ堂々と胸を張って、ベルナール様達へ名乗ってやれ』
『はい!』
エリンの力強い返事を聞き、ダンは改めて、肉声を使い、エリンを促す。
「よし! エリン、行くぞ!」
「はいっ!」
「出番だ!」という、ダンの声に凛とした声で応え、
エリンは勢いよく、立ち上がったのである。
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