表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/191

第124話「消えない違和感」

 地下6階でいくつかの戦いを経たダン達は、地下7階へ降りた……

 少し進んだところで、結構な強敵に遭遇する。

 それは昆虫であったが、地上と同種のものが超が付くほど大型化した大蟷螂ビッグマンティスである。


 幸い、出現した数は一体だけであったのだが、大きさが半端ではない。

 体高は1m、そして体長は……3mを楽に超えていたのだ。


 地上に生息する普通の蟷螂かまきりは、種類にもよるが、大きくても体長10㎝そこそこ。

 なので、異常というか、信じられないくらいの巨大さである。


 この大蟷螂ビッグマンティス、何者かが意図的に、魔法か妖しい術で造り出したのか……

 それとも、この迷宮で自然に繁殖したのか……

 ここまでのサイズになった原因は、全く不明である。

 

 地上の種同様、当然肉食であるから、人間は勿論他の魔物も喰らう。

 迷宮内における、食物連鎖の上位に位置するくらいの捕食者なのである。


 大蟷螂はダン達を認め、左右に羽を広げた。

 目の前の『獲物』に対し、自分の身体を大きく見せて、威嚇しているのであろう。


 そして、表情のない無機質な顔をこちらへ向けた。

 否、昆虫でも表情は僅かにあるのかもしれない。

 ダン達には、分からないだけで……


 戦闘態勢に入った大蟷螂に対し、先陣を務めるケルベロスは低く唸って威嚇。

 片や、クランの周囲を舞う火蜥蜴サラマンダーは、より明るく発光し、牽制する。


 しかしダンは慌てていない。

 どうやら、以前にも大蟷螂と戦った事があるらしい。

 相変わらず威嚇し続ける大蟷螂を、軽く睨んでいる。


『エリン、ヴィリヤ、ちょっと良いか? あいつに対しては戦い方を変える』


『変える? 戦い方を?』

『ええっと、どのように……ですか?』


 エリンとヴィリヤが、ダンへ喰い付いた。

 ふたりとも冒険者として戦う事が新鮮らしい。


『分かっていると思うが、今迄の方法でも充分に戦える。なのに、敢えて変える理由わけを言おう』


『教えて、旦那様』

『私が冷気で凍らせて、エリンさんが岩で砕く……確かにダンの言う通り、今迄と同じ方法でも問題ないと思いますが……』


 興味津々《きょうみしんしん》のエリン。

 疑問を呈するヴィリヤ。


 ダンは片目を瞑り、微笑んだ。


『いいか、そもそも冒険者ってのは、本来シビアなその日暮らしだ』


『その日暮らし?』

『???』


 ツーと言えばカーと答えて欲しいダンではあるが……

 エリンとヴィリヤのふたりは、王族と貴族。

 上流階級の出身で、今迄生活に困った事はない。

 ダンの言う、『その日暮らし』という言葉は、ピンと来ないようだ。


『冒険者はな、正当な理由があれば、金になりそうなモノは常に頂戴するって事さ』


『???』

『???』


 ますます、首を傾げるエリンとヴィリヤ。

 これでは、駄目である。

 話は、全くの平行線。

 理解される気配は、ない。


 困ったダンは、遂に痺れを切らす。


『悪い! 言い方が回りくどかったな。早い話があいつのカマを回収し、ヴィリヤへ進呈する』


『え? あのカマをヴィリヤへあげるの?』


 大蟷螂は武器となる、巨大なカマを持っている。

 正確には、とげのいっぱい付いた前足だ。

 

 エリンは吃驚。

 そしてヴィリヤは、いかにも嫌そうという拒否の表情で、手を横に振った。


『ええっ!? 何故? あ、あんな虫の部位なんて要りませんよっ、気持ち悪い……』


『ヴィリヤ、まあ、そう言うな。あいつのカマは武器用の好素材で、売れば結構な金になる。今回お前の屋敷で拝借した装備の代金が、少しは返せるって寸法だ』


『へぇ! あのカマって売れるんだ? あ、成る程!』


 エリンは納得。

 「ポン」と手を叩くが……ヴィリヤはといえば、相変わらず渋い顔である。


『そんなの、気にしないで良いのに……あなた達からお金なんか受け取れないわ』


 ヴィリヤはそう言うが、ダンは基本的に義理堅い性格なのである。


『いやいや、金は大事だぞ。儲けられる時に確実に儲けるのが冒険者の心得さ。だからあいつを凍らせて粉々にするのは、無しなんだ。鎌の価値がゼロになっちまう』


 エリンは楽しそうに聞いている。

 そして悪戯っぽく笑う。


『了解! 売れそうな部位を取るのなら、旦那様が火の魔法で燃やすのも無しだよね』


『ああ、その通りだ。しかしカマを貰えば残りは用無しだから……燃やしちまう。そうじゃないと、あいつは不死者アンデッドになる……蟷螂の不死者なんてぞっとしないだろう?』


 ふざけたダンが両手を鎌の形で構えると、エリンとヴィリヤは顔をしかめ、同意する。


『うっわ、嫌だ、それ、考えたくない』

『確かに! 想像もしたくありません』


 やっと、エリンとヴィリヤの意見が一致した。

 更に、エリンがぽつり。


『でもエリン……あんな虫……初めて見たよ』


『え? 初めて?』


 エリンの言葉を聞き、ヴィリヤはまた違和感を覚えた。

 そして傍らのエリンを見ると、羽を広げて威嚇する蟷螂を、物珍しそうに見つめていた。


 確か……

 エリンはスライムを見た時も同じ反応をしていた。

 どこにでも居るスライムを……

 そして、この蟷螂も……


 さすがに、こんな巨大な魔物は地上に居ない。

 だが、『普通サイズの蟷螂』はありふれている。

 

 なのに、何故……こんなに珍しがるのだろう?

 エリンの育った土地って……どこだろう?

 さっきから、違和感が消えない……

 どうしても……


 そんなヴィリヤの想いは、ダンの念話で破られる。


『さあ、対大蟷螂の作戦開始だ。指示を出すぞ』


『了解!』

『は、はいっ、りょ、了解!』


 エリンは「打てば響く」という返事をしたが、ヴィリヤは大いに噛み、無理やり思考を切り替えたという感がありありである。

 ダンは知ってか知らずか、「にこっ」と笑い、ヴィリヤへ言う。


『まずはヴィリヤ、今迄通り氷化の魔法を使え。但し、威力を少し抑え、奴を完全に凍らさずに動きを止める程度でな』


『氷化魔法を弱めにですか?』


『その通り! もう何度も発動しているから、制御コントロールは完璧だな?』


『は、はいっ!』


 返事をしてから、ヴィリヤは軽く頭を振った。

 今は違和感の事を考えるなど、後回しにしないと。

 それより、目の前の戦いに集中せよと、己を叱咤したのだ。


 更にダンは、エリンへと告げる。


『次にエリン、お前もヴィリヤ同様、奴の足止めをやってくれ。ローランド様に使った地の魔法、【大地の束縛】で蟷螂の動きを封じ込めるんだ』


『旦那様、了解!』


『よっし! ふたりが蟷螂の動きを止めたその隙に、俺が剣で奴のカマを切り落とす。落としたカマを回収したら、ケルベロスと火蜥蜴サラマンダーが奴を速攻で焼却する。それで作戦完了だ』


 役割分担は明快である。

 エリンとヴィリヤは、ダンの説明により、これから行う作戦を完全に理解した。

 全員で協力し、化け物みたいな蟷螂を倒すイメージが、しっかりと湧いている。


『了解!』

『了解!』 


 後は……ダンの発する作戦開始の合図を待つばかりだ。


『よっし! 良いか? ……作戦、スタート!』


 頃合いを見計らい、ダンはクランメンバー達へ戦いの合図を出したのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ