第154話「必然たる理由②」
「あ、貴女が!? トゥ、トゥーレ・ラッルッカ……陛下の娘!? エリン・ラッルッカ様だとぉ!? ま、まさかぁ!」
「ええっ!」「おおおっ!?」「そんなぁ!」「嘘だろう!」
エリンによる、衝撃の告白……
リストマッティは勿論、配下達も大きな動揺を隠せない。
ダンへ話した際には、ラッルッカと尊称をつけず呼び捨てにしていたのに……
娘であるエリンが目の前に居るとあって、さすがに主筋として呼ぶ気持ちが湧き起こったのだ。
しばらくリストマッティ達全員が発する声は、はっきりした言葉にはならず、ただ唸っているのみであった。
傍から、ひと目見て分かるほど息も荒くなり、今にも切れそうだ。
さすがに、見かねたダンが言葉をかける。
「大丈夫か? だが、貴方も魔法使いだ。このような時は……どう対処すべきか分かるだろう?」
「ああ、ダ、ダン殿! そ、そうか! こ、こんな時は! き、気持ちを静め、お、落ち着く為には……こ、呼吸法を使うのだな?」
ダンの質問に対する、リストマッティの答えは正解だった。
魔法使いの使用する呼吸法は、体内魔力を高めるのと同時に、精神を落ち着かせ、集中する効果もある。
リストマッティの答えを聞き、満足そうなダンは微笑み、頷く。
「正解! その通り」
「い、今の! 私達には、あ、ありがたい、助言……だ。い、痛み……入る」
ダンに向かい、微笑み、礼を言うストマッティ、そして配下の者達も……
懸命に息を整え始めた。
リストマッティ含め魔法使い達は呼吸法、以外の者は深呼吸を使い……
す~は~、す~は~、す~は~、す~は~……
エリンだけが、「すっく!」と立つ部屋。
リストマッティと配下達の、大きな息遣いが響いていた。
やがて……
リストマッティ達は、ようやく落ち着いた。
頃合いと見て、ダンは意味ありげに問い質す。
「では、リストマッティ。改めてエリンの話を聞く、心構えは出来たか?」
まだ驚く事があるのかと、リストマッティは、戸惑いの表情を見せる。
「こ、心構えとは?」
「ああ、エリンがこれから話すのは、貴方達にとって、悲しく辛い話だから」
「悲しく? 辛い話? な、何だ?」
「よし、単刀直入に言おう。あなた方の王ラッルッカと同族達は……エリン以外、誰も生き残ってはいない」
ダンが、いきなり!
あまりにも厳しい現実を告げると、リストマッティの驚きは頂点に達した。
「な、な、な、何だとぉぉぉ!!!」
「あああっ!」「おおおおっ!」「うぐぐぐぐっ!」
リストマッティ達が、大きな衝撃を受けるのも無理はない。
考え方の相違から、遥か昔に袂を分かったとはいえ……
主筋の王家一族と数少ない同族の仲間達が、既に死んだと聞かされたからだ。
思わず頭を抱えるリストマッティ達。
果たして話を聞ける状態なのか……
ダンは、再び尋ねる。
「リストマッティ、まだ落ち着く時間が必要なのか?」
しかし、リストマッティは首を横に振った。
早く、エリン達の身に起こった事を!
悲劇の事実を知りたい!
そんな気持ちが、はっきりと顔に表れていた。
「い、いや! き、聞こう! ダン殿、どうやら貴方は全てを知っているようだ! い、一体、何があったのかを」
リストマッティは、厳しい現実を何とか受け止めたらしい。
ダンの見る限り、とりあえず話は進められそうだ。
「分かった、話は俺ではなくエリンからさせよう。臣下の礼などとらず、座ったまま聞いてくれないか」
ダンは、エリンへ向き直り、
「エリン、どうだ? 彼等に話せるか?」
と、尋ねた。
エリンは、既に気持ちを固めていたのだろう。
「ええ! 大丈夫よっ!」
と、答えた。
しかし、エリンがこれから話す内容は……
折角ふさがった彼女の心の傷を、自ら開く行為である。
「けして無理をするな、辛くなったら、すぐに手を挙げてくれ……俺がフォローする」
「あ、ありがとう! 旦那様」
エリンは、大きく息を吐くと……
リストマッティ達を見据えながらも、遠い目をし、記憶を手繰った。
かつて自分も地下世界で暮らしていた事を、ゆっくりと話し始めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エリンは……話し続ける。
彼女が地下都市で生まれた時から、子供時代の思い出までを楽しそうに。
対して、リストマッティ達は、興味深そうに聞いている。
そして、いよいよ話は佳境へと入った。
ある日、突如!
怖ろしい悪魔王アスモデウスとその軍団が現れ……
平和に暮らしていたエリン達の国へ、一気になだれ込んだのだ。
不意を衝かれた形ではあったが……
王トゥーレ・ラッルッカは、あっさりと降伏はしなかった。
選り抜きの配下を率い、抵抗し、懸命に戦った。
エリンも父と共に、持てる力で死力を尽くして戦った。
しかし……
悪魔達の圧倒的な力に敵う筈もなく……
男達は容赦なく殺され、女達はオーク共におぞましく犯された後、
喰われ……
無念のうちに死んで行った……
繰り広げられる戦いの様子を、
エリンは、何とか話してはいたが……
むごたらしく殺される、父や仲間達の姿が、鮮明に甦ったのだろう。
話す声が、だんだん小さくなり……
遂には、黙り込んでしまったのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。




