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第128話「エリンとヴィリヤ④」

「分かった……話すね」


 エリンは思う。

 どこまで、『事実』を話して良いのかと……

 ……少しだけ迷った。

 その上で、決めた!

 やはりヴィリヤへ、正直に全てを、すなわち本当の事実は言えない。


 元々、ダンが好きなふたりだった。

 出会ってからは、同じ感情を発して、磁石の同極のように反発し合っていた。

 それが、この迷宮の探索を始めてからは、徐々に……

 助け合う仲間として、不思議で温かい共感を覚えていた。


 だが……

 その共感が紡ぐ絆は、まだ『か細く』頼りないものだ。

 ちょっとした『力加減』で、あっさり切れる恐れがある。

 それ故、生半可な事は言えない。


 エリンは、本能的にその『もろさ』を察したのである。

 

 話そうと覚悟を決めた後でも、エリンは何度か、話す事にためらいがあった。

 どの言葉を、どのように使うか、とても慎重になっていたせいだ。


 やがてエリンの『告白』が始まった。


「……エリンのお父様と仲間は……オークを含めた魔物の群れに殺された。魔物共を率いる首領ボスは、強かった。エリンの魔法が全く効かなかった」


「…………」


 エリンの告白を、ヴィリヤは息を潜め、聞いていた。

 ここまでは、今迄の会話から認識していた。

 

 だが、よくよく考えたら、違和感がある。


 一緒に、戦ってみて分かったが……

 エリンはヴィリヤに勝るとも劣らない、地の上級魔法をマスターした高位魔法使いである。

 先程の戦いぶりを見て分かる通り、いくら数が多くても、並みの魔物など問題にはしない。

 

 そう!

 単なるオークの群れなど、歯牙にもかけない筈なのだ。

 であれば、鍵となるのは……

 今、エリンが言った、魔物を率いていた『首領』である。


 残念な事に、まだヴィリヤに信用がないのか……

 『ズバリの真相』を話しては貰えない……

 だが、良く良く考えれば、ヴィリヤには答えが、徐々に見えて来る。


 やがて、ヴィリヤは確信する。

 エリンと肉親を含む仲間を襲った敵は……

 ダンが今迄に退けた、世界への『災厄』に深くかかわっていると。


 直近では、悪魔王アスモデウスだ。

 もしもエリン達を襲った『首領』が……

 悪魔の長たるアスモデウスであれば、エリンの力が通じないのも充分に理解出来る。

 自分の使う究極の水魔法でも通じるか、はなはだ疑問だ。

 話の辻褄がぴたりと合うのだ。


 災厄が起こった!

 災厄が取り払われた!

 と、『世界』へ伝えるのは、創世神の巫女である王女ベアトリスの神託による。

 ヴィリヤは……

 ベアトリスから神託を受け取り、勇者ダンへの取次ぎをしているに過ぎない。


 ダンだっていつも単に「仕事完了!」としか言わない。

 だから、災厄がどのように防がれたか……

 今回アスモデウスを、どこでどう倒したかなどは、一切不明なのだ。


 しかし……

 エリンは一体どこで?

 いつから? どうして? どのように?

 怖ろしい悪魔王と、接点があったのだろう?


 エリンが住んでいたという……

 最弱の魔物スライムも、ちっぽけな蟷螂かまきりさえ居ない世界……

 に大きな鍵があるような気がする。


「つらつら」と考え込むヴィリヤの耳には、エリンの話が続き、入って来る。


「……エリンはすんでのところで、けがされるところだったの……危ないところを危機一髪でダンが助けてくれた……だからダンは、エリンの王子様よ」


「…………」


 ダンが王子様……

 ヴィリヤの心には、大きな羨望が湧き上がる。

 

 もしも自分が同じように、ダンから助けて貰っていたら……

 祖父と父が決めた『婚約者』は勿論、『故国』さえも投げ捨て、ダンの胸へ思いっ切り飛び込んでいたかもしれない……と思う。


「たったひとりぼっちになったエリンを……強い王子様は……ダンは、明るい世界へ連れ出してくれた」


「…………」


「いろいろと……話してみたら分かった、ダンもひとりぼっちだった……その時、気が付いたの、絶対助けてくれる、いつも優しくしてくれるダンの事が……大好きになっていたって」


「…………」


 ダンが大好き!

 今なら、自分だって同じだ。

 けしてエリンに負けない!

 そう、強く思うのに……


 次に出たエリンの言葉を聞き、ヴィリヤは胸が張り裂けそうになった。


「でも……ダンは可哀そうなの、自分の意思を曲げられ、無理やりこの世界へ連れて来られたから」


「う…………」


 ヴィリヤは思わず唸った。

 辛い記憶が、押し寄せて来る。

 

 あの『お尻を叩かれた日』から、ダンと話すようになるまで、そんな事を考えてはいなかった。

 召喚されたダンが元居た世界とは完全に断ち切られ、いかに悲しみ、この世界で辛く暮らしていたかなど。


 創世神に選ばれし勇者………

 単にその『名』が素晴らしいとだけ感じていた。

 異世界の人間とはいえ、ダンは勇者になった事を誇らしく思い、ひたすら任務に励むべきだと考えていた。


 「元の世界? そんなつまらない感傷など捨ててしまいなさい!」

 故郷を思い、悲しい表情をするダンへ、容赦なく叫んでいた気がする。

 「どんなに困難な任務も、誇らしく思いなさい! 命に代えてもやり遂げなさい!」泣き言を言うダンへ、そうも言い放っていた気がする……

 

 ……私は、何という酷い無慈悲な振る舞いをしていたのだろう。

 もっとダンへ……

 彼の心を汲んで、優しくしていれば良かった……

 

 後悔で、胸を一杯にしたヴィリヤへ……

 まるでとどめをさすように、エリンの言葉が突き刺さる。


「お互いに良く分かり合えたの……だって! ひとりぼっち同士なんだもん……エリンが好きだよって言ったら……ダンもエリンの事を好きになってくれた。でもね、エリンはダンの事をもっともっと大好きになっていた」


「…………」


「エリンは、可哀そうなダンを癒したの、癒したかったの。だって! 心が傷だらけだったから……そしてお嫁さんにして貰い、ふたりは結ばれたのよ……」


「う、ううう……」


 ダンとエリンが結ばれた。

 身も心もひとつになった!

 ヴィリヤの羨望と後悔が、MAXとなる。

 

 私だって……

 ダンを癒し、結ばれる事が出来たのに……

 チャンスは、可能性は、いくらでもあった筈なのに!


「そこからは、ヴィリヤと一緒だよ」


「…………」


「いろいろな事を教えて貰った……エリンも凄く成長……している、そんな気がしてるの……以上よ」


 エリンの話が終わった瞬間。

 受けた精神的ダメージから、ヴィリヤは「がっくり」と力が抜け、俯いてしまったのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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