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第14話「いきなり、お泊り③」

 ダンとエリンが、厨房ちゅうぼうで作業を始めてから1時間後……


 夕飯の支度が終わり、表面が節だらけの素朴な木製テーブル上に、料理がいくつか並んでいた。

 ウサギ肉と野菜のスープ、野菜サラダ、そしてスクランブルエッグというシンプルなメニューであった。

 ダンとしては、焼きたてのパンも欲しいところであったが、あいにく材料が切れていた。


 スクランブルエッグを見たエリンが、何故か悔しそうな顔をする。

 どうやら……料理にチャレンジして、上手く行かなかったようだ。


「う~! 卵が上手く割れなかった……がっくり」


「ははは、最初は慣れないと難しいな」


「うん! 何度やってもからが入っちゃうのぉ」


 王族であるエリンは、生まれてから料理をした事がない。

 今迄は、王家専属の料理人がすべてやってくれた。

 しかし風呂での事といい、エリンは臨機応変さに優れている。


 エリンが入ってみて、改めて分かったが……

 ダンの家に、人間はダンとエリンのふたりきりだ。

 後は古文書の絵でしか見た事がない犬と猫、そしてニワトリという奇妙な動物達も居る。

 だが、彼等に家事が出来るわけがない。

 家臣や使用人が居ない、と言う事は自分達がやらなくてはいけない。


 自分で全て行うという事に気付いたのは、ダンがエリンの為に風呂の支度をしてくれた時だ。

 そこからエリンは、何か自分に出来る事はないかと心がけていた。

 必要な事が発生したら、自分でやりたいと申し出たのである。

 夕飯を作る際も、同じであった。


 ダンは、エリンの申し入れを快く聞き入れてくれた。

 簡単な作業ではあったが……

 スクランブルエッグ用の、ニワトリという鳥の卵を割る事を、命じてくれたのである。

 しかし、なかなか上手くはいかなかった。

 何度やっても、殻の破片が入ってしまうのだ。


 破片は取れば済むのだが……

 しまいには綺麗な形をした黄身も潰れてしまったりして、エリンはちょっと「いらっ」としてしまった。


 むくれるエリンを、ダンが笑顔で励ましてくれる。


「ははは、どうせかき混ぜるスクランブルエッグだから大丈夫さ」


「むむむ、次回は頑張る」


「さあ、冷めないうちに食べようぜ。今日はエリンに出会えたから記念に乾杯しよう」


「乾杯?」


「うん! 俺、何か良い事があったらワインで乾杯するんだ。そのマグに注いだのがワインだよ」


「わあ、赤いのね、これなに?」


「ああ、ワインはブドウという果実を絞った果汁を、更に発酵させた酒だよ。ちなみに白いワインもあるぞ。後で飲み比べてみるか?」


「うん、ワインって飲んだことない、楽しみっていうか、そもそもお酒って何?」


「エリン、お前って酒を知らないのか? ……何やらヤバそうな予感がするな、って、もう飲んでるし!」


 ダンの話が終わらないうちに、エリンはマグに注がれていたワインを「くいくいっ」と音を立て、あっという間に飲み干してしまった。


「あ~っ!? な、何これっ、おいし~っ」


「お前、初めての酒なのに急いで飲むな!」


「ごめんなさ~い、でも、うわぁ、身体に染みるう、美味しいっ」


「料理も食べろ、料理も。すきっ腹に酒だけはいかん」


「は~いっ、じゃあまずスクランブルエッグっていう料理を行きま~す! これってエリンも作るの協力したんだよね」


 ふんふんふん!


 何故か、匂いを嗅ぐエリン。


「おお、良い香りぃ」


 エリンは、「ぺろり」と舐めると、目を白黒させた。


「おおおっ、これ、美味し~っ」


「美味いか?」


「うん! 美味しいよぉ、ダン。次はスープが食べたい。入っているお肉と一緒に食べさせて~」


 エリンは酒が回ったのか、完全に甘えていた。

 まあこれくらいなら、全然問題ないだろう。

 ダンはリクエストに応え、木の匙でスープを掬って、エリンの口に運んでやる。


「分かった、分かった。ほら、口開けろ」


「あ~ん」


 ばくん!


「うわお! 美味しい。このお肉やわらか~い、一体な~に」


「ウサギだよ」


「ウサギ? ウサギって何?」


「ぴょんぴょん跳ねる奴さ。知らないのか?」


「うんっ、教えて」


「口で言うのは難しいから……明日、捕まえに行くか」


「うん、行く! エリンは絶対に行くよぉ。ダン、そのスープに入った植物も食べたい」


「植物? 今度は野菜か? どっちが良い?」


 スープにはニンジンと、じゃがいもが入っている。

 果たして?


「オレンジのが良い!」


「おお、ニンジンか」


「これがニンジンなのぉ? ダークエルフが育てていたのと違う」


「違う? そんなに違うのか?」


 エリンによれば、ダークエルフの国にも地下農場があったという。


「うん! 土の中から引き抜く時にニンジンって大きな声でぎゃう~とか叫ぶんだよ。その声を聞くと身体が痺れて、下手すると死んじゃうの」


 引き抜くと叫ぶ?

 死ぬ?

 それって……


「エリン、それ……マンドラゴラだろ?」


「そうなの? 根っこがこんな色じゃなくて、形は人型してるよ」


「やっぱ、それマンドラゴラだ。いいか、エリン。このニンジンはな、抜いても叫ばないし、抜いた人も死なないの」


「あ、そうなの。じゃあ今度はエリン、自分で食べてみようっかなぁ」


 匙でスープごとニンジンを掬うと、ぱくっと食べて口を動かすエリン。

 旨味が口いっぱいに広がったらしく、とても幸せそうな顔をする。


「あああ、とっても甘くて美味しい! エリン、幸せ」


 目を「うるうる」させて子供のように喜ぶエリンを見て、ダンは「ほっこり」とした気分に浸っていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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