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第15話「いきなり、お泊り④」

 飲んで食べて騒いで……かしましいダンとエリンの夕飯が終わった。


 ダンにとっては、この家に住み始めてから、このようににぎやかな夕飯は初めてであった。

 エリンにとっても、こんなに喋りながら食事を摂った経験などなかった。


 生まれて初めて食べた、地上の食材を使った料理の美味さは勿論だが、エリンはことのほかワインが気に入ったようである。

 最初の赤ワインの杯を美味そうに飲み干すと、続けて白ワイン、お代わりして赤ワインと間を置かずに「くいくぃ~っ」と飲んでしまったのだ。


 酒を飲んだ事もなかったエリンが、3杯も飲んだワインの影響はすぐに表れた。

 酔いが回ったエリンの顔は、ほのかに赤く染まり、口が極端に滑らかになったのである。


 酔ったエリンは……喋る、喋る。

 まるで機関銃のように。

 話の内容はというと、所詮は他愛もないもので、殆どがダンに甘えるものであった。


 ダンもエリンに甘えられるのが、嫌ではない。

 むしろ嬉しい。

 

 しかし、ついふたりで楽しく喋っていたら、エリンが調子に乗って更にワインを飲もうとする。

 

 それを見たダンは、慌てて止めた。

 エリンが素直に言う事を聞いてくれたから良かったものの、これ以上飲み続けたらどうなるかと思い、ダンは今後が心配であった。


 そんなダンの心配など、どこ吹く風というように、エリンはほろ酔い状態である。


「食べた、食べたよぉ、ダン。美味しかったぁ、エリンはお腹いっぱ~いっ、うふふふっ」


「こら、エリン、この酔っ払いめ」


「ええ? 酔っ払いって、な~に? エリンはとっても気持ち良いよぉ。これって、ワインのせい? ダン、教えて~」


 しなだれかかるエリンを、しっかりと受け止めてダンは言う。


「しゃあないな~、寝るぞ、エリン」


「うい~、寝るのぉ? じゃあ、これからエリンと子作りするんだよねぇ?」


 いきなり出た爆弾発言。

 ダンは思わず吹き出した。


「ぶっ! しね~よ」


 ダンの即座の却下に、むきになったエリンは絡む。

 酒の、勢いもあって絡みまくる。

 

「ダ~ンったらぁ!!! 何で何で何で~、エリンが嫌いなのぉ。エリンはダンの子供がい~っぱい欲しいのっ! あう~、眠いよぉ~、ダ~ン!」


 エリンはぶつぶつ言いながら暫くダンに甘えていたが、遂に限界が来たのだろう。

 ダンの胸の中で、「こてん」と寝てしまった。


「しゃあないなあ」


 ダンは、眠り込んだエリンを軽々と抱き上げた。

 いわゆるお姫様抱っこである。

 「そっ」とベッドまで連れて行く。


 飛翔しながらエリンを抱えて分かったが、彼女の身体はとっても華奢である。

 しかし、反則ともいえるのが、その見事な胸であった。

 まるで高い山のようにふたつ突き出ているのだ。


 「ど~ん」と迫り来る、見事なエリンのおっぱい。

 目のやり場に困りながらダンは呟く。


「ふう、同じエルフでも、あいつとはえらく違うもんだ」


 今の言葉を聞く限り、ダンには他のエルフの知り合いもいるらしい。

 エリンを、自分の粗末なベッドに寝かせたダンは、優しく毛布を掛けてやった。


「むにゃ……ダン……エリンを置いて……どこにも行っちゃ……ダメなんだ……からぁ……」


「分かったよ……」


 エリンの発した寝言を聞いて、ダンは苦笑した。

 成り行きで拾ってしまったが、暫くはエリンをこの家に置くしかない。


 ずっと地下で暮らして来た王族の箱入り娘だから、地上の事が分からないのは致し方ないが、エリンはあまりにも世間知らずだ。

 それ故に、無防備で危なっかしい。

 このまま突き放したら、どこぞで悪い奴に騙されて、酷い目に合うのは明らかである。

 

 ダンは思う。

 そんな薄情な事は到底出来ないと。

 

 ……ダンの心の中に大きな変化が表れていた。

 いつもの自分なら、かかわりがないと、置いてくる筈だったのに……


 ダンは改めてエリンを見る。


 ずっと悪魔共と戦い続けて来たエリンは、やっと争いから解放され安住の地を得てホッとしたのだろう。

 ダンが見守る中、安心しきって気持ち良さそうに眠っていた。

 

 エリンの無邪気な顔を見てダンは「ふっ」と笑う。

 喜びがこみ上げて来る。

 「エリンを救って本当に良かった」と強く感じている。

 絶対に守ってやらなければと思う。


 自分に可愛い笑顔を向けて、こんなに慕ってくれる女の子が居るのだ。

 いつもは『仕事』を終えて帰宅しても、虚しさしかないのに今夜は全然違うのだ。

 

 暫く見守ってエリンが、完全に寝たのを確認すると、ダンは床に予備の毛布を敷いて横になった。


 先の事は全くといっていいほど分からないが、暫くこのダークエルフのお姫様と暮らす……

 いつもはひとりきりで食べる味気ない夕飯も、エリンと一緒に食べると確かに楽しかった。


 まあ……良いか。


 大きく息を吐いたダンは、やがて深い眠りに落ちて行った。

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