第157話「笑顔いっぱい」
ダンは自らの立ち位置を明確にした。
エリンとヴィリヤふたりの夫であると。
さまよえるデックアールヴ族への全面的な協力を了承したのだ。
双方が心置きなく、遠慮なく。
つまり忌憚のない話をする準備は整った。
これから、新たなデックアールヴの国を創る為、協力し合うのだ。
リストマッティ達は、いろいろな質問と提案をぶつけて来た。
だが、質問と提案を受けるだけではない。
ダンからも逆に、いろいろ質問と提案も行った。
結果……
リストマッティは納得し決断した。
配下へも同意するように命じた。
ダンには大きな権限を与え、地上との交渉役を任せる事を。
もはや伝説であり万能の戦士と称えられる『救世の勇者』ではないにしても……
創世神の神託を受け、世界に降りかかる災いを払う勇者ダンの実力は申し分ないと判断したのである。
ずば抜けた能力だけではない。
デックアールヴ、リョースアールヴの長、直系の血筋を伴侶としており、神託をもたらす創世神の巫女がアイディール王国王女ベアトリスだ。
ベアトリスの実兄である宰相フィリップとも直接話せる間柄である。
『外交担当』として、これ以上の適任者はいない。
「勇者ダン殿には地上との橋渡し役をして欲しい」
リストマッティの申し入れは、『全員一致』で決まった。
「ダン殿、貴方を我が国の代表とし、私の責任で大きな権限を与えたい。方法も一切任せる、ダン殿なら……上手くやってくれるだろう」
「分かった、リストマッティ。俺がどこまでやれるか、分からないが……全力を尽くす事を約束しよう」
話し合いは、更に続いた。
まず、当面の目標は……
新たな国を建国するにあたり、アイディール王国、リョースアールヴの国イエーラの全面協力を取り付けるという事で一致。
但し『ダークエルフは呪われている!』という、例の強力な迷信がある為……
両国民の意識を、今すぐ完全に変えるのは極めて困難だろう、というネガティブな話にもなった。
不安げな表情を見せるリストマッティ達へダンは言い切る。
きっぱりと言う。
焦る事はないと!
アイディール王国国王と弟の宰相フィリップ、
そしてイエーラのトップである『ソウェル』ヴェルネリ・アスピヴァーラの了解を取れれば、それで良いのだと。
ダンは更に未来へのビジョンを語る。
両国の協力を得て、地上へ、『移住地』を造ると。
最初は小さな町くらいの規模にて。
『移住地』へ現状で移住可能な者達を、デックアールヴの国から少しずつ送り込む。
状況に応じて、徐々に移住者を増やし、町の規模、そして数を増やし……
最終的には新たな『国家』とする。
いずれは、地下から地上への『完全移住』を達成するのだと。
配下のひとりから出た提案も、画期的であった。
移住の早期達成の可能性を著しく高めると期待されたのだ。
画期的な提案……
それは、ダンの行使する変身魔法の活用である。
もし純粋なデックアールヴの容姿を持っていても、人間や他種族に擬態すれば、誰にも咎められず地上で暮らす事が出来るのだと。
論より証拠という。
ダンの妻、エリンが身をもって証明してくれた。
一緒に暮らしていても、何をしても、けして呪われる事などない。
現に、不倶戴天の仇だった? リョースアールヴのヴィリヤが、今やエリンの大親友なのだから。
別の種族に擬態し、一緒に暮らし行動する。
地上で『実績』を積む。
相手を騙す事となる……かもしれない。
だが、これこそ『噓も方便』だといえよう。
長年に亘って染みついた、強固な迷信を打ち破るのは、並大抵の方法では難しいのだ。
ダンからは、新たな国の民が、生業とする『仕事』も提案された。
それは……『冒険者』である。
冒険者と簡単にいっても、単に己の欲求や利益のみを追い求めるのではない。
ダンは、リストマッティ達へ……
現冒険者ギルドマスター、ベルナール・アスランの身の上話をしたのだ。
愛する妻の死と共に生まれたベルナールの一粒種、愛息ディーンの『真の騎士』への想い。
ディーンが信念を貫いた為に起こった悲劇を……
そして、前ギルドマスター、バイロン・ウェブスターから託された遺志をベルナールが継ぎ……
単なる荒くれの集団だった冒険者ギルドを、著しく変貌させた事を……
この崇高な思想を、デックアールヴの新たな国へも導入すると。
精鋭を選び、アイディールとイエーラの両国は勿論、世界各地で困った人々の為に尽力する。
こちらも地道に『実績』を積めば、道は開けるとダンは強調した。
実績に伴う人々の感謝と信頼が、つまらない迷信など必ず打ち砕くのだと。
ダンの提案を聞き、リストマッティ達は大きく手を叩き、賛同した。
デックアールヴの国にはかつて冒険者であった英雄ゼヴランと実弟ローレンスの血筋と遺志が脈々と受け継がれていると。
リストマッティは、目を輝かせる。
「ダン殿、呪われ蔑まれた我が国の民が、難儀する人々の為に働く冒険者を生業とする。それも広い世界をまたにかけてか! ……貴方の考えは、何と素晴らしいのだ!」
「これくらいは、誰でも簡単に思いつく事さ」
「いやいや謙遜だな……ふふ、成る程……冒険者か」
と、リストマッティは呟き、期待に満ちた眼差しを遠くする。
古の先祖達へ思いを馳せているらしい。
「……この道を行く事こそが、かつて一介の冒険者であった兄のゼヴランと弟のローレンス、人間とデックアールヴ、両種族を救い、偉大なる英雄となった『アイディール兄弟の導き』なのだろう……私は、ぜひ実現すべきだと思う!」
こうして……
ダン達の役割が決まった。
リストマッティ達との話し合いが終わり、デックアールヴの『仲間』となったダン達は……
リアーヌの兄ルネやクラン炎のチャーリー達とも再び会い、思う存分話し込んだ。
当然ながら、ルネ達は、ダン達を大いに歓迎してくれた。
そしてエリンと、ヴィリヤの『正体』を知り、驚き且つ喜んだ。
これで、心置きなくがっちりと手を携え、目標に向かって共に邁進する事が出来る。
実は、チャーリーから、偽らざる本音も出たのだ。
すぐ地上へ帰れると。
「何よ、チャーリーったら。俺は帰らないぞ、この国に絶対留まるとか言って! カッコよさ台無し!」
怒った? エリンから……
小さな可愛い拳骨で、頭をぐりぐりされ、悲鳴をあげるチャーリー。
それを見て、クラン炎のメンバーは勿論、ルネまでもが笑った。
ダンもヴィリヤも釣られて、笑っている。
「ぐりぐり」したエリンも笑っている。
チャーリーも、痛みなど吹き飛ぶくらい、思いっきり笑っていた。
誰もが……
希望に満ちた、未来の到来を予感し、笑顔がいっぱいに満ちていたのである。
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