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第143話「未知の世界へ⑤」

 ダンの話を聞いたエリンとヴィリヤは、複雑な表情である。

 

 エルフとダークエルフは種族的にどちらが優れている? 

 という永遠のテーマが、「ほぼ互角だ」というダンの判断に至ったから。

 

 確かにふたりは仲良くなったが……

 元々種族としてのライバル意識はとても高かったのだ。


 ダンは、それを知ってか知らずか、話を続けている。


「考えてみてくれ。創世神は何故、こんなに素晴らしいダークエルフを追放したのか? 何故エルフとダークエルフは仲が悪いのか? 疑問に思った俺は、推測してみた」


「…………」

「…………」


「以前俺は、アイディール王国王宮の倉庫で、禁書とされた古文書をいくつか読んだ事がある。……それにはこうしるされていた」


「…………」

「…………」


「エルフとダークエルフの祖先は元々同じで、最初は仲がとても良かった……だが途中からお互いを、激しくライバル視していったと」


「…………」

「…………」


「俺は更にこう考えた……遥か昔、両者の間では何か事件があった。それでいさかいを起こし、遂にたもとを分かった。その際、何らかの理由で創世神が判断を下し、何故かダークエルフだけが理不尽にも地下へ追放されてしまった」


「…………」

「…………」


「ヴィリャの言う通り、ソウェルというのはエルフの長の名称だ。これが地下世界のダークエルフにも不思議と使われていた……という事は、何か特別な理由がある」


「…………」

「…………」


「ソウェルが元々、エルフ族共通で使われていた名称なのか? それともこちらが本家だ! という正統性を双方で主張しているのか? 王国として発展したエリンの一族とは違う、ダークエルフの別の一族が存在し、何らかの理由で名称を使っているとしたらと、いろいろ考えたんだ」


「…………」

「…………」


「そもそも何故、ダークエルフがエルフを憎むのか? という事にも合致して来る。そしてこの迷宮の秘密もな」


「え? 迷宮の秘密? どういう事、旦那様」

「ダン、どういう事でしょう?」


「ああ、この迷宮は通称・英雄の迷宮と言われているが、実はダークエルフ達の為にある迷宮だとしたら、どうだ?」 


「???」

「???」


 英雄の迷宮がダークエルフ達の為の迷宮?

 エリンもヴィリャもピンと来なかったのか、可愛く首を傾げた。


「多くの者が行方知らずになった事にも辻褄つじつまが合って来る」


「行方不明と辻褄が合う?」

「ダン、人喰いの迷宮という別名を、裏付けるという意味でしょうか?」


「ああ、今回俺達が結ばれたのと同じように……迷宮へ入って来た人間やエルフがダークエルフと結婚し、その子孫が増えて行く……という形になれば、多分様々な血が混じって純粋なダークエルフの外見が変わって行く。徐々に目立たなくなる。そうなると今の世界に不自然なく溶け込めるとしたら」


「あ!」

「そ、そうか!」


「うん! 当然だと思うが、ダークエルフ達は永久に暗く冷たい地下なんかには居たくない。もしも濡れ衣で一方的に追いやられたなら、当たり前だと思う。俺にも彼等の気持ちは分かる」


「…………」

「…………」


「そもそもこの迷宮の深部は過酷だ。地下深くまで来れるのは相当な実力者だといえる。すなわち才能がある者達だ」


「…………」

「…………」


「ダークエルフはそういった優秀な、様々な種族の冒険者達を仲間にする為、行方不明に見せかけ、自分達の国へ引き込んだ、そう俺は見ているんだ」


「…………」

「…………」


「結果、ダークエルフ達は、多くの種族の新たな民を迎え、長い年月をかけて血をシャッフルして行く。生まれた子孫が、外見的には完全に目立たなくなったと判断した時点で地上へ出ようと考えているのではないかな」


「…………」

「…………」


「俺の元居た世界で昔、国を治めていた武田信玄という武将がこう言った。人は石垣、人は城……だとな」


「旦那様、それはことわざ?」

「ダン、意味を教えてください」


「了解! 人の力がないと城があっても役に立たない。信頼出来る『人』の集まりが 強固な『城』に匹敵すると信玄は考えていたんだ」


「信頼出来る『人』の集まりが 強固な『城』に匹敵する……」

「成る程」


「ここでいう城がダークエルフの国に当てはまる。そう考えたら分かり易い例えだ。つまり適材適所で個人の才能を十分に発揮できる集団を作る事が大切であって、その人材こそが城であり石垣であり堀であるという教訓を残しているのさ」


 ダンはそう言うと、更に話を続ける。


「結論を言えば、地上から冒険者達が来て、自国の民がどんどん増えれば、比例して国の力も増す。常に新しい情報も手に入る。良い事尽くしだ」


「…………」

「…………」


「行方不明者の中には単純に迷宮で命を落とした者も居るだろう。しかし彼等の国へ誘われ、民となった者も多数居ると俺は思う」


「とすれば! やっぱりチャーリーやリアーヌのお兄さんは生きてるね」

「確率は相当高いと思います」


「ああ、エリン、ヴィリャ。希望的観測だが、何とか生きていて欲しい。まあ、後の問題は、ダークエルフ達が地上に出て、その先、何を欲するかだ」


「地上に出て何かを欲する?」

「ダン……まさか!」


 首を傾げるエリン。

 片や、「ハッと」したヴィリヤは、声が漏れそうになり思わず口へ手をあてた。


「ああ、ヴィリヤ、そうだ。彼等ダークエルフが戦いを引き起こして、地上の世界を自分達の手に取り戻したいと考えてもおかしくはない」


「…………」

「…………」


「何故なら、地上は既に違う種族の国々で完全に線引きされてしまっている……ダークエルフ達が自分達の新たな国を創ろうと無理やり新たな土地を欲して、世界に大きな戦いが起こる可能性は充分ある」


「…………」

「…………」


「だが、無益で不毛な争いはごめんだ。俺はダークエルフ達に話を聞いた上で、納得出来る理由があれば、協力する。だが彼等の野望だけで悪戯いたずらに、地上を戦乱におとしいれるつもりなら………絶対に阻止しようと思う」


「うん! エリンも、そういう戦いは絶対に嫌だよ」

「で、ですね! 平和が一番ですもの」


「よっし! 俺達3人の気持ちは一緒だな。これからが本番、頼むぞ」


 3人は、再びお約束の『フィスト バンプ』を行う。

 今回のタッチで、きずながより深まった気がする。


 ここでエリンが、両手を合わせて『お願いポーズ』をする。


「旦那様」


「何だ? エリン」


「ヴィリヤへ、ご褒美をあげて下さい」


 え?

 ご褒美?

 エリンは一体何を言っているのだろう?

 

「エ、エリンさん!」

 

 ヴィリヤは驚き、柄にもなく「おろおろ」する。

 何故か、また顔が赤くなっていた……


「ご褒美?」


 ダンが聞き返すと、エリンはにっこり笑った。


「うん! 女子はね、『想い人』から確かな言葉と愛情行為を貰えると、凄く安心するんだよ。もっともっと頑張れるんだよ」


 エリンの言葉を聞き、ダンには「ピン!」と来たようだ。

 「妻となった」ヴィリヤには、ダンと愛し合っている、はっきりしたあかしが欲しいのだ。


「『想い人』から確かな言葉と愛情行為か……分かった! ヴィリヤ! おいで!」


「はいっ! ダ~ン!!!」


 両手を広げた、ダンの胸の中へ……

 ヴィリヤは、『ダンの妻』として、初めて飛び込んだのである……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……ヴィリヤの回想は、またたく間に終わった……

 

 ここは、迷宮地下10階、『王の間』……

 目の前には、開かれた魔法扉へ向けて歩く、ダンとエリンの背中が見えていた。


 ダンが『ソウェル』リストマッティと話を付け、安全を確保しながら、とうとう『敵中』へ乗り込む。

 

 『好ましい仲間』だと思っていたエリンが、実はダークエルフだった……

 しかし……

 ダークエルフは、ヴィリヤが認識していた邪悪な存在ではなかった。

 

 『隠された真実』を知り、全く未知の世界へ、第一歩を踏み入れたヴィリヤは……

 ソウェルの名称を使う『謎の存在達の国』という、これまた更に深い深い未知の世界へ、足を踏み入れる。

 

 だがヴィリヤは、もう臆する事はない。


「自分はもうひとりではない!」という、心の強さがあるから。

 愛する『想い人』そして共に支え合い、信じられる戦友が居るのだから…… 


 ……生まれて初めて男性に、それも大好きな『想い人』ダンに優しく抱かれ、キスまでされた。

 望みが叶ったヴィリヤは、もう天にも昇る気持ちだった。

 同時に、

「受け入れてくれたエリンに感謝し、家族として、しっかりしなければならない」という、新たな決意と意識も生まれていた。

 

 そう、家族とは……

 支えなければならない存在であると同時に、辛い時には自分をしっかり支えてくれる存在……

 普段仲良くするだけではない。

 それこそが真の家族であり、支え合うとは『心の絆』を結ぶ事……なのである。

 

 この迷宮探索は、ヴィリヤの人生の中で大きな転機となった。

 愛するダン、戦友のエリンとは、しっかりと固い『心の絆』が結ばれたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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