第139話「未知の世界へ①」
通称人喰いの迷宮、すなわち『英雄の迷宮』最下層地下10階……
今、『王の間』の一角に、未知の世界への魔法扉は開かれていた。
謎めいた『ソウェル』、リストマッティがダン達を迎え入れる為に開いた秘密の扉である。
果たして本当に無事でいるのだろうか?
クラン炎、そして死んだと思われていた、ニーナの兄ルネが……
開いた扉を一瞥し、ダンは、きっぱりと言い放つ。
「悪いが、護衛役を先へ行かせて貰う」
ダンの言葉を聞いたリストマッティは、興味深そうに尋ねる。
「ほう、何故だ?」
「無論、安全の為さ。俺達が初めて入る場所だからな。それに、通路の先には転移門があるのだろう?」
「うむ、ダン殿の言う通り、扉の先には転移門がある。その転移門から、我が王国へ来て貰う事となるだろう」
「ああ、ならばその転移門も、まず護衛に入って貰う」
ダンは簡単に、相手を信用していない。
この迷宮に隠された魔法扉の奥、そして転移門に入って転送された先がどうなっているのか、分からない。
極端にいえば、抵抗出来ないまま一網打尽という罠へはめられる可能性もある。
だから、護衛役を先行させると宣言したのである。
ダンの言葉から、「信用されていない!」と、激しく怒るかと思いきや……
リストマッティは何故か、感心しているようだ。
「ふむ、用心深い……ダン殿は慎重さと大胆さを兼ね備えているようだ。益々気に入った」
相手に賞賛されたダンであったが、苦笑し「しれっ」と受け流す。
「おいおい、いくら褒めても、何も出ないぜ」
「はははははっ! 確かにこれでは口だけだな。そう、私はケチだ。ど、が付くくらいな。これくらいでは、何も出さぬ」
ダンとリストマッティが軽口でやりとりするのを聞きながら……
ヴィリヤはつい、「ふっ」と笑った。
これから行く未知な世界も含め、自分が知らない事がまだまだたくさんあるのだと。
そう……
今回の迷宮探索は、ヴィリヤの常識と価値観を根底から粉々に突き崩した。
と、いっても過言ではない。
それは先ほど……
ダン達が姿を隠していた異界で起こった。
とんでもなく衝撃の事実であった。
ヴィリヤは、『その時の事』を思い出していたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……迷宮へ入って、まずヴィリヤが驚いたのは、ダンの能力の大幅アップである。
何と、自分が知らぬ間に地の魔法を習得していた。
しかし、先程発動した特別な魔法は、それどころではなかったのだ。
……時間は、少しさかのぼる。
謎の敵?より身を隠す為、ダンから空間魔法を使うと聞き……
またもヴィリヤは吃驚した。
魔法の達人と言われる祖父でさえ、過去に空間魔法を使った事は、彼女の記憶になかったのだから。
一応、「ダンの管理者は私なのに」と、拗ねて、少しだけ抗議をしてみたが……
問い質されたダンは苦笑し、軽く頭を下げただけである。
そして、空間魔法はあっさりと発動した。
ダンは他の魔法同様、短い言霊を詠唱しただけで、容易に発動させたのである。
結果、エリンとヴィリヤが連れて行かれたのは、何もない真っ白な空間であった。
3人の他には誰も居ない……
自然も生物も、景色さえない……
暖かくも寒くもない……
本当に何もない無機質な空間……
そして、「この異界へ敵は来れず、全く安全だ」と、ダンから言われ……
念話も中止し、肉声で直接喋る事となった。
3人は座り込み、車座となる。
話の、口火を切ったのはダンである。
「さあて……気合を入れて聞いてくれ。そして見て欲しい。ある意味、迷宮よりもここが、ヴィリヤにとって、本番になるかもしれないからな」
「迷宮よりも? 私にとっての、本番?」
「そうさ、思い出してくれ。俺がお前の気持ちを受け入れると言った時の事を」
「は、はいっ!」
ヴィリヤの気持ちを受け入れると聞き、思わず、彼女の声は大きくなった。
そう、ヴィリヤにとって、迷宮探索は二の次。
ダンともっともっと仲良くなりたい、尽くしたい。
もっと深く愛し、ダンからも愛されたい!
「その『想い』だけでついて来た!」といって過言ではないのだ。
ヴィリヤは思い出す、先ほどの記憶を手繰る。
……確かダンはこうも言った。
「……もしかしたら、お前は自分の価値観を含め、想像以上に多くのものと、きっぱり決別しなくてはならないかもしれないぞ」と。
対してヴィリヤは……はっきりと、誓った
「はいっ! 全てエリンさんから聞いています。私、どんな困難も覚悟しています。貴方と結ばれる為なら、頑張って乗り越えます」と。
思い起こしても、その気持ちは……全く変わらない。
改めて、強い決意を述べる為、ヴィリヤは大きく深呼吸したのであった。
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