第145話「再会」
ここは、謎の存在が統治する地下王国。
ダンが見通した通り、石造りの闘技場らしき場所である……
『人喰いの迷宮』最下層10階から、ダン達は転移していた。
転移したのは、ダンがリストマッティと取り交わした約束が、ちゃんと守られたから。
そう!
そのリストマッティは、約束通り現れていたのだ。
周囲から止められたのか……
さすがに、単身ではなかったが。
リストマッティは中肉中背。
独特なデザインの法衣をまとっていた。
傍らには配下のラッセらしき男、そして護衛と思われる10名の戦士達が出張っていた。
ダン達の方を向く、リストマッティの顔はよく見えない。
ラッセ共々、法衣についた頭衣で顔をすっぽり隠している。
一方、護衛達はといえば、こちらも独特なデザインの革鎧に身を包んでいた。
フルフェイスの兜で頭部を覆っている為、リストマッティ同様、顔は分からない。
しかし……
リストマッティがまとう法衣、武器装備、そしてこの闘技場のデザインを見て、エリンは改めて確信した。
全てに見覚えがある。
否!
見覚えどころではない。
ずっと慣れ親しんで来たダークエルフ、つまりデックアールヴ族の様式なのだと。
更に……
見覚えがある者達が居た。
まるでリストマッティ達を守るように。
ダン達の目にはそう見えた。
何と!
探していた冒険者5名が勢ぞろいしているのだ。
まず、クラン炎の4名……
リーダーの戦士チャーリー・アトキンズ、シーフのアーロン・エイベル、僧侶のコンラッド・ウォール、そして魔法使いのニック・メラーズ。
エリンが、冒険者ギルドで出会ったランクCの冒険者達であった。
そのチャーリーはギルドで会った時と全く変わらない。
良く言えば明るい、はっきり言えば……
相変わらず、とても能天気なのである……
「おお! ダン、どうしてここへ? おいおい! 何で、エリンちゃんまで居るの?」
チャーリーの言葉には、緊迫感がない。
敵に囚われて、窮地に陥ったという表情ではない。
それどころか……
まるで久々に会った旧友を認めるように、笑顔で手を振っていた。
傍らでは『常識人』らしい、アーロン達他のクランメンバーは苦笑。
呆れている事がはっきり分かるよう、肩を大袈裟にすくめていた。
「…………」
クラン炎のメンバー同様、無言で苦笑いするダン。
そしてエリンはというと、
はっきりいって……怒っていた。
「もう、チャーリーったら!」
「あれ? エリンちゃん、何で怒っているの?」
「何でって……そっちこそ!」
「え? 俺どうかした?」
「チャーリーったら、何のんびりしてるの。こっちは凄く心配して、ここまで来たのに……本当に呆れたよぉ!」
「え? 彼等が、クラン炎?」
ヴィリヤも、違和感を覚えていた。
不思議な事に、囚われた?冒険者達が、こちらへ助けを求める仕草がないのだ。
謎の存在により、無理やり「拉致された!」という雰囲気ではけしてない。
「お~い! エリンゃん機嫌を直してくれよぉ」
「ぷ~~ん、知らないっ」
「ダンなんか、どうでも良いけどさぁ。エリンちゃんは良く来たねぇ! 会いたかったよぉ!」
チャーリーが叫ぶと、エリンが、「きっ!」と睨む。
そして、つかつかと歩いて行く。
これは……
「またも」という感じだ。
やがて起こる事を、チャーリー以外のクランメンバーは分かっていた。
前回同様、気が付かないのは、チャーリーだけなのである。
「へ? エリンちゃん、何?」
エリンから独特の『殺気』を感じた護衛の戦士達が身構える。
だが、リストマッティが手を挙げ、彼等を制止した。
そうこうしている間に、チャーリーの真ん前に、エリンが立った。
その瞬間!
びった~~ん!!!
「ぎゃううっ!」
やはり、初めて出会った時と同じであった。
エリンから繰り出された渾身の『びんた』を頬に受け、チャーリーは軽々と吹っ飛んでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぎゃはははは!」
「相変わらず、ばっかでぇ~」
「永久に間抜け~」
一度ならず、二度もエリンの『びんた』を喰らい……
クランの仲間から、またも笑いものになっている、リーダーのチャーリー。
行方不明になった自分達を心配し、危険を冒し、ここまで来てくれたのに……
場の空気を全く読まない為、エリンから『お仕置き』されてしまったのだ。
そして、
「わ、悪い……本当に。俺達、無事だよ、この通り」
さすがにチャーリーは平謝りだ。
両手を合わせて、ひたすら頭を下げていた。
びんたをしたエリンが、怒りの表情を見せながら、大粒の涙を流しているからだ。
「心配したんだよ、凄く!」
思わず叩いてしまったが……
エリンは、本当に嬉しかった。
自分を仲間だと言ってくれた、チャーリー達がこうして生きていてくれた事に。
父と仲間をアスモデウスに惨殺され、心に刻まれた虚しい喪失感を、エリンはもう味わいたくないのだ。
「エリンちゃん! あ、ありがとう! 本当にありがとう!!」
「ううん! もういいの、嬉しいの!」
「エリンちゃん……」
「チャーリー達が生きてくれていて、本当に良かったよぉ!」
一方……
再会を喜ぶエリンの傍らで、ダンは腕組みをして立っていた。
チャーリー達の様子を見てすぐ分かった。
力づくでさらわれたのは勿論、洗脳されている様子もない。
そしてダンも、エリン同様に気付いていた。
悪魔王アスモデウスを倒し、エリンを助けた際、地下で目にした様々な建築的仕様を覚えていたのだ。
そう、今ダン達が居る地下世界は、エリンが暮らしていたダークエルフ王国と酷似している。
「貴方が……ダンさんですね」
頃合いと見たのか、今迄控えていた、ひとりの男性冒険者が進み出た。
若い男である。
まだ年齢は、20歳に達していない。
ほぼ少年だと言って良い。
その男の顔には何故か見覚えがある。
初対面なのに、ダン達は全くそんな気がしない。
「チャーリーさん達から聞きました。ありがとうございます。僕のリアーヌを、大事な『妹』の危機を救って頂いたそうで」
若い男性冒険者からそう言われ、ダンは微笑んだ。
「ああ、俺がダンだが……いや、大したことじゃない。じゃあ、貴方がルネさんか?」
「はい! 僕がリアーヌの兄、ルネです」
リアーヌの面影を持つ顔立ちを、嬉しそうにほころばせたのは……
「迷宮で死んだ」と噂されていた、彼女の双子の兄……ルネだったのである。
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