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第127話「エリンとヴィリヤ③」

 エリンとヴィリヤ。

 ふたりがこれから話そうとしているのは、いわゆる『コイバナ』だ。

 女子の好きな話題のひとつだが……

 自然な流れでそうなっただけで、特別に意識はしていなかった。

 

 何度かヴィリヤは、大きく深呼吸する。

 恋した告白など生まれて初めてだ。

 心のうちを、秘めたる思いを話すのには、もう少し勢いが必要だから。


「エリンさん、私がダンをこの世界へ召喚した経緯いきさつ等は、彼から聞いていますか?」


「…………」


 エリンは無言で頷いた。

 当然、エリンは知っている。

 今迄の『全て』を、ダンから聞いていたから。


 でも、本来は許されない事である。

 昔のヴィリヤなら……

 酷くダンをとがめていただろう。

 何せ、『勇者ダン』の存在はエルフの国イエーラとアイディール王国間、限られた者しか知らない国家機密なのだから。


 当事者以外の『第三者』へ、むやみに告げる事は重大な『契約違反』となる………


 しかし、エリンはダンの『妻』である。

 ふたりの様子を見ると分かる。

 人生を共に歩む者へ、お互いに全てを明かし、身も心も預けた……

 と、いう事なのだろう。

 

 ヴィリヤはまさか、ダンが自分以外の女性へ目を向けるとは考えていなかった。

 お仕置きをされてから、分かり合え、愛が芽生えたと信じていたのだ。

 

 ヴィリヤはまだ、理解していない。

 ダンが、ヴィリヤの『面倒』を見ているのは……

 単に『仕事上の付き合い』だけなのに、ヴィリヤは自分がダンから愛されていると思い込んでいる。

 愛する者同士、秘密を共有している……

 そんな、『大いなる誤解』があったのだ。


 ヴィリヤは強い視線を感じる。

 見れば、エリンが睨んでいた。


「ヴィリヤ、貴女……ダンへした事、ちゃんと反省してる?」


「え? も、もしかして……」


「うん、エリンは知ってるよ。ダンへ散々酷い事言ったし、無茶もしたでしょ?」


 今なら思い当たる。

 相手へ思い遣れる気持ちを持ったヴィリヤなら。

 だから、エリンから言われ、素直に反省出来る。

 エリンの指摘が、大好きなダンの事だから……尚更である。


「………はい、私はとても未熟でした。今も世慣れたとは言えませんが、ダンを召喚した頃の私は思い上がった子供でした」


「そうかもね、だからお尻ぺんぺんされたんだよ」


「え? お、お、お尻ぃ!?」


「そう! ダンにお尻ぺんぺんされて、叱られたでしょ?」


 エリンから出た衝撃の発言。

 ヴィリヤにとっては、永遠に隠したい『黒歴史』である。

 当然ながら、ヴィリヤの顔は真っ赤になる。


「う、うわぁぁ! お、お尻ぺんぺん!? そ、そ、そんな事までダンから聞いたのですかっ!」 


「うん! バッチリ聞いてるよ」


 エリンの声を聞き、ヴィリヤの興奮が醒めて行く。

 自分がお仕置きされたのを知っているのも、当たり前かもしれない。

 妻であるエリンは、全てを知っているのならと。


「た、確かに叱られました……でも、あの時私は……ダンから絶対に乱暴されると思いました。貞操の危機だとおびえていました」


 思い出す、ヴィリヤの目が遠い……

 

 あの日、怒ったダンの魔法で自由を奪われ……

 「ごろり」と芋虫のように、床へ転がされ……

 抱えられ、尻をぺろりとむき出しにされた時は……

 絶望しかなかった。

 

 本当に……怖かった。

 魔法で封じられ、声にならない悲鳴をあげ、泣き叫んでいた。


 話を聞いたエリンは口を尖らせた。

 ダンに対する信頼が、エリンに反論させる。


「乱暴って? 女性にムリヤリ、エッチするって事?」


「はい、そうです」


「もう! ダンはそんな事するわけないじゃん」


「はい! 今思えばエリンさんの言う通りです。ダンは女性に対し、誠実です。嘘や暴力を使って性的欲望を満たすなど、不埒ふらちな事は絶対にしません」


「だったら、何故?」


「ダンは誠実ですが、世間一般の男性は違うじゃないですか? 女性が隙を見せると男性はケダモノになる! 私はゲルダや、王宮のパトリシア様からそう習いました」


 ヴィリヤの言う通りかもしれない。

 街や酒場でエリンに声を掛け、口説こうとした男達には、欲望がはっきりと表れていた。

 

 人目がなければ、力づくで!

 という、よこしまな気持ちも、強く感じられた……

 はっきり言って、思い出したくもない。


 ヴィリヤの言う事は、確かに事実だ。

 エリンは、肯定するしかない。


「う! それは認める」


 エリンが同意したのを見て、何故か、ヴィリヤは勝ち誇る。

 今迄は防戦一方だったのが、「一本取れた!」と感じて嬉しいのかもしれない。


「宜しい! では……話を戻しますと、仰る通り、あれで私の目は覚めました。ソウェルであるお祖父様も、お父様も絶対にあんな叱り方はしませんから」


 ヴィリヤにとっては、初めての『お仕置き』

 お尻ぺんぺんは、相当『強烈』だったようだ。


 エリンは、ほんの少しだけ苦笑いしていた。

 思い出し笑いに近い、想像である。

 

「でも、ダンはちゃんと手加減してくれたでしょ……」


「ええ……後から考えれば………私のお尻を打つ手には、全然力を入れていませんでしたね……」


「じゃあ、痛くはなかったよね?」


「はい……でも、あの時は痛みより、怖さと恥ずかしさの方が勝っていましたから……さすがに泣いてしまいました」


「ふうん…………」


「でもそれ以来、壁が消えました……」


「壁?」


「はい、召喚してからずっと、ダンは私に対して何となくよそよそしかった……すなわち壁がありました」


「…………」


 『壁』があるのは当然である。

 ヴィリヤは召喚したダンに対し、思い遣りも全くなく、傲慢な態度をとっていたから。

 

「でもあの件以来、ダンは思いっきり遠慮なく物言いをしてくれるようになりました……彼が言ってくれる事は、面白く興味深い内容で、全部私の為になるものばかりでした」


「…………」


 ダンは……優しい。

 エリンは、改めて思う。

 心の底から反省したヴィリヤを許し、ちゃんと受け入れてやったのだ。


 エリンが、気が付けば……

 ヴィリヤの目は潤んでいる。

 熱に浮かされたようになっている。

 これは、恋する乙女の目だ……


「ダンは私をいつも助け、足りないものを補ってくれます……物言い自体は結構、厳しいのですが、私が傷つかないよう優しく気遣ってくれる。王宮魔法使いという立場の私の為、恥をかかせないように、常に立ててくれる。私をちゃんと褒めてもくれる……」


「…………」


「ダンと居れば、私は成長出来る……日々、はっきり実感していました。そして気が付いたらダンを大好きになっていました……以上です」


「…………」


「さて……私は、全て言いましたよ、今度はエリンさんの番です」


 ヴィリヤはそう言うと、エリンを正面から、「じっ」と見据えたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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