第140話「未知の世界へ②」
大きく深呼吸をしたヴィリヤは、力強く言い放つ。
「私の気持ちは変わりません! ダンと結ばれたい! 結婚したい!」
やはりというか、けして変わらぬ、揺るがぬ、ヴィリヤの真摯な気持ち。
ダンへの深い愛……
こうなると、ダンも考えていた事の『実行』を決めたようだ。
「そうか、分かった! 迷宮の地下10階に着いたら、お前との結婚について話すと約束した。今後の事もあるから、ここで決着をつける」
この異界で?
決着?
何故?
さすがに、ヴィリヤも驚いて目を丸くする。
「ここで決着! ……なのですか?」
「そうだ……ここで結論を出す」
「結論を」
「ヴィリヤ、早速行くぞ。もし俺の妻になるのなら、当然、先輩ふたりと一緒に、仲良く暮らさなきゃいけない。その自信はあるのか?」
「先輩ふたり……ああ、エリンさんとニーナさんですね」
「そうだ、絶対に仲良くすると誓えるか?」
ヴィリヤは、エリンを見た。
エリンは、ニーナへ「カミングアウト」した時とは全く違っていた。
俯きなどせず堂々と、真っすぐにヴィリヤを見つめていた。
ヴィリヤは、思う。
この迷宮に入ってから、どれだけエリンに救われたか、支えて貰ったか。
ダンとの恋も含め、何度も折れそうになった心を、労りしっかり守ってくれたのは……
正真正銘、エリンなのだ。
「ええ、全く問題ありません。私、エリンさんが大好きですから」
「よし、お前の気持ちに偽りはないな?」
「はい! 創世神様に誓って」
「……よし、ならば言おう。順を追って話す。まずエリンとニーナは魔族だ。それでも誓えるか?」
ダンは『ニーナの時』と同じ作戦に出た。
普通なら「どん!」が付くくらい、引いてしまう衝撃の事実だ。
エルフであるヴィリヤは、ダークエルフに対して、とんでもない嫌悪感を抱くと思われる。
「これくらいのショック療法を施さないと効かない」と、ダンは考えたのだ。
「ま、魔族! エリンさんとニーナさんが!? 嘘!?」
「いや、真実だ。しかし俺はふたりを心の底から愛している。そして結婚した」
ダンは「しれっ」と言い切った。
「エリン達が、魔族だ」と告げたのは真実だと。
こんな場合は、嘘も方便……なのである。
「…………」
「俺が魔族と結婚しても、お前から与えられた務めはしっかり果たしている。この世界に何の迷惑もかけていない。全く問題はない」
「…………」
「エリンとニーナを受け入れられないのなら、ここで話は終わりだ。しかし、お前はエリンが大好きだと言った」
「…………」
「しかし魔族なら嫌いになるのか? それはお前に対し、明らかに害を為した場合だろう?」
「…………」
「次だ! お前に対し、エリンは今迄何をしてくれた? 良く考えてみろ」
ダンのこの問いに対し、ようやくヴィリヤは答えを返す事が出来た。
「…………初めての迷宮で戸惑う私を励まし、支えてくれました」
「だろう? 人間やアールヴに対し、冷酷で悪辣な魔族がそんな事をするのか? 一銭の得にもならないのに」
「…………」
「俺はな、ヴィリヤ。お前には物事の本質を見極めて、正しい判断をして欲しいんだ」
「物事の本質を見極める……正しい判断……」
「そうさ! 誰かが言ったからそのまま信じるとか、長き伝統だから正しいとか、そんなうわべに騙されず、いろいろな角度から広く物事を見て、自分分自身で判断をして欲しいんだ」
「いろいろな角度から広く物事を見て、自分分自身で判断……」
「そうだ。今迄の俺との事も思い出してみろ」
「ダンとの事?」
「ああ、世の中がひっくり返るとか大きな事ではない。とても些細な事かもしれない。だが……俺とお前の経験の中で、常識って奴が簡単に覆った事が度々あっただろう?」
「あ、ありました! たくさんありました!」
ヴィリヤの中で、ダンとの様々な思い出が甦る。
鮮やかに、はっきりと。
そして実感する。
今迄に自分が「絶対だ!」と、信じていた常識が何という脆いものかと……
あれこれを「つらつら」と考える中……
ふと、視線を感じたヴィリヤは、本能的に相手を見た。
……見ているのは、エリンであった。
まるでヴィリヤを射貫くような強い眼差しは、真っすぐな意思が籠められていた。
ヴィリヤは更に思う。
そうだ!
私が、生まれて初めての迷宮探索で、ここまで来れたのは、エリンさんに支えて貰ったからだ。
やっぱり!
これから、生きる張り合いを与えてくれたのもエリンさんだ。
考えられない事に、自分の夫に恋する私を励まし、愛を成就しろと言ってくれたのだ。
アールヴであれ、人間であれ、魔族であれ、そんな人は、どこを探したって居やしない……
それに、私だって、私だって……
エリンさんを支える事が出来た。
意外な脆さをさらした彼女を、自分が何とか助ける事が出来てどうだったか?
ヴィリヤは改めて自問自答した。
答えは、はっきり出た。
大きな歓びに満ちた答えが、即座に出たのだ。
エリンさんを助けられて、私は!
凄く凄く、嬉しかった!!!
その瞬間、ヴィリヤはエリンに負けないくらい、強い眼差しを返す事が出来たのであった。
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