第156話「必然たる理由④」
名乗り素性を明かしたエリン。
対して、リストマッティは、いくつかの質問をした。
だが、まさに立て板に水。
エリンが、何のためらいもなく、「すらすら」と質問に答えると……
リストマッティは、小さく頷き大きなため息をついた。
「……間違いない。やはり貴女様は……ラッルッカ王家のエリン様……しかし、何という数奇な巡り合わせだろうか……」
どうやら……
リストマッティは自分の持つ『尺度』で、
エリンが『本物』かどうか、『最終確認』をし、納得したようだ。
いくつか尋ねた質問は、当然ながら全てが『正解』であった。
頃合いと見たのか、ダンは再び話を切り出した。
「さてと……リストマッティ、俺の話はまだ終わりじゃない。協力するふたつめの理由も、貴方にはしっかりと聞いて貰おう」
「協力するふたつめの理由? ああ……そういえば、そうだったな」
主筋の『エリン登場!』で、リストマッティは、大きな衝撃を受け、且つ感動もした。
だからなのか、あまり気のない返事だ。
これ以上の衝撃は、まずないだろう……
『エリン登場』を超える大サプライズは。
リストマッティの表情がそう物語っていた。
しかしダンは気にしない。
更に言う。
「ふたつめの理由とは、これまた我が嫁なんだ」
「ほう、もうひとつの理由も貴方の妻とは? ……もしや、そのリョースアールヴのゲルダなる娘も、ダン殿の妻……という事なのだな?」
「その通りだ」
「ふむ、つまりはこういう事か?」
再びダンへ『丸投げ』せず、リストマッティは何か考え、『解答』を出す雰囲気だ。
一方、ダンは微笑みながら、無言で待っている。
「ダン殿、私達へのもうひとつのサプライズが理解出来た」
「…………」
「ダン殿は、エリン様と夫婦というだけではない。そのリョースアールヴの女性とも夫婦なのだと言いたいのだな?」
リストマッティは抱き合うエリンとヴィリヤを見て、嬉しそうに笑った。
片や、ダンは短く言葉を返す。
「そうだ」
「うむ、成る程。少しだけ驚いた」
「…………」
「しかし……私はとても素晴らしいと思う。デックアールヴのエリン様とリョースアールヴのその女性はとても仲がよろしい。これからの新たな我が国を象徴するような、種族の隔たりをなくした、寛容的な家族構成だといえる」
「ああ、俺も同じくそう思う。だが、まだ充分な答えではない」
「な、何? 充分な答えではないと?」
「そう、不充分だ。100点満点として、たった30点といったところだな」
「さ、30点?」
「貴方が驚く、もっと凄いサプライズがある」
「私が驚く、もっと凄いサプライズ?」
これ以上は堂々巡り。
リストマッティとの会話は不要……
ダンは、そう考えたらしい。
いまだに、エリンと抱き合ったままのヴィリヤへ、声をかける。
もはや偽名で呼ぶ必要はない。
ヴィリヤと、気持ちをこめ、本名で彼女を呼ぶ。
「よし、ヴィリヤ。スタンバイしてくれ」
「は、はいっ!」
ヴィリヤが大きな声で返事をし、エリンに微笑む。
対して、エリンはエールを送る。
「うふふ、今度はヴィリヤが起こすサプライズだよ、頑張って!」
「うんっ!」
これまたエリンへ笑顔で戻し、「すっく」と立ったヴィリヤ。
3人の会話を聞いたリストマッティは、怪訝な表情となる。
「ん? ヴィリヤだと? 昨日、私が聞いた娘の名とは違う」
擬態したヴィリヤは、彼女の副官ゲルダに擬態していた。
名前も、ゲルダだと告げていた。
リストマッティの注意力と記憶力は大したものである。
さりげなく、ダン以外もチェックしていたらしい。
「さすが!」と、意味なのだろう。
にやりと笑うダン。
「はは、リストマッティ、この子の名を良く覚えていたな」
「うむ、確か……彼女の名は、ゲルダというのではないのか?」
「いや、ヴィリヤで間違いない。じゃあ、行くぞ!」
ダンはそう言うと……
先ほどエリンの変身魔法を解除したのと同様に、指を「ピン!」と鳴らした。
「おお、まさか! ……その娘にも、変身の魔法をかけていたのか?」
リストマッティの驚く言葉とほぼ同時に……
ゲルダに擬態したヴィリヤの輪郭がぼやけ始めた。
……やがて、全く違う容貌の、別人たるリョースアールヴが現れる。
さらさらの長い金髪をなびかせ、美しい菫色の瞳を持つ、先ほどより若干華奢な体躯……
しかし別人のリョースアールヴが現れたのは、リストマッティにとってさほど驚くべき事ではない。
想定範囲内といったところだ。
「ほう、エリン様とは、また違う美しさ! それがヴィリヤ殿、本来の姿なのか?」
「ああ、そうだ。さあヴィリヤ、お前もエリンと同じく堂々と名乗ってやれ」
「はいっ、ダン」
ヴィリヤはまたも、「はきはき!」と答え、大きく胸を張った。
昨夜のヴィリヤであれば、こんなにも自信に満ち溢れ、晴れやかな気持ちには、ならなかっただろう。
しかし……
夫ダンの真摯な言葉による熱い励ましが……
優しく包み込む、同志エリンの母性を感じさせる優しさが……
悩み惑い苦しむ傷心のヴィリヤを、しっかりと支えてくれた。
大切な家族として、しっかりと支えてくれたのだ。
だから、ヴィリヤはもう怯えず臆しもしない。
冷静且つ穏やかな表情で前を向き、堂々と言い放つ。
贖罪を決意しただけではない。
未来への明るい希望も心には満ちていた。
ふたつの確かな想いをこめ、ヴィリヤは、はっきりと名乗るのだ。
「リストマッティ殿、そしてみなさん、私もダン・シリウスの妻。本当の名は、ヴィリヤ・アスピヴァーラと申します」
「え、アスピヴァーラ? ま、まさか!」
「はい! 間違いなくアスピヴァーラです。罪深き我が一族の行いを、私からも改めてお詫び致します」
ヴィリヤはそう言うと、深く頭を下げた。
リストマッティ達は、呆気に取られている。
「ヴィ、ヴィリヤ殿、申しわけない。あ、貴女の名を! もう一度言っては貰えまいか」
「はい! かしこまりました。私は、ヴィリヤ・アスピヴァーラ。リョースアールヴの長ヴェルネリ・アスピヴァーラの孫娘なのです」
「おおおおおっ!?」
リョースアールヴの長の血を引く、直系の娘!?
このヴィリヤまでもが、ダンの妻!?
4代目テオドルが謝罪する姿を、彷彿とさせるヴィリヤの姿……
エリンの正体に続き、全くの想定外といえる衝撃の事実に……
リストマッティ達は驚愕し、大きくどよめいたのであった。
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