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第121話「謎めいた影」

 魔獣ケルベロスと精霊、火蜥蜴サラマンダーに先導され……

 ダン達一行は、迷宮地下5階を進む。


 ちなみに火蜥蜴は、常人の肉眼では見えないようにしてあった。

 他の冒険者クランと遭遇した時、怪しまれない為である。


 実際に数組のクランと行き交ったが……誰もサラマンダーが居るのを見破る事は出来ず、何の問題も起こらなかった。

 通常の魔法灯に比べると、異常なほど明るい光に照らされたダン達クラン。

 3人を見て、他の冒険者は何か特別な魔法を使っているのだろうと納得し、羨望の眼差しを向けるだけであった。


 火蜥蜴が見えない以外にも、他のクランが見とがめないのは理由があった。

 何故なら、一行の中に、エルフのヴィリヤが居たからである。

 普通の人間から見れば、エルフが使う魔法は時に規格外、未知のものも多々あった。

 エルフは北の妖精の一族の末裔として、不可思議な魔法を使うという見方をされていたのだ。


 さてさて……

 地下5階は、境界線といえるフロアだ。


 境界線というのは、このフロアから、行方不明者が出始めていたからである。

 そして……

 ダン達は、まず最初の目的場所に到着しようとしていた。


『そろそろ例の場所だ』


『了解!』

『了解です!』


 例の場所とは……リアーヌの兄が死んだといわれる部屋なのである。

 

 冒険者であるリアーヌの兄は、某クランに臨時雇いされ、共に行方不明者の捜索をしていた。

 だが探索中に、その部屋でいきなり魔物に奇襲されてしまった。

 

 リアーヌの兄が発した「俺が盾になる! 逃げろ!」という声。

 盾役として雇われた、自分の務めを果たす……

 本当に真面目な性格だったという……リアーヌの兄らしい。


 だが……

 他のメンバーは兄を見捨て、全員あっさりと逃げてしまった。

 薄情にも、その後現場を見に行ったり、捜索もしなかったようだ。


 ……ダンはリアーヌと知り合ってから、当時の様子を調べようとして、その『生き残り』達に会った。

 詳しい話を聞こうと、少し「飲ませて」尋ねたら、彼等は全てを話した。


 だが、この生き残り達は……とんでもない『外道』だった。


 兄の死を深く悲しむリアーヌを、まるで冒涜ぼうとくするかの如く、彼等は面白可笑しく語る始末……

 リアーヌの兄など、まるで使い捨ての駒のような、酷い物言いをしたのである。

 

 その上、事もあろうか……

 リアーヌを慰めるふりをして誘い出し、乱暴する事まで計画していたのだ。


 ダンのはらわたが、煮えくり返ったのはいうまでもない。


 数日後……

 そのクランが冒険者ギルドから依頼を受け、王都郊外へゴブリン討伐の依頼に赴いた際、ダンは密かに鉄槌を下した。

 魔法により、近辺に居たゴブリン全部を、そのクランへ向かわせるよう仕向けたのだ。

 

 その結果……

 1,000体を楽に超える、飢えたゴブリンの群れに囲まれたクランは、生きながら喰い殺されてしまった……まさに因果応報である。

 

 ちなみにクランメンバー達の死は、他のクランから依頼引き受け中に起きた『不慮の事故』として報告されていた。


 閑話休題。


 ケルベロスは先頭を悠然と進み、その周囲を舞う火蜥蜴が照らす先に『事件現場』はあった。

 小さな城の大広間くらいの部屋である。

 入口に、罠などがない事を確認してから、ダン達は『部屋』へ入った。


 リアーヌの兄が『亡くなって』から……

 もう半年以上が過ぎている。


 遺体などは見つかっていないが、この迷宮で人間の遺体が見つかる方がまれである。

 理由は……敢えて言わないでおこう。

 『部屋』にも当然……痕跡などはない。

 何もない、がらんとした空間があるだけだ。


『何だ………魔物どころか、気配もなしか……ん?』


『あ!』

『な、何?』


 最初にダンが気付き、エリンとヴィリヤも気配を感じた。


 突如、部屋の奥に『何か』が出現したのだ。

 どうやら『実体』ではないらしい。

 まるで影のような、頼りない、ゆらゆらした気配が立ち上ったのである。


 その『影』を見たダンは慌てない。

 『影』が攻撃力を持たず、危害を及ぼさないと見切ったからであろう。


『ふむ、どうやら……幻影の魔法だな』


『幻影?』


 エリンが首を傾げると、ヴィリヤが説明してくれた。


『ええ、空間魔法の一種です。魔力で自分の姿を離れた場所に映し出します』


 影は、人型としてはっきりした輪郭を作るが……

 顔かたち、出で立ちまでは映さない。

 

 ダンが見破った通り、現れたのはシルエットのみであった。

 どうやら……相手は正体を隠したいようだ。


 『影』は重々しく声を発する。

 けして若くはない。

 壮年以上の男の声だ。 


「そこの男よ、名乗れ!」


「必要ない」


 正体不明の者に、それも相手が名乗らないのに、こちらから答える必要などない。

 さすがに、ダンは素っ気なかった。

 『影』は少し考えているようであったが、ダンの名を知りたがる『理由』を告げてくれた。


「……ふむ、ならば言おう。先ほどから常人とは思えない魔法を使う……一体、お前は何者だ? 我が王が……ソウェルが……気にしている」


「ソウェル!? まさか! お、お祖父様が?」


 この世界で言うソウェルとは……エルフ族全てを統括する長の称号だ。

 世襲ではなく、実力人望とも最も優れたエルフが先代交代の度に、職務を受け継ぐと言われている。

 そして、現ソウェルは、ヴィリヤの祖父が務めていた。

 ちなみに『エルフ』は人間が呼ぶ俗称で、彼等は自分達をアールヴと呼ぶ。


「お祖父様? 誰だ、それは?」


「何、言ってるの! ソウェルよ! ヴェルネリ・アスピヴァーラよ!!!」


「ヴェルネリ? 違う、そやつは偽りの存在だ。真のソウェルは別にいらっしゃる」


 ヴィリヤの祖父が、ソウェルではない?

 性格的にも、誇りを大事にするヴィリヤはむきになる。


「偽り!? 失礼ね! 貴方は何て事を言うのっ! それこそ嘘よ!」


 ヴィリヤの激しい非難を受けた『影』は、すぐピンと来たようである。


「ふむ……女……お前は卑しきアスピヴァーラに縁ありき者か?」


 ソウェルどころか……

 『家』まで貶められたヴィリヤはもう我慢出来ない。


「い、卑しき! な、な、何を言うのっ! 我がアスピヴァーラ家は長い歴史を誇るアールヴの名家よ!」


「ふん! 卑しきアスピヴァーラがソウェル……それは誤りだ……所詮は虚像に過ぎぬ」


「きょ、虚像!? な、な、何を言うのっ!」


 ヴィリヤとのやりとりを、堂々巡りだと感じたのだろう。

 『影』はいきなり話題を変える。


「お前達……この迷宮の、真実を知りたいのだろう?」


「な!」


 ここでダンが、「さっ」と手を出し、憤るヴィリヤを制した。

 そして、『影』の質問に答える。


「知りたいとは思わないが……知る必要はある。その為にここへ来た」


「ならば……先へ進め。そして謎を解き明かし、我らが下へ来い」


 そう言うと『影』は「すっ」と消えてしまった。


「あ、ま、待てっ! こらっ!!!」


『落ち着け、ヴィリヤ』

『落ち着くのよ、ヴィリヤ』


 ダンとエリンがなだめても、ヴィリヤの興奮は収まらない。

 怒るべき相手は、もう去ってしまったというのに。

 

 一方……

 ダンとエリンは、顔を見合わせると大きく頷く。


 この迷宮探索が……

 単なる救助や調査で終わらない事を、はっきりと確信していたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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