第161話「アルバンの決意①」
ヴィリヤの副官ゲルダへ告げた通り……
ダンはリョースアールヴの国イエーラと、アイディール王国王宮へ赴く。
デックアールヴのリーダーリストマッティから任された『大役』を務めあげねばならない。
無実の罪を着せられたデックアールヴ達がやり直す為に住まう、新たな地上の国を創る為……
人間、デックアールヴ、リョースアールヴ……
3つの種族の、心の絆を結び直す為……
遥か古に交わした約束を、きっちりと遂行して貰うのだ。
だが、その前に、ダンは行かねばならない場所がいくつかある。
まずはリアーヌの父親代わりである、居酒屋勇者亭の店主アルバン・ワイルダーに会う。
昨日、リアーヌをピックアップした際、時間等の関係上、アルバンへはちゃんとした報告を入れていない。
ルネ達生存の事実も、アルバンへは伝えないよう、リアーヌには口止めしている。
だからアルバンはいまだに、詳しい事実を知らないのだ。
改めて、ダンの口からしっかり伝えないといけない。
そんなこんなでヴィリヤの屋敷にて、早めの朝食を済ませ、ダン達はすぐに出発した。
今回同行するのははダン、エリンとリアーヌだけではない。
リョースアールヴのふたり……
新たに、ダンの妻となったヴィリヤ、そしてヴィリヤに生涯ついて行くと決めたゲルダも一緒だ。
既にアルバンには使いをやって、訪問のアポイントを取ってある。
ランチの仕込みが始まる前の午前8時に彼と会い、話をする事となっていた。
馬車は、順調に王都の道を進む。
そして約束の時間少し前に『勇者亭』へと到着したのである。
出迎えてくれたアルバンは、いつものメンバーに、『エルフ』のふたりが加わっているのを見て、少し怪訝な顔をした。
だが、何はともあれアルバン勇者亭を一旦閉め、
ダン達一行を2階の住居部分にある自分の居間へと、迎え入れたのである。
昨日ダンは、アルバンへ、ひと言だけ伝えた。
「万事が上手く行った」と。
晴れ晴れとした笑顔を浮かべるダンの言葉を聞き、とりあえずアルバンは安心した。
同じく笑顔のエリンも一緒に、無事戻って来ていたからだ。
だが、上手く助けたはずの?
クラン炎のチャーリー達は、昨日も今日も同行はしていない。
アルバンは、不可解に思った。
だが、とりあえずダンの報告を聞く事にしたのである。
「さて! アルバンさん、すまなかった。昨日はいろいろと立て込んでいたんだ」
まずダンは深く頭を下げ謝罪した。
そして迷宮探索の『結論だけ』をごくシンプルに告げる。
「喜んで欲しい。リアーヌの兄ルネは生きていた。チャーリー達も全員無事なんだ」
「な!? おいおいおい!」
アルバンは驚いた。
上手く行ったというダンの言葉に、何となく吉報の予感はしていたが……
いきなり重要な情報が、何の前振りもなく、ど真ん中へズドンと投げ込まれたからだ。
しかし、ダンはアルバンを驚きをそのままスルー。
一方的に、話を続けて行く。
「俺とエリン、ヴィリヤはルネ達に直接会った」
「何だよ、ダン。お前、話があまりにも急でストレート過ぎるぞ。リアーヌにはちゃんと言ったのか?」
「ああ、申しわけない、リアーヌには既に伝えたよ。アルバンさんには改めて、ちゃんと説明するから」
尋ねられたダンはにっこり笑うと、続いて衝撃的な発言をする。
「聞いてくれ、アルバンさん。英雄の迷宮最下層からもっと先に、失われた民の街があったんだ」
「はぁ!!?? め、め、め、迷宮の最下層から先にぃぃ!!?? う、う、失われた民だとぉ?」
「ああ、その民のひとりが、今ここに居る」
「え? ここ? そんな奴、どこに居るんだ?」
見た事もない異民族がこの部屋に、今、目の前に居る。
ダンはそう言うのだ。
思わずアルバンは、きょろきょろしたが……
部屋に居るのは、人間族にエルフ族のみ。
『失われた民』などは、見当たらない。
ここでダンは、再びアルバンへ尋ねて来る。
「俺が種明かしをする前に……アルバンさんに聞きたい」
「な、何だよ? ダン、俺に一体何を聞くんだ?」
アルバンはさっきから、ずっとダンのペースに巻き込まれっ放しだ。
反論しようにも、話が全く見えない。
防戦一方のアルバンは、ただシンプルに質問をするしかない。
ダンは何故か、悪戯っぽく笑う。
「うん、最近……悪い事ってあったかな?」
「はぁ? 悪い事?」
「ああ、アルバンさんの料理の腕が落ちて、勇者亭の客の入りがヤバくなったとか。もしかして潰れそうになっているとか?」
「馬鹿野郎! んな事あるか! リアーヌに聞いてないのか?」
「ほう」
人を食ったような、とぼけたダンの答え。
にやにやが止まらないにダンを見て、アルバンはムッとする。
「バカヤロ、ダン! ほう、じゃねぇ! 勇者亭は毎日、大忙し、大繁盛だよ。飯食いに来た客が入りきれなくて、店の外にすげぇ行列が出来てらぁ!」
きっぱりと言い切ったアルバンに対し、一転ダンは真面目な表情となった。
声の口調も、全く変わってしまう。
「そうか……不幸な事は一切無しなんだな? 他に……そうだな、アルバンさんが病気したとか?」
念を押しすぎるくらい、繰り返し聞くダン。
さっきから全く話が見えて来ないので、アルバンの気持ちも限界に達している。
「本当に何度もしつけ~な、悪い事なんか、一切ね~よっ!」
それでも我慢した、モーリスが吐き捨てるように、返事をした、その時。
「うふふ」
「ふふふ」
「うふ」
「ぷ」
いきなり室内に、女性の含み笑いが響く……
大笑いではないが、可笑しくて堪らない。
そういう雰囲気である。
ハッとしたアルバンが見れば、何と!
エリン、ヴィリヤ、リアーヌ、そしてゲルダまでが「にこにこ」していた。
ダンだけではない。
その場の『女子全員』が、いかにも面白そうに笑っていたのである。
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