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第120話「思い遣り」

 地下4階で何回か戦闘を繰り返したダン達は、いよいよ地下5階へと足を踏み入れた。

 この地下5階はリアーヌの兄が死んだと言われているフロアでもある。


 ダン達が階段を下りて行くと、急に壁面の魔導灯が途切れた。

 3人の視線の先には、真っ暗な世界が広がっている。


『ほう、ここから先は魔導灯がないんだな。ギルドの地図にもそう書いてある』


『うっわ、真っ暗。でもこんなの楽勝! エリンにはよっく見えるよ』


『…………』


 ダンの言う通り、地下5階から魔導灯がなくなると、地図には記されていた。

 つまり、手立てを持たない冒険者は暗闇の中を進まなくてはならない。

 

 人間やエルフの冒険者は、特異体質でもない限り、夜目が利かない。

 闇は魔族の跋扈ばっこする世界をイメージさせ、恐怖を増幅させる。

 

 暗闇を克服し、探索を円滑にをする為にはいくつか方法がある。

 魔法を使えるものは魔法灯と呼ばれる異界の灯りを呼び出す。

 使えない者は……松明たいまつ、または携帯用のランプ、魔導灯などを使うのだ。


 ちなみに迷宮の壁に備えられている魔導灯は大型過ぎて携帯には不向きだ。

 ある不心得者が居て、こっそろ取り外して『個人用』に使おうとしたが、結局無理であった。


 また……

 取り外す現場を見られたその者は、他の冒険者から散々非難、叱責された上、半殺しの目にあったという。

 迷宮内で全ての冒険者が共有する、大事な設備を持ち去ろうとしたのだから無理もない。

 それが、大事な命を支えるモノなら尚更なのである。


 閑話休題。


 ダンは、ヴィリヤの屋敷にあった携帯用魔導灯を3つ取り出すと、エリンとヴィリヤへ配った。


『これは念の為に渡しておく』


『うん! 念の為だよ。エリン、こんなのなくても見えるから』


 エリンは魔導灯を見て、軽く鼻を鳴らす。

 不要だという意思表示である。


『…………』


 だが先ほどからヴィリヤだけが何も言わず、黙り込んでいた。


 ダンは夜目が利く。

 魔法による灯りも呼び出せる。

 異世界から召喚し、ダンの力を『管理する』ヴィリヤは知っている。


 そして不思議な事に……エリンも夜目が利くらしい。

 すなわち、ふたりはこの暗闇に関して全く支障がない。

 つまり、怖くなどない。

 しかしヴィリヤには闇の先が見通せない。

 今、渡された魔導灯だけが唯一頼りなのである。


 渡された魔導灯は、エルフが通常の外出用に使うものであり、灯りはそんなに強力なものではない。

 ぼんやりと周囲を照らすくらいだ。

 その代わり、魔力の消費量が極端に少なく、有効使用時間がとても長い。

 そこそこ探索の役には立つだろうし、何もないよりはだいぶましだ。


 ヴィリヤは渡された魔導灯を大事そうに抱えた。

 大事にするのには別の夜目が効かない意外に別の理由があった。

 実は、ヴィリヤは……魔法による灯りを呼び出せないのだ。

 暗闇探索用の魔法『魔法灯』の発動は比較的簡単法なのに、子供の頃から何度練習しても駄目だった……


 魔法使いが使う魔法には『相性』がある。

 マスターレベルに達したヴィリヤでさえそう。

 ヴィリヤは、『魔法灯を使えない』

 だから、子供の頃から真っ暗な闇に底知れぬ恐怖を感じる。

 加えて、迷宮には様々な音があった。


 地下水が滴り落ちる自然な音くらいならまだ良い。

 だが……

 魔物が吠え、唸る怖ろしい声。

 更には人なのか、魔物なのか、正体不明の存在があげる命が消える断末魔的な悲鳴……

 そんな『耐えられない音』が、あちこちから響いて来る。


 地下5階の闇を見て……

 初めてヴィリヤは……副官ゲルダの言葉が身に染みていた。

 散々注意されても、「たかが迷宮なんて」と、安易に考えていた。

 

 それに……

 いざとなれば、ダンに頼れば良いと思っていた。

 持参した魔導灯もあるしと。


 だが……迷宮の闇はとても深く、想像以上に不気味であった。

 心配するゲルダの言葉が……何度も、ヴィリヤの心の中でリフレインする。


 ヴィリヤ様、今回の迷宮探索を、絶対に甘く考えないことです。

 ヴィリヤ様、安易に考えていますね。

 ヴィリヤ様、失礼ながら貴女は迷宮という場所へお入りになった事がない。

 ヴィリヤ様、迷宮とは地上と全く違う世界なのですよ。

 ヴィリヤ様、我々リョースアールヴは迷宮探索には適していません。


 ゲルダ……私……甘く考えていたわ……

 深い闇が怖い……凄く怖い……

 この先は何も見えない……行けそうもない……足がすくんで動かない……

 やっぱり、……私は足手まといなんだ。


 身体を固くして、俯くヴィリヤの目の前が急にパッと明るくなった。

 迷宮が昼間のように明るくなる。


 驚いてヴィリヤが見れば……

 小型の竜のような蜥蜴が、身体を強烈に発光させながら、宙を舞っていた。

 その数は、10体……


「え? な、何? まさか! 火の精霊(サラマンダー)!?」


 思わず肉声が出た。

 と、その時。


『ヴィリヤ、心配するな』

『そうだよ! 安心して! 私達が一緒なんだよ』


 念話による励ましが、ヴィリヤの心に響く。


『ダン、エリンさん……』


『ヴィリヤ、さっきも言ったが、渡した魔導灯は非常用だ』


『非常用?』


『うん! それに発光が不安定な魔法灯ではなく、俺が火蜥蜴サラマンダーを呼び出した。俺達の探索にはその方が便利だ』


 術者が呼び出す魔法の灯りより、火蜥蜴の方が俺達には便利。

 ……確かに……明るい

 

 否、違う。

 『俺達の探索』ではない。

 夜目が利くダンとエリンには、『灯り』など殆ど必要ないのに……

 何故?


 そんな事を考えるヴィリヤだが、ダンの話は続いている。


『火蜥蜴には、ケルベロスと一緒に先鋒を務めて貰う。彼等が先導し、俺が次に行くから、ヴィリヤは俺の後ろ、真ん中辺りから援護してくれ』


『うん! エリンは最後方を固めるよ、だから後ろは安心してっ! ヴィリヤには中堅ポジションを任せたよっ』


『え?』


 驚くヴィリヤ。

 でも……

 前にはダン、後ろにはエリン。

 ふたりに挟まれた真ん中……

 よくよく考えてみれば、最高な安全ポジションだ。


 ハッとしたヴィリヤの目に、ダンの笑顔が飛び込んで来る。


『ほら? こういう時は打てば響く返事だぞ』


 そして、エリンも優しく微笑んでいる。


『そうだよ、ヴィリヤ。了解! ……でしょ?』


『う、うん! ……りょ、了解!』


 ぎこちなく返事をするヴィリヤの表情が……あっという間に明るくなる。

 すぐに気付いたのだ。

 ダンとエリンの優しい思い遣りを。


 闇に怯える、ヴィリヤの誇りを傷つけないよう……

 ダンとエリンは、さりげなく気配りしてくれたのである。


 ふたりから大事にして貰い、ヴィリヤは嬉しくなる。

 改めて自分は、クランの一員なのだと感じる。


『ありがとう!』


 ヴィリヤは元気に礼を言うと、とびきりの笑顔をダンとエリンへ披露したのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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