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第147話「運命の岐路①」

 『ソウェル』リストマッティは、軽く息を吐き、ゆっくりと話し出した。


「では……私から話をしよう。少々長くなるが、我慢して聞いて欲しい。質問は、とりあえず控えてくれ」


「………」


 まずは話を聞いて貰う。

 そして状況を理解して貰う。

 質問をされると、話がその度にとどこおるのを懸念しているらしい。


 どちらにしても……

 いよいよ迷宮とリストマッティ達の秘密が明かされる。


 そんなリストマッティの話を、ダンとエリンは割と平静に聞いていた。

 片や、ヴィリヤはといえば、少々緊張しているようだ。


「それと私の話に、嘘偽りは全くない、創世神様に誓おう」


「…………」


「世界が原初と呼ばれる、神代かみよの頃……まだ人の子が存在しない時代の事だ……創世神様の偉大なるお力により、ふたつの種族が生まれた。両種族ともアールヴと呼ばれる種族だった」


「…………」


「先に生まれたのは……デックアールヴと呼ばれる種族だ。身体は頑健で健康的な美しさにあふれ、素晴らしい運動能力を持つ。様々な魔法にも長け、バランスに優れていた」


「…………」


「次に……もうひとつのアールズ族、リョースアールヴが生まれた。身体こそ華奢だが、透明感のある美しい容姿に恵まれ、知恵と魔法に長けた種族だ」


「…………」


「ふたつの種族は……同じアールヴ族として、ずっと仲良く暮らしていた。争いなど一切起こさずに」


「…………」


「ここで……アールヴ族の長ソウェル、本来の意味について説明しておこう」


「ソ、ソウェルの、本来の……意味?」


 ヴィリヤが小さく呟く中、リストマッティは話を続ける。


「うむ、ソウェルとはな……」


「…………」


「元々、両アールヴ族を束ねる者を指す称号であった」


「え?」

 

 ソウェルとは……

 リョースアールヴの長だけを指す称号ではなかった……

 両アールヴ族をまとめる者。

 ヴィリヤの心に、大きな衝撃が走った。


「まあ……言葉自体の持つ意味は全く変わっていない。分かるだろう? 地上に振り注ぐ光の大元、太陽……という意味だ」


「…………」


「両者の長同士がいろいろと話し合い折り合いはついた……結局、初代ソウェルはデックアールヴ族の長ラッルッカが就任した」


「ラッルッカ……」


 今度はエリンが呟いた。

 ラッルッカは自分の『姓』である。

 一方ヴィリヤは大きく目を見開き、ぎゅっと拳を握り締めていた。


「しかし……両族の平和は長く続かなかった。まもなくリョースアールヴ初代の長が亡くなり……跡を継いだ若き2代目の長が、よこしまな野心を抱いた」


「え? 邪な野心?」


「そうだ、デックアールヴを破滅への道へ陥れたのだ」


「え!? 破滅への道!? そ、そんな!!」


 ヴィリヤは首を振り、エリンは静かに目を閉じる。


「…………」


「2代目リョースアールヴの長は自分達のみが選ばれたアールヴとなりたかった……だから創世神様に仕える天の使徒達へ上申した。デックアールヴの恐るべき力は世界の均衡を必ず崩すと虚言きょげんろうしたのだ」


「…………」


「何故なら、初代の跡を継いだリョースアールヴ2代目の長はデックアールヴの持つ特別な力を妬み、そして怖れてもいた」


「…………」


「デックアールヴの持つ特別な力とは……創世神様から与えられた、神に匹敵する力……他者のうつろいやすい気持ちを慈しみ、深き心の傷を癒し、前を向く勇気を与える偉大なる力……」


「…………」


「リョースアールヴ2代目の長は、このままでは……知恵と美しさだけがとりえの我が一族は見放される。創世神様の偉大なる加護は神に近い力を持つデックアールヴ族だけに与えられると思い込んでしまった……」


「…………」


「この怖ろしい上申は、全くの秘密裏に行われた。デックアールヴ達は、自分達を破滅に追い込む陰謀が進行しているのを知る由もなかった」


「…………」


「意外な事に、天の使徒達は、偽りの上申を受け入れた……信じられない話だが、天の使徒達でさえ、デックアールヴの力に嫉妬していたのだ」


「…………」


「だが、当然疑問が出るだろう」


「…………」


「全てを見通す、広大な宇宙の化身といわれる全知全能の創世神様が……そのような偽りの上申など受け入れる筈がない……何の罪もないデックアールヴを仕置きするなど……もしも世に正義のことわりが存在するならば、そう考えられる」


「…………」


「しかし何と! 創世神様は……天の使徒を通じ、デックアールヴ一族全てに、追放を命じられた」


「…………」


「この深き地の底へ降り……永遠に暮らすようにと」


 ここまで話すと、リストマッティは法衣ローブ頭衣ドミノに手を掛けた。

 配下のラッセ達も同じく、頭衣ドミノに手を掛けた。

 そして一斉に取り去った。

 

 現れたのは、ダンの予想通り……

 擬態前のエリンに良く似た容姿と褐色の肌を持つ、デックアールヴ……

 すなわちダークエルフと呼ばれる者達だったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リストマッティは、見た目は50歳くらいの男である。

 苦み走ったという言葉がぴったりの、古風な顔立ちの二枚目であった。

 

 しかし同じデックアールヴでも、エリンとは少し雰囲気が違う。

 ダンは少しだけ違和感を覚えた。

 

「ここまで、私の話を聞けば、もう分かるだろう」


「…………」


「私達はデックアールヴ族の子孫なのだ。そしてかつての君の友たちは、今や私達と共に歩む事を決意した、新たな同志である」


「…………」


「話を元に戻そう……デックアールヴ達は地の底へ落とされてから、2派に分かれた」


「…………」


「一族の長、つまりラッルッカとその身内、そして彼を慕う多くの者達は、もっと深い地の底へと降りて行った」


「…………」


「ラッルッカ達は、私達の先祖とは全く違う考えを持っていた。大いなる創世神様の言い付けを忠実に守り従い、永遠に深い地下で暮らすと宣言して、私達と、たもとを分かったのだ」


「…………」


「片や、この地へ残った私達の先祖はいつか……生まれ育った輝かしい地上へ戻る事を決めた。けして諦めないと決意したのだ」


「…………」


 リストマッティから語られる、恐るべき真実……


 エリンの先祖は、地上から追われ……

 ひたすら愚直に創世神の命を守り、深い地の底へ降りて暮らしていた。

 

 だが深き地の底も安全で平穏な場所ではなかった。

 侵入して来た怖ろしい悪魔共により、全員が殺されてしまった。


 創世神様!

 私達デックアールヴは……

 何も悪い事をしていないのに……


 どうして、ダークエルフなどと蔑称され、地の底へ落とされたの?

 お父様とみんなは、何故、あんなにも無残に殺されなければならなかったの?


 エリンの心の中に、疑問と慟哭どうこくが暴風雨のように吹き荒れる。

 大きく見開かれた彼女の目は、虚しさと悔しさの中に失われた膨大な時間と、遥か遠い彼方を見つめていた。

 そして、大粒の涙がとめどなくあふれ出ていたのである。

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