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第149話「運命の岐路③」

 リストマッティの言う大きな転機とは、一体何なのだろうか?

 ダン達は注目した。


「私達の先祖にとって、大きな転機とは……人間の、ある冒険者との邂逅だった。全くの偶然にて出会ったものだ。運命の巡り合いと言って、過言ではない」


「…………」


「迷宮の奥深くへ来たのは若い男だった。目的は、所在不明となった身内を探しに来た事」


「…………」


「行方不明となった、冒険者の弟ローレンスを探す為、その男は迷宮を訪れたのだ」


「…………」


「その冒険者の名こそ……ゼヴラン・アイディール」


「…………」


「後に……人間の王国アイディールを打ち建て、開祖となる若き英雄さ」


 古から伝わる伝説の通りに……

 この『英雄の迷宮』にはアイディール王国開祖ゼヴラン・アイディールが訪れていたのだ。

 更に、リストマッティの話は続く。


「ゼヴランは私達と会った。じっくり話し、隠された真実を知った」


「…………」


「そして彼は……既に私達が救い、保護していたローレンスとも会い話した……弟よ、一緒に地上へ帰ろうとね」


「…………」


「だが、弟ローレンスは兄の申し出を断った……地上へは戻らない意思を示したのだ」


「…………」


「無実の罪で地上から追放されるという哀しい運命を背負ったデックアールヴの民を救う為に」


「…………」


「この暗く深い地の底に新たな国を作る為に、己の身体を張って力になる。ローレンスは……兄ゼヴランへ強く熱く訴えたのだ」


「…………」


「ゼヴランは……愛する弟の気持ちを理解し認めた。そして崇高なこころざしと強固な意思に感動し、はっきりと約束してくれた」


「…………」


「自分は、またこの国へ戻って来る。何を置いても弟ローレンスの力に……すなわち私達の力になると固く誓ってくれた」


「…………」


「その約束は、すぐに果たされた」


「…………」


「ゼヴランは、それから何度も何度も迷宮の底へ来てくれた。地上における多くの情報と大量の物資を運んで来てくれた」


「…………」


「ゼヴランが迷宮へ来るのは、愛する弟ローレンスの安否を気にして会う為なのは勿論だが……彼自身、迷宮が己の心身を鍛錬する為に、うってつけだと気付いていたからだ」


「…………」


「結果、ゼヴラン・アイディールは持てる才能を開花させ、技量をたっぷり磨いた……そして多くの者達から『勇者』と称されるまでに成長した」


「…………」


「そんな……ゼヴランの最も大きな功績は……当時のリョースアールヴの長を説得し、この国へ連れて来てくれた事なのだよ」


「ええええっ!」


 思わず、ヴィリヤが叫んだ。


 無理もない。

 リョースアールヴの長が、まさか、この国へ……

 仇だと憎まれたデックアールヴの国を訪れていたとは。


「元々、ゼヴランは、リョースアールヴの長とは親しかったらしい。現在のアイディール王国とリョースアールヴの国イエーラの関係を見ても納得出来る話だ」


「…………」


「そして、驚いた事に……4代目にあたるリョースアールヴの長テオドルは、自分の祖父が犯した深き罪を知っていた」


「…………」


「私達を陥れた2代目リョースアールヴの長は……結局良心の呵責に耐えられなかったのか……後に、3代目の長となる自分の息子へ、全てを告白していたという。息子へ懺悔し、犯した罪をあらいざらい話したのだ……」


「…………」


 またもヴィリヤの常識が思い切り壊されて行く……


 呪われている、忌み嫌われている、デックアールヴことダークエルフは汚らわしい種族……

 子供の頃から、散々そう教えられて育って来たヴィリヤなのに……

 

 全てがねつ造であった。

 真っ赤な嘘であり、偽りだった。

 逆に、絶対に許されない罪を犯していたのは……

 リョースアールヴの方だった。


「ゼヴランに連れられ、訪れたテオドルも、3代目の長である父から告げられ、真実を知っていた。そして改めて謝罪した。何と土下座をしてな……誇り高いリョースアールヴの長が、だ」


「…………」


「テオドルは地上へ戻る前に誓ってくれた……私達がいつか地上へ戻りたいという望郷の気持ちを知り、陰ながら協力すると約束してくれたのだ」


「…………」


「だから私達は長年の恨みつらみを捨てた……寛容さを持ってリョースアールヴを許した。過去を捨て、前を向き、新たな道へと歩き出す為に……」


「…………」


「それからだ……従来は迷宮で見捨てていた、リョースアールヴの者も助けるようになった。当該者の意思を確認の上、希望すれば新たな民として迎える事になったのだ……」


「…………」


 ここで、リストマッティは、ゲルダに擬態したヴィリヤへ視線を向ける。


「そこなリョースアールヴ。……確かゲルダと言ったな……」

 

「…………」


「もし地上へ戻ったら……あるじのアスピヴァーラ家へ、当主ヴェルネリ・アスピヴァーラへ対し、尋ねるが良い……慎重に、人払いをしてな」


「…………」


「6代目の長ヴェルネリもこの真実を知っている。そして、4代目の長テオドルの遺志を継ぎ……私達へ援助もしている。一族の他の者には絶対に知られないようにしてな……」


「…………」


「……但し忠告しておこう。言葉を選び上手く意思を伝えないと……禁じられた秘密を知る者として、お前はヴェルネリに殺されるぞ」


「…………」


「私が話した事の、具体的な証拠は……ゼヴランの弟ローレンスの発案による品物だ」


「…………」


「ゼヴランとテオドル、ローレンスの3者連名、未来永劫に協力を誓う書面、そしてアイディール王国とリョースアールヴ族の紋章、そしてローレンスの名が刻まれた銀の魔法指輪だ」


「…………」


「全く同じ書面の写し、そして同じデザインの金の指輪がアイディール王国に、プラチナの指輪がリョースアールヴの国、イエーラにあるはずだ。今迄、国民に所在を明かした事のない、秘中の国宝としてな……」


「…………」


「そして私達には……書面のオリジナルと、銀の指輪がある。3者の友情のあかしだ」


「…………」


「その後……ローレンスは……その人柄と実力、そして数多の功績を認められ、人間でありながら、デックアールヴ達の指導者となった」


「…………」


「最後に言っておこう……この私、リストマッティはローレンスの子孫なのだ」


「む!」

「え?」

「え?」


 さすがにダン、エリン、ヴィリヤから驚きの声が漏れた。


 デックアールヴ達から、ソウェルと称えられるリストマッティは、やはり純粋なデックアールヴではなかった……

 『英雄』『勇者』と称えられた人間ゼヴラン・アイディールの、血縁者なのである。


「人間が……神に近い英雄として、ゼヴランを崇拝するのも分かる。彼は、心身とも素晴らしい人物だったからね」


「…………」


「だが弟のローレンスの方が……私達、デックアールヴにとっては未来永劫称える英雄なのだ」


「…………」


「私は……ローレンス・アイディールの血を引く子孫である事を、心の底から誇りに思う」


 リストマッティはそう言うと、子供のように無邪気で誇らしげな笑顔を見せたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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