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第137話「形勢逆転」

 正体不明の『影』が嘆息し、煙のように姿を消した直後の王の間。

 不思議な事に、どこからともなく「ひゅ」と一陣の風が吹いた。


 その風が吹いた直後……

 『王の間』で、またも 魔力が揺らいでいた。

 先程の魔力とは、また違う波動である。


 そして!

 いきなり空間が割れ、『王の間』に3人の男女が現れた。

 何と、地下10階の全く違う場所で消えた、ダン達3人であった。


 ……ダン達は魔法を使って異界へ跳び、一時的に身を潜めていた。

 表向きは、相手に所在不明とみせかけ、『ゆさぶり』を掛けたのだ。


『はは、あいつ……やはり、現れたな』


 ダンが「にやっ」と笑えば、エリンとヴィリヤも「してやったり!」という顔付きである。


『バッチリ! 旦那様の予想通り』

『呆気なく罠にかかりましたね』


 エリン達の言葉を聞き、ダンは大きく頷く。


『ああ、今度は俺も魔力波オーラで把握したし、オリエンスに頼んで、風の精霊(シルフ)にも見張らせた。奴の居場所はしっかり掴んだぞ』


 謎の存在を捕まえた!

 エリン達の顔が、喜色満面となる。


『じゃあ、もう袋の鼠だね、旦那様』

『絶対に逃がしません! お祖父様を冒涜ぼうとくした奴なんか』


『だな! それに奴の言っていた謎もほぼ解いた』


『謎も?』

『本当に!?』


 更にダンは、『謎解き』もしていた。

 謎とは、一体何?

 エリン達の『耳』が大きくなり、一斉にダンへ向けられる。

 

『ああ、この王の間には仕掛けがある。多分、魔法で隠された出入り口があって、新たな地下迷宮へ繋がるんだ』


『へぇ! ここからもっと先があるんだぁ。旦那様、どうするの?』


『いっそ、思い切って、どかんと壊しちゃいます?』


『え? 壊す? ヴィリヤったら凄い!』


『そうですか?』


 「しれっ」と返すヴィリヤを見て、エリンは少し苦笑した。

 「のほほん」としたお嬢様のように見えて、結構ヴィリヤは容赦ない。

 ズバリ過激なのだ。


『まあ、待て。急に現れた俺達を見て、奴も驚いている筈だ。少し待てば、きっとまた現れる。それまでケルベロス達に警戒させて、もうひと休みだ』


 「もうひと休み」と聞き、エリンとヴィリヤは緊張感が解け、脱力した。

 それは、「とりあえず危険はないぞ」というダンの判断が下った事といえるから。


 ダン達は、『王の間』の中央部分に車座となって、くつろぐ。

 エリンがわくわく顔で言う。


『うふふ、あの影はどんな顔して現れるかなぁ? って表情までは分からないかぁ……』


『エリンさん、はっきり言って……あいつの事、すぐ、ぶっとばしたいんですけど、私』


 どうやら……

 ヴィリヤの怒りは、まだまだ収まっていないようだ。


 「ぶっ飛ばす!」などという、全く『お嬢様』ではない物言いを聞き、エリンは、つい笑いそうになった。

 

 だが……

 ヴィリヤに軽く睨まれ、慌てて、口を押えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後……


 ダン達の予想通り、『影』はいきなり現れた。

 車座となった、ダン達の上空だ。

 相変わらず幻影の魔法を使っているようだ。

 どうやら危険はないようであり、ダンは勿論、護衛役のケルベロス達ものんびりしていた。


 その『影』は……相当怒っているようである。


「貴様!」


 高圧的な『影』の物言いを聞き、思わずヴィリヤが「切れそう」になる。


「何よ!」


「俺が対応しよう」


 怒気を含んだ肉声で返したヴィリヤを、ダンが手で制した。

 そして、飄々(ひょうひょう)とした口調で問い質す。


「おい! 何をそんなに怒ってる?」


 しかし『影』は……ダンの質問に答えない。

 質問に、質問で返して来る。


「今迄……貴様等、どこに居たぁ!」


「あ~? 怒る意味が分からん。俺達はあんたとの約束通り、ちゃんと地下10階へ来たんだぜ」


 確かにダンの言う通りだ。

 『影』が言う通り、ダン達は地下10階まで来た。

 紛れもない事実である。

 正論である。


「…………」


 理屈で完全に負け、影は言葉に詰まってしまった。

 ダンは微笑みながら、『影』を諭す。


「まあまあ、落ち着けよ」


「くう! 貴様ら、道中、全く会話をしていなかったぞ。まさか念話か?」


 影はやはり答えないし、質問で返して来る。

 だから、ダンも答えてやらない。


「はぁ? 聞こえませんなぁ……それより、あんた『謎』とか、尤もらしく言っていたけど、俺にはもう分かったよ」


「わ、分かった? な、何だと!」


「まず、この王の間には、隠された出入り口がある。そこに行けばあんたに会えそうだな?」


「…………」


 ダンの言う事に、『影』は反論しなかった。

 沈黙は肯定のあかしであろう。


「それと、この迷宮自体の謎も分かった」


「な、何だと! 迷宮自体?」


 含みのあるダンの物言い。

 『影』は相当驚いたようだ。


 しかしダンの口調は、相変わらず軽い。


「ははは、半分以上あてずっぽうだがな」


「むむむ……」


 反論出来ず、唸った『影』へ……

 ダンは表情を切り替え、「びしっ」と言い放つ。


「言ってやろう。この迷宮は訓練場だ。遠き時代、いにしえの英雄と正式に約束した由緒正しき訓練場だ」


「な、何!?」


「ちなみに、迷宮を使う、あんた達の目的は、訓練と人集め」


「ななな!」


「そしてぇ、あんた達の正体はぁ……」


「ま、待て! それ以上喋るな!」


 面白可笑しく言うダンの話が、どんどん『核心』へ近付く予感を覚えたのだろう。

 『影』は必死になって、止めようとした。


 こうなるともう、ダンの意図通り……

 今の会話で、主導権を握る者が、ガラリと変わった。

 ダン達は、『影』に対し、優位に立てるだろう。

 

 それに加え、最初に『影』は言っていた。

 彼等の長、『ソウェル』なる人物がダンに興味を持ち、会いたがっていると。


 こうなると、ダンは考えていた『作戦』に移った。


「喋るな、か……ふむ、良いだろう。だがギブアンドテイク、こちらからも交換条件を出すぞ」


「何! こ、交換条件だと!」


 完全に防御一辺倒になった『影』は、ダンの要求を聞く事しか選択肢はなかったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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