第151話「気休めはやめて!」
暗く深き地下とは思えない広大さと明るさ……
リストマッティ率いる、デックアールヴ達が造り上げた、この巨大な地下都市は……
以前、エリンが住んでいた街の様相と酷似していた。
ラッセとその配下に先導され……
ダン達は3人並んで手をつなぎ、街中を歩いて行く。
真ん中にダン、右側にエリン、左側にヴィリヤという並びだ。
巨大な魔導灯が照らすお陰で、地下の街ではあるのだが、とても明るい。
エリンの目は遠くなり、虚空を見つめる。
自分の故郷は……
悪魔共により徹底的に破壊され、単なる瓦礫となった……
今や何もなくなり、暗黒の空間が広がるだけ……
命ある者は皆無……であろう。
しかし、目の前にあるこの街は違う。
とても活気があり、多くの人々が行き交っている。
見やれば……
エリンと似た、デックアールヴの美しい女が歩いていた。
かと思えば、人間族のたくましい戦士が店らしき場所で、店主と笑顔で歓談していた。
また……
華奢で小柄な体格の、リョースアールヴの魔法使いらしき男が露店を出し、何か物を売っている
更に、リストマッティ同様……
ダブル、またはクオーターと見られる者も大勢居たのである。
これほどに地下深き、地上とは隔絶された世界なのに……
街を歩く者、皆が楽しそうに、そして生き生きとした表情をしている。
誰もが種族間の、つまらない偏見を捨てていた。
これから待ち受ける素晴らしい未来を夢見て、邁進しているからに違いない。
エリンは気になって、ついヴィリヤを見た。
やはりヴィリヤは、ショックを受けたままである。
ダンに手を引かれ、力なく、まるで夢遊病者のように歩いていた。
歩く事、約15分……
ダン達が案内されたのは、リストマッティの別宅のひとつだという、こじんまりした建物であった。
3間続きの部屋であり、エリンは懐かしそうに見渡していた。
やはり、デックアールヴの建築様式なのである。
部下のラッセ達は、一礼して引き下がる。
「護衛を残すので、何かあれば」と言う。
ダン達が、勝手に外出したり、居なくなっては困るだろうから……
多分、『監視役』も兼ねているに違いない。
こうして、室内が、ダン達だけになると……
「エリン、おいで」
ダンが、まずエリンを呼ぶ。
エリンは、「待っていました!」とばかり、思い切りダンの胸へ飛び込んだ。
愛する妻を優しく抱き締めながら、ダンは言う。
「エリン、お前の正体を彼等に明かそうと思う。だがエリン自身は、どう考える」
「うん! あの場で、ずっとずっと……言いたかったよ。本当は私もデックアールヴだって! 貴方達と同じ一族だよ、仲間だよってね」
「じゃあ、……今後、俺達はリストマッティに協力する……それで構わないな?」
「ええ、私は、ラッルッカ家唯一の生き残りだもの。……デックアールヴの為に、地上へ新たな居場所を作れるように頑張りたい」
「そうだな、俺も全く同じ考えだ。エリン、お前の夫として尽力したい」
「うん! これからは、ルネさんとも、チャーリー達とも、皆で力を合わせて働けるなんて、凄く凄く嬉しいよ」
「分かった! じゃあ、次回、リストマッティ達と会った時に、変化の魔法を解除し、デックアールヴであるお前の正体と、本当の身分を告げよう」
「了解!」
エリンの心地よい返事を聞き、ダンは彼女をそっと放すと、
「ヴィリヤ……」
と呼び、次にヴィリヤを柔らかく抱き締める。
部屋に入ってからも、ヴィリヤはずっと元気がなく無言だった。
襲って来る辛さと来るしさを、じっと耐えていたのだろう。
しかし、ダンの優しい抱擁が合図だった。
「うう、ううう……うわあああああ~ん」
抱き締められたダンの温かい手により……
ヴィリヤの心の堰が切れた。
悲しみに暮れた、ヴィリヤの号泣する声が、部屋に大きく大きく響き渡った。
ダンはヴィリヤを抱き締める。
泣きじゃくるヴィリヤを、大事にそっと包むように……
そして告げる。
「ヴィリヤ、俺はさ、お前の中に貴いアスピヴァーラの血が、確かに流れていると確信したよ」
「ううう……え、え? と、貴い?」
ダンの意外な言葉を聞き、ヴィリヤは嗚咽しながら、驚いた。
今のヴィリヤは、自身の血を呪っていたからだ。
醜い嫉妬から……
虚言を弄する、汚いやり方で陥れる……
今迄、親しく暮らしていた心優しき仲間達を、死にも等しい地の底へ追いやるなんて……
愚かだ!
最低だ!
……自分にはそのような汚く下劣な血が流れている……
そんなアスピヴァーラの血が?
貴い!?
どうして!
何故?
気休めの為に、いい加減な事を言うならば……
いくら大好きなダンでも……
私は嫌いになる!
ヴィリヤは思わず、ダンに怒りを覚え、「きっ!」と睨んだのであった。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。




