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第136話「奴らへ罠を仕掛けろ!」

 ダンとオーガとの戦いが終わった。

 開始から、時間にして僅か10分少しと言ったところだろうか……

 もうあっという間の出来事であった。


 周囲には累々《るいるい》と、オーガの死骸が散らばっている。

 今、無事で立っているのはダンだけだ。


『旦那様!』

『ダン!』


 危機が去ったと分かり、離れて見守っていたエリンとヴィリヤが安堵し駆け寄った。

 「まず、大丈夫だ」とは思っていた。

 ダンの勝利は、絶対に揺るがないと……

 「悪魔王アスモデウスを物差しにしろ」と、ダンが言った時点で。


 エリンもヴィリヤも確信していた。

 怖ろしいアスモデウスに比べれば、オーガなどは、いかに上位種であってもダンの敵ではないという事を。


 そして何故、ダンが単身で戦いを挑んだのか?

 彼の意図にも、何となく気が付いていたのだ。


 ダンの意図、それは……

 例の『謎めいた存在』に対してのアピールである。


 そもそもダン達の今回のミッションは、行方不明者の救助と迷宮調査である。


 謎めいた存在は「この迷宮の謎を解け」と告げた。

 つまり冒険者失踪事件の、『鍵』を握っている可能性がある。

 と、なれば……

 まずは、この謎めいた存在の手がかりを掴む事が、ミッションクリアへの早道と言えるのだ。 


 そして……

 ダンには思い当たる事がある。

 相手の正体に関して。


 「ピン!」と来たのは、ヴィリヤの祖父ヴェルネリ・アスピヴァーラ以外に、『ソウェル』が存在するという話からだ。

 そもそもソウェルとは、エルフことリョースアールヴ族の長たる呼称……の筈である。

 ヴィリヤに聞けば、ソウェルの役職は、祖父のヴェルネリがもう千年は務めているという。


 だとすれば、奴らの言う『ソウェル』とは一体誰?

 果たして何者なのだろうか?

 そして奴等は、ヴィリヤの実家アスピヴァーラが卑しいとおとしめた。

 つまりアスピヴァーラ家を憎んでおり、何らかの恨みがあると推定される。


 以上の事を踏まえて、導き出した結論なのだが……

 まだ、あくまでも、ダンの推測に過ぎない。

 

 確証を掴む為に、更に手を打たねばならない。

 だが、今のまま状態では難しい。


 何故ならば、この『人喰いの迷宮』は相手の『ホームグラウンド』であるからだ。

 現在ダン達は、一挙手一投足を見られた上、相手のてのひらで遊ばれている状態だ。

 この不利な状況を打破し、優位に立たなければ確証を掴む手はない。


 その第一の仕掛けが、クラン戦闘における圧倒的な勝利である。

 更に第二の仕掛けが……

 たった今、ダンが単独で成し得た圧倒的な勝利なのだ。


 こうなると、ただでさえダン達を気にしている相手は……

 更に注目する事となる。

 ダンを始めとして、3人の底知れぬ能力に対し、もっともっと興味を持つだろう。

 そして、まだまだ実力を隠している事に、すぐ気付く筈だ。


 相手がどうしても、ダン達の正体を知りたくなった時。

 真の力を知りたくなった時……


 手段を問わず、なりふり構わずとなった時……

 大きな隙が生じる。

 その時こそ、ダン達は逆襲し、真の攻勢に出るのだ。


 既にダンの頭の中で……

 最後の仕掛けに関しては、組み上がっている。


 後は……実行するだけ……であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなこんなで、ダン達は地下8階をクリアし、地下9階へ降りた……


 この階層でも、出現するのはやはり、様々な魔物の上位種である。

 しかしダン達にとってみれば、もはや脅威となる相手ではない。

 ちなみに、再びダンの単独戦闘などはなく、全員で『普通』に倒して行く。


 この階でもダン達の歩みを妨げる者は居なかった。

 そして……

 いよいよ、ダン達は最下層地下10階へ到達したのだ。

 

 この地下10階はいくつかの小広間、そして通称『王の間』と呼ばれる、大広間とで構成されていた。

 伝説では、アイディール王国の開祖セヴラン・アイディールが迷宮全階層をクリアした際、クランの仲間と共に『王の間』で祝杯をあげたという。


 その為、この王の間まで踏破し、『祝杯』をあげる事が、冒険者達の間ではステイタスとなっている。

 

 そんな時、突如、異変は起こった。


 地下10階を探索していた、ダン達の姿が煙のように消えたのだ。

 何の前振りもなく……

 歩いていて、いきなり消え失せてしまったのである。

 ダン達に先行していた、火蜥蜴サラマンダーとケルベロスも同様に消えてしまった。


 最終ゴール? 『王の間』の手前という場所で……


 最下層、地下10階まで来る事の出来る、実力を持つクランはそう居ない。

 現在は、ダン達のみである。


 こうなると……

 魔物共の咆哮や唸り声以外に、人間とアールヴの気配は一切なくなった。

 「しん」とした静寂が辺りを満たす。


 暗闇の中、悪戯に時だけが流れたのである………………


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……ダン達が姿を消してから、あっという間に1時間が経った……

 何も起こらない。

 当然、ダン達3人も消えたままである。


 ここは……迷宮の最奥、『王の間』

 広大な『部屋』一杯に満ちた魔力に、大きな揺らぎが生じていた。

 これは、何かが現れる予兆だ。


 そして案の定……

 まるで影のような、頼りない、ゆらゆらした気配が立ち上ったのである。

 先ほど、ダン達の前に現れた……  

 ニーナの兄が死んだと言われる部屋に現れたのと同じ、正体不明の謎めいた存在……『影』であった。


「あの男め! どこへ消えた! 一体、どうしたというのだ? もう『目前』なのだぞ」


 相変わらず壮年らしい男の声で喋る『影』はいつになく、いらついている様子である。


「ふむ……奴の魔力波オーラを感じぬ。いいかげん探索に飽き、女を連れて、転移魔法か何かで地上へ戻ったのか? まさか……な」


 『影』は大きなため息をつくと、また姿を消してしまったのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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