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第13話「いきなり、お泊り②」

 ダンとエリンのふたりは風呂からあがると……

 居間のテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

 腕組みをしたダンは、拗ねたような顔をして黙っている。


 一方のエリンは「にこにこ」と満面の笑みを浮かべていると言っても良い。

 何か、とっても良い事があったようだ。


「うふふ、ダンって身体は細いけど筋肉はまんべんなく付いているよね。魔法使いとか言った癖に鍛え抜いた身体って感じだよぉ。凄~く格好良い」


「…………」


「ねぇ、ダンったらぁ、どうやって鍛えたの? 教えて、教えてっ」


「…………」


「でも遠慮しちゃってぇ! 折角、前も洗ってあげたのに、背中流すだけじゃあ、つまらない」


 エリンが、不満そうに口を尖らせた。

 しかしダンは、「ぶんぶん」と左右に首を振った。


「ま、前? とんでもない! 背中を洗わせただけでも大幅譲歩だぞ。前なんて絶対にダメ。第一、エリンにそんな事させられないだろう?」


「どうしてぇ、エリンはダンのお嫁さんだよ。お嫁さんは誠心誠意旦那様に尽くすのが当たり前なんでしょう? エリンはお父様にそう教えられた」


 エリンは亡き父から、そのようなしつけをされたのか、夫に尽くすのが妻の務めという考えのようである。

 

 エリンは、尽くすタイプの女の子……

 ダンはほんのちょっぴり嬉しくなったが、今ここでそんな事など、口が裂けても言えない。

 あまり褒めると、エリンが更にエスカレートして何を言い出すか、分からないからだ。


 しかしエリンは、高貴な身分のお姫様である。

 入浴の際、自分で身体を洗ったりするのだろうか?

 エリンが、ダンの背中を流してくれた手つきは、結構手慣れたものであった。


 不思議に思ったダンは、念の為に聞いてみる。


「でも、エリン。お前、王族なのに……良く自分じゃない人の身体を、こうして洗うやり方が分かるな? ちなみにエリンは、自分の身体って自分自身で洗っていたのか?」


 ダンの問いに対してエリンは即座に首を振る。


「ううん、御付きの侍女が洗ってた」


「やっぱり!」


 ダンは、思わず叫んだ。

 しかしエリンは、「全く問題ない」というように微笑む。


「でも……侍女にいつも洗って貰っていたから、逆に覚えた」


「覚えた?」


「うん! 洗い方をすぐに覚えたよ。分からない事は侍女に聞いたりもした。だから今日、エリンとダンで初めて試してみた」


 エリンの記憶力は、抜群らしい。

 記憶に基づいて、実践する力も備わっているようだ。


「そうか、偉いな、エリンは」


 ダンが褒めると、エリンは機嫌が一発で直る。


「えへへ、ほめられちゃった! でもダンに背中を流して貰って、エリンは気持ち良かったよ。それに、洗いっこしながら話すと一杯話せるね」


 背中を向けていたので、完全な『裸の付き合い』というわけではなかったが…… お互いに無防備な状態で、相手の身体を洗いながらだと、ざっくばらんに話す事が出来た。

 

 ダンは、思う。

 今の会話からも、エリンとの『心の距離』は益々縮まっている。

 もはや間違いなく、彼女を愛しいと感じている。

 

「ああ、確かにな。お前とたくさん色々な事を話せてよかったよ」


 ダンも自然に笑顔を向けると、エリンは先程の話を蒸し返して来る。

 どうやら、余程心残りらしい。


「次にお風呂に入る時はダンの前も洗いたい! ねぇ、洗わせて!」


「え? い、いや、別に良いよ、俺は」


 前を洗うと聞いてさすがにダンが断ると、エリンは顔を歪ませる。

 結構ショックだったらしく、辛そうな顔をする。


「え? 嫌なの?」


「おいおいおい」


「いくら頼んでもエリンの前も洗ってくれなかったし……愛する妻のおっぱい洗うのってダンは嫌なの? 巨乳って褒めてくれたのに……何だか悲しくなって来た」


 エリンにとってダンは、唯一自分の身体を任せても良い男なのだ。

 それなのに、ダンは自分に身体を任せてくれない。


 心を許し合った筈なのに……


 エリンの顔が歪み、美しい菫色の瞳に、またもや涙がにじんで来る。

 それを見たダンは、慌ててしまう。

 

 何度もエリンに泣かれて、もうはっきりと認識していた。

 ダンはエリンの涙が、とっても苦手なのだと。


「わ、分かった、泣くな! 今すぐはダメだけど、いつか頼むよ」

 

 お互いの身体を洗い合うと聞いて、エリンはホッとする。

 泣き顔が消えて、徐々に笑顔が戻って来る。


「やったぁ! 約束だからね、前の洗いっこ」


 前の洗いっこ?

 ダンは眉間に皺を寄せて少し想像すると、慌ててその『映像』を打ち消した。


「あああ、プレッシャーだ」


 思わずつぶやいたダンのひと言に、すかさずエリンが反応する。


「何? 何か言った?」


「何でもない。さあ、晩メシにしよう、支度するから少し待ってろよ」


「わぁ! ご飯、ご飯」


 風呂に入って、身も心もすっきりしたふたりはお腹が空いていた。

 文句なしの意見一致で、夕飯の準備をする事になったのである。


 さほど広くない厨房に入ったふたり。

 エリンは物珍しいのか、かまどや調理器具を興味深そうに眺めていた。


 ダンは、エリンに手順を説明する。


「さあ、まずは調理の為の火を起こす……今日は、時間が無いからお願いしてしまおう。……火蜥蜴サラマンダー、頼むぞ」


 ダンが「ピン」と指を鳴らすと、エリンが故郷の地下でも見た火蜥蜴が一体現れた。

 ダークエルフ達も生活魔法により発火を行っていたが、いちいち精霊を呼び出したりなどしない。

 精霊は使い魔などと違い、雑務を行う存在ではない。

 通常の魔法使いであれば、そんな単純な仕事を聖なる精霊になど頼めないのだ。


 しかし意外であった。

 

 現れた火の精霊は嬉しそうに飛び回ると、かまどにくべられた薪に、火を点けてくれたのである。

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