第123話「反攻開始」
エリンは、「きゅ」と唇を噛む。
これからどうなるか、心配……なのだ。
でも……
ダンを信じる。
一生添い遂げる。
……そう信じて、自分の心と身体を任せた相手だ。
だから部外者であるヴィリヤは……関係ない。
結局は、ダンと自分の問題なのだ。
エリンは湧き上がる不安を吹き飛ばそうと、首を「ぶんぶん」と横に振る。
そう!
考え過ぎず、会話に入れば良いのだ。
折角、クランとしてまとまって来たのだから。
エリンは無理やり笑顔を作る。
ちょっと不自然にはなったが、努めて明るく振舞う。
『旦那様、あ、あいつ、どこに潜んでいるのかなっ。謎を解けって』
ダンは、エリンの気持ちが分かっているのだろう。
優しく微笑みかけてくれた。
『エリン、こんな時は逆手さ』
『逆手?』
首を傾げるエリンに、ヴィリヤが追随する。
『ダン、逆手って?』
ダンは素知らぬ顔をして、ふたりに言う。
『ああ、どうせさっきの奴は、隠れて俺達を見ている筈だろう?』
『確かに! 旦那様の事、気にしてた』
『うん、ダン! 確かにそう』
エリンとヴィリヤは意見が一致し、ふたりとも大きく頷いた。
ダンは何か策を考えているらしい。
悪戯っぽく笑う。
『そんな注目度ナンバーワンの俺達が、奴の前から消えたらどうなる?』
『え? 消えたら?』
『ダン、どうするつもりなのですか?』
消える?
所在不明となる?
ダンはどのような方法をとるのだろう。
エリンとヴィリヤの疑問に対し、余裕しゃくしゃくで答える。
『おお、手はいくつか考えた。それに』
『それに?』
『何ですか?』
『ずっと変だと思っていたよ、この迷宮』
『変?』
『何がですか?』
『地下1階の、【店】は後から作られたから別としてもさ……冒険者を奥へ奥へと誘い込む意思が、各所に仕組みとしていろいろ反映されている』
『意思?』
『仕組みとしていろいろ? あ、例えば魔導灯ですね?』
『ああ、そうだ。魔導灯も大昔はなかったらしいじゃないか? ギルドで地図を貰って話した時、王国もギルドも知らないってクローディアさんも言っていただろう? あんなもの、普通の冒険者はわざわざ設置しない。加えて、あちこちに見えないよう【視点】も隠されている』
『視点?』
『何か、魔法水晶みたいなものを設置して、来た者を見張るとか?』
『ああ、ヴィリヤの言う通りだ。その上、もうひとりのソウェルとやらが、俺に興味を持っているって……全て含め何故だと考えたんだ』
『もうひとりのソウェルがあいつに命令したんだね……旦那様と、凄く話したいって感じで』
『そうですね。ソウェルなんて、どうせ偽物の自称でしょうけど……あいつ、ダンをとっても気にしていましたね』
『うん! でだ! 逆手に取って、さっきの奴へ罠を仕掛けてやる』
『罠って、捕まえるの?』
『ダン、どうやって?』
『な~に、奴が幻影の魔法で所在を隠そうとしても、放出される魔力波だけは隠せない。出て来たところでキャッチして、実体がどこに居るのか必ず探知してやる』
『ああ、そうか! あいつの尻尾をぎゅっと捕まえるんだね』
『ですねっ! あんな失礼で偉そうな奴、ぎゃふんと言わせましょう』
3人は顔を見合わせて頷き、再び出発したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
謎の存在の正体を明かす……
更なる大きな目的も出来たが、まずダン達が目標として向かうのは迷宮の最下層だ。
迷宮へ来た本来の目的……
クラン炎の救出、そして迷宮調査の為には、完全な探索と、より多くの情報収集が必要だと考えたからである。
加えて、各自の鍛錬&スキルアップも忘れてはならない。
ダンはふたりへ告げた。
こんな状況の時こそ落ち着けと……
一歩、二歩下がって、自分を見れば良いという。
どんなに舞い上がって、浮わついているかが分かる。
終いには自分が滑稽に見える……
『俺自身が散々失敗をやらかしたからなぁ……今だから、カッコつけて言ってるけど』
苦笑し、頭を掻くダンを見て、エリンとヴィリヤは笑った。
心の底から大笑いした。
『という事で、警戒しつつ戦う……さあ、反攻開始だっ』
『旦那様っ、了解!』
『ダン、了解!』
地下6階でも……やはりというか、オークの群れは出た。
そして、先程『中断した作戦』も行われたのである。
ダンとケルベロスが先行、今度は新たに火蜥蜴も加わり……
オークを迎撃した。
だが、心配なのは、エリンの精神状態である。
だが今度は『大丈夫』であった。
ダンが離れて、またも「かっ」となりかけたエリンではあったが、今度は傍らに支えてくれる者が居た。
ヴィリヤが気を利かせ、とっさに手を握ってくれたのである。
なので、ちゃんと落ち着けた。
『ヴィリヤ、ありがとう!』
エリンは素直に礼が言えた。
『いいえっ、こちらこそっ!』
対して、ヴィリヤも素直に言葉を返せた。
暗闇に怯えた自分を、エリンは守ろうとしてくれた。
祖父と家を侮辱され、我を失いそうになった自分を、エリンが支えてくれた。
そう!
ふたりは改めて、実感していた。
仲間だから、お互いに助け合う。
足りない部分を補い合う。
『よっし、俺とケルベロス達は退避したぞっ、今だっ!』
ダンの合図と共に、氷化の魔法、岩弾の魔法が発動された。
その見事なコンビネーションにより、襲って来たオークの群れはあっさり壊滅したのであった。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
 




