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第116話「エリンの変貌」

 地下2階に引き続き、ダン達は地下3階を難なくクリアした。

 襲って来た魔物はスライムにゴブリン……

 出現する敵は上層と全く変わらず、幸いルーキーキラーも出現しなかった。


 ちなみに、他の冒険者クランとは、何度も行き交った。

 黙って会釈、または元気よく挨拶、そして視線を合わせず無言で通り過ぎる者も……

 冒険者達の反応は、多種多様であった。

 地下2階で襲われた時に感じた、危険な気配はあまりなかった。


 行き交ったクランの中に、ルーキーキラーは居たかもしれない。

 しかし彼等は普段、『善良』という名の仮面を被り、普通の冒険者を演じている。


 機会があって凶行に及ばなければ、醜い正体は露見する事がない。

 もしかしたらダンの素顔を見知る者が居り、ランクBの上級ランカーだと見て、自ら襲撃を回避したかもしれなかった。

 また3人の醸し出す実力者の雰囲気が、彼等の襲撃を逡巡しゅんじゅんさせたかもしれない。


 結局……

 数回ほど魔物との戦いを経て、ダン達は地下4階へ入った。


 ダンの言う通り、迷宮は階層が深くなればなるほど、出現する魔物は強くなり、様々な罠や仕掛けも増える。

 すなわち地下深く潜れば潜るほど、リスクが大きくなって行く。

 

 この人喰いの迷宮も例外ではない。

 地下4階から、出現する魔物のレベルが「がらり」と変わるからだ。

 

 人間より強靭な肉体を誇る人型魔物ヒューマノイドオークの群れ、そして地上の種を極端に巨大化、凶暴化させたような、大蟷螂ビッグマンティスなど……

 不慣れな冒険者など、あっという間に命を失うレベルの強敵である。

 

 実はこの迷宮で、一番死人が出るのも、ここ地下4階なのだ。

 地下3階まで経験した初心者達はつい気が大きくなる。

 自分達の実力を過信し、勘違いしたまま、この地下4階へ来たとしたら……

 結果は……推して知るべしである。


 しかし地下4階の魔物も、所詮ダン達の行く手を阻むレベルではなかった。


 確かに、油断は禁物だ。

 だが……

 表立った肩書きこそないものの、実力が全員ランクAといって過言でないクランには、足止めにもならない。


 中でもダンとエリンは実戦を充分に積んでいた。

 問題はヴィリヤだけであったが、マスターレベルの魔法使いである彼女は、既に上層で『コツ』を掴んでいた。

 

 確かにこれまで戦ったゴブリンやスライムと比べ、オークではレベルに差があり過ぎるが……

 攻撃方法自体は全く変わらない。

 そもそも『氷化』という魔法が、上層の魔物に対しては過分な攻撃であったのだから。


 さてさて、地下4階で遭遇したオークどもは、5体の小さな群れである。


 ここでもダンは、『戦い』をエリンとヴィリヤのふたりに任せていた。

 同じように『氷化』、そして『岩弾』のコンビネーションで、オーク達は呆気なく倒される。

 もう、何度も繰り返したパターンだ。


 そしてか細いながら結ばれつつあった絆から、エリンとヴィリヤは勝利した瞬間には『ハイタッチ』するほどの『仲』となっていた。


 それが……この戦いでは、エリンの様子が違っていた。


『エ、エリンさん?』


『…………』


 ヴィリヤは、吃驚していた。

 いつもなら笑顔でねぎらってくれる筈のエリンが。

 明るくハイタッチをするどころか……


 物凄い形相で唇を「ぐっ」と噛み、拳を「ぎゅっ」と握り締めながら、斃れたオークどもを睨み付けていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後……

 地下4階では、頻繁にオークが出た。

 エリンとヴィリヤは、当然というか、お約束のように倒した。


 戦いの最中、そして終わった時……

 エリンの表情は厳しいまま、変わらなかった。


 気配を読む能力には長けていないヴィリヤ……でもさすがに分かる。

 エリンの瞳には凄まじい怒りと憎しみ……

 そして同時に、魂からは深い悲しみの波動が、強く強く発せられていたのだ。


『あ、ごめんねっ! ぼうっとしちゃって』


 いきなり謝られて、ヴィリヤはハッとした。

 まじまじと見れば、エリンは哀しく笑っていた。

 怒りと悲しみを、無理やり心の奥に引っ込めたという雰囲気で……


『い、いいえっ』


 ヴィリヤは首を振る。

 言葉が出て来ない。

 「違う、気になどしていない!」

 と、いう最低限の意思だけ送るのが精一杯であった。


『ふふ、じゃあ、ハイタッチ!』


 エリンは、ヴィリヤの手を取った。

 そして軽く合わせた。


 こつん……


 拳に伝わる軽い衝撃が、ヴィリヤを満たす。


 温かい……でも哀しい……

 エリンのぬくもりが、ヴィリヤの心を「そっ」と包む。


 ダンと出会う前……

 故国イエーラに居た頃の、挫折を知らないヴィリヤなら、相手に気を遣わず遠慮なく聞いていただろう。

 エリンが、オークに対してそれほどの憎悪を持つ理由を。

 他人事のように好奇心旺盛な性格を、あからさまに、むきだしにして。


『…………』


 しかし、全然聞こうとは思わなかった。

 今のヴィリヤには……分かるのだ。

 

 敢えて言葉に出して、聞かなくとも。

 か細いながら、確かな絆が伝えて来る。


 エリンの心の痛みが、魂へ刻まれた深い傷が……

 流れ出る血が、信じられないくらいに多い事が……


 まるで己が体験した過去の……

 忘れ去りたい辛い思い出のような痛みを……

 ヴィリヤは……強く強く感じていたからであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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