第162話「アルバンの決意②」
さすがに、アルバンはムッとした。
いきなり理由も分からず、『自分だけ』がいきなり笑われたら、誰だって腹を立てるものだ。
「な、何だよ! 人を『笑いもの』にしやがって!」
思わず顔をしかめたアルバンへ、リアーヌが両手を合わせ、『ごめんなさいポーズ』で謝罪する。
「ごめんなさい! これからアルバンさんが目の当たりにする事を私も、ヴィリヤさんも、ゲルダさんも既に経験済みなの。リアクションも大方予想出来るから、つい思い出し笑いしたのよ」
リアーヌが、笑った理由を説明したが、遠回しな表現である。
アルバンには、いよいよもって分からない。
「おい……リアーヌ、何だよ。俺が目の当たりにする事って?」
「ご、ごめんなさい……まだ言えません」
昨日事実を隠した事もあり、リアーヌは再び、申しわけなさそうに謝るが……
傍らのダンは何事もなかったかのように、ふたりのやりとりをスルー。
「おっと、一応、大声が漏れないよう、昨日同様、防音の魔法もかけておこうか?」
ダンが悪戯っぽく笑ったので、女子達も同意する。
「うん、それが良いよ、旦那様」
「ダン、ナイスアイディア」
「リアーヌも大賛成です」
「以下同文」
「???」
まるで合唱のような相槌。
もう、アルバンは、何が何だか分からない……
?マークを、頭の上に一杯飛ばしていた。
だが、ここで一転。
ダンが、真剣な表情になる。
「悪いなあ、アルバンさん、散々いじってしまって……じゃあ、覚悟を持って、見て聞いてくれるか? 俺は、あんたの常識を、思いっきりぶっ壊すから」
「な? 俺の常識をぶっ壊すだと?」
「先ほど、何も悪い事が起こらなかった……あんたがはっきりそう言った事を、しっかり思い出してくれ」
「は? 何だ、それ?」
「さあ、エリン! 何度も悪いな」
「はい! 全然、構わないよっ!」
ダンの声に応え、エリンが「すっく」と立ちあがった。
「おいおい、ダン。エリンちゃんが……一体何だと言うんだ?」
相変わらず、戸惑うアルバンだが……
これからはっきりと目の当たりにする事となる。
エリンの、真の正体を。
ダンは、「ピン!」と部屋中に響くような音で、鋭く指を鳴らした。
すると、エリンにかけられていた変化の魔法が解けた!
アルバンの目の前に居る……エリンの輪郭が、ぼやけて行く……
もう、何度繰り返された光景だろうか……
しかし、エリンは感じていた。
確信と言って良い。
自分が真の姿を見せる度に、『信頼すべき仲間』がどんどん増えて行く事を。
「お、おお!……そりゃ魔法か!? おいおい! エ、エリンちゃんのか、顔が!? か、髪が変わるっ!?」
あっという間に……
エリンの顔立ちが変わって行く。
瞳がダークブラウンから菫色へ、髪が薄い栗色からシルバープラチナへ、そして耳も全く変わった。
左右からエルフ族特有の、尖った小さな耳が「ぴょこん」と飛び出したのだ。
やがて……
真の姿を見せたエリンは、「じっ」と、モーリスを見つめた。
「アルバンさん、今まで騙していて、ごめんね。これが……本当の私なの」
「おお……おおおおおっ!!!」
案の定、アルバンは思わず絶叫。
目を丸くして、言葉が出なかった。
「ほら、アルバンさん、深呼吸」
「りょ、了解だっ! さ、さ、さすがに! お、驚いたぜぇ……」
エリンの真の姿を見て……
動揺していたアルバンは、ダンに言われ、大きく深呼吸をした。
彼が魔法使いではなくとも、落ち着く方法はほぼ同じだ。
ダンは微笑み、アルバンへ労りの声をかける。
「大丈夫か、アルバンさん。気持ちを落ち着かせる鎮静の魔法でもかけるか?」
「い、いや、も、もう大丈夫だ……で、ダンよ、エリンちゃんの正体って、何なんだ?」
巷に「ダークエルフは、悪しき存在」という認識はあるが……
彼等彼女達の容姿を、世間ではっきり知る者は少ない。
創世神教会の教えにより、『邪悪』というイメージだけが先行し、誰も本当の姿を知らないのだ。
一般人のアルバンが、エリンをすぐに認識しないのも無理はない。
変身を解いたエリンの姿は、誰もが息を呑むほど美く神々しかった。
だから尚更なのである。
アルバンの質問を聞き、ダンは言う。
「アルバンさん、さっき、俺が言った話を覚えているかい?」
「あ、ああ……最近、俺の身に何か『悪い事が起こらなかったか?』という事か。何も起こってないが……ま、ま、まさか!?」
「ああ、そのまさかさ。エリンはダークエルフさ。正式にはデックアールヴという種族なんだ」
「…………」
「アルバンさんも、子供の頃、習っただろう? 創世神教会の司祭から、ダークエルフは呪われた種族だって」
「あ、ああ……習ったよ……」
「だが、そんなものはくだらない迷信さ。アルバンさん、エリンが貴方に何をしてくれたか、考えたらすぐに分かるはずだ」
「…………」
「少なくとも、ここに居る全員は俺も含め、エリンによって凄く幸せにして貰った。誰も否定しない」
「だ、だ、旦那様ぁぁ!!」
ダンの言葉に感極まったのか、エリンは大きな声で叫んだ。
深い菫色の美しい瞳が、嬉し涙で潤んでいる。
「エリン、しっかりと胸を張れ! お前は皆を励まし、前を向いて生きる熱く強い力を与えてくれた。呪いなんか、微塵もありはしないんだ!!」
「あ、あうっ!」
「それどころか! お前と話した者は全員が、笑顔となる。とても元気が出る。エリン、お前は幸せをもたらす使者なんだよ」
幸せをもたらす使者!?
呪われていると蔑まれた、この自分が!?
「だ、だ、旦那様ぁぁぁ!!!!」
エリンは絶叫し、ダンに抱きつくと、
「う、う、わああああああああああん!!!!!」
人目もはばからず、号泣してしまったのであった。
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