第126話「エリンとヴィリヤ②」
「エリンがヴィリヤの励みになるの?」
首を傾げた、エリン。
そう言われても、心当たりはない。
自分の言動がヴィリヤの励みになるなど、まるで実感が湧かないのだ。
しかし、ヴィリヤの眼差しは真剣であった。
「はい! そうです。エリンさんは、私にはないものを持っています」
「じゃあさ、エリンにあって、ヴィリヤにないものって何?」
「何って……そ、それは……いきなり言われても……」
「ねぇ! エリンのどこが? 何が?」
エリンは、ヴィリヤの励みになる原因を具体的に知りたい。
ヴィリヤから見た自分は、どう見えるのか気になる。
だから、分かるように教えて欲しいと促した。
改めて言われ、ヴィリヤは少し考えてみた。
エリンを見ると気持ちの高ぶりをはっきり感じるのに、妥当な言葉がすぐ出て来ない。
今の感情を、上手く言葉に言い換えられないのだ。
だから仕方なく叫んでしまう。
これはダンに対しても同じ、ヴィリヤのいつもの癖であった。
「どこって……いきなり突っ込まないで下さいよっ」
「…………」
「そもそもヴィリヤ、貴女から話を振っておいて、何?」
と、呆れたエリンは、無言でジト目。
非難の眼差しを受け、困ったヴィリヤは……
必死に考える。
「コ、コホン! ええっと……」
「…………」
ヴィリヤは考えるうちに、やっと妥当な言葉が固まって来た。
「これならば良い」と、思う。
「わ、私、エリンさんを見ていると……」
「見ていると?」
「き、気持ちが! 高鳴るのですっ!」
「気持ちが高鳴る?」
「はい! 胸が、とてもどきどきして来ます」
「???」
エリンは首を傾げた。
いまいち、分からない。
ヴィリヤは更に的確な言葉が見えて来た。
今度は大丈夫!
軽く、首を振る。
訂正します!
と、いう意思表示だ。
「ええっと、もとい、言い直します。………エリンさんを見ていると、凄くやる気になれるのですよ」
「凄くやる気?」
「そうです! 私も負けていられない、いっちょやるぞって、感じで……ああ、分かった!」
「分かった?」
「はい! 私になくてエリンさんにあるもの、それは前向きさです。辛い思いをしても、めげず、挫けず、諦めずの、素敵な前向きさだと思います」
感情から置き換えた言葉は、シンプルそのものであったが……
エリンは、意外な反応を見せる。
「素敵な前向きさか……そうなんだ……あのね、ヴィリヤ、聞いて……私も」
「え?」
「私もヴィリヤを見ていると、凄く刺激される。やる気が出るもの」
「エリンさんも? 私を見て、やる気が出るのですか?」
「そう! 前向きさなら、ヴィリヤだって持ってる」
「そうなのですかねぇ……私自身は全く感じないのですが」
「大丈夫! それに、ヴィリヤは凄く変わったよ。初めて会った時とイメージが全然違う」
「それ! わ、私もですよ。エリンさんの印象が、最初の時よりもだいぶ変わりました」
エリンとヴィリヤの、気持ちと考えは一致した。
『仲間』として、心の内をストレートに言い合った。
励まし合う事が出来た。
話の内容自体は他愛ない。
所詮大した事がないかもしれないが、間違いなく、今迄告げた事のない本音だった。
しかし何故か、それ以上の会話が続かず、無言となる。
暫し、ふたりは互いに見つめ合う。
「…………」
「…………」
共感はしたが……
エリンもヴィリヤも……
告げたい事は残っている。
ふたりとも、まだお互いに含みがある。
本当に言いたい事、知りたい事がある。
エリンが聞きたいのは、ズバリ!
ダークエルフに対するヴィリヤの認識。
エルフ達が、自分達ダークエルフを、どう考えているか知りたい。
何故、呪われているか主張する根拠を知りたい。
一方、ヴィリヤは、謎めいたエリンの出自が知りたい……
ふたりが思っている事は、実は『同じ』である……
その事実を知らないまま、ふたりは躊躇していた。
一旦言ってしまったら、聞いてしまったら……
行く手の見えない、底知れぬ暗闇に踏み出す……
そんな予感がするからだ。
未知ともいえるその領域へ踏み込んだら、もう引き返せない……
経験した事がないような底なしの怖さが、ふたりにはあった……
しかし……
いつまでも、無言で見つめ合っていても仕方がない。
エリンは頭を軽く振り、無理やり考え直す。
すぐ「ポン」と、手を叩く。
良い事を思いついたのだ。
『危険』のない質問で、ぜひ聞いておきたい事があったから。
「ええっと、ヴィリヤ」
「な、何でしょう?」
「ヴィリヤは何故、ダンを好きになったの? 良かったら……教えて」
「…………」
話の内容が全く変わった。
一番危ない質問ではないが……
これはこれで、答えるには相当覚悟の要る質問である。
案の定、ヴィリヤは暫し考え込んでいた。
考えた末に、何度か、小さく頷いている。
どうやら『告白』する決心がついたようだ。
そして、
「分かりました、エリンさん。お話ししましょう……」
「本当?」
「はい! 但し……」
「但し?」
「エリンさんにも全く同じ質問をします……もし私が話したら、エリンさんもダンを好きになった理由を話して頂けますか?」
何と!
ヴィリヤはエリンにも、同じ答えを求めて来た。
言われてみれば、その通り。
ヴィリヤにだけ『告白』させて、自分は話さないという、虫の良いお願いは出来ない。
エリンは基本、生真面目である。
だから、ヴィリヤの言う事は理屈が合っており、「尤もだ」と考えたのだ。
「……良いよ、エリンも話す」
納得したエリンは、ヴィリヤへ微笑みながら、『告白』をOKしたのである。
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