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第115話「ルーキーキラー②」

 通称『人喰いの迷宮』こと、『英雄の迷宮』地下2階を、ひとりの女が歩いていた。

 エルフが好んで使う、独特なデザインの革鎧を纏った人間族の女だ。

 

 体躯は、男顔負けで大柄。

 肩まで伸びた黒髪に、漆黒の瞳を持ち、顔立ちも端麗である。

 迷宮の壁に取り付けられた、魔導灯の淡い光が女の横顔を照らす。


 たったひとりで危険な迷宮を歩いているというのに、何故か女には不安が見られない。

 「すたすた」と迷う事無く、真っすぐに歩いて行くのだ。

 すぐ分かる。

 女が目指すのは、下層……

 階下へつながる階段であった。


 ……まもなく、その階段が見えようかとした瞬間。

 横道から、「ばらばらっ」と大勢の男達が現れた。

 全員革鎧を着用しており、冒険者のようだ。

 ざっと10人以上は、居るだろう。


 行く手をふさがれ、女は立ち止まった。

 軽く肩を竦めたようだ。


 リーダーらしき長身の男が、「にやにや」笑いながら言う。


「おほう、女にしてはでっかいけど、可愛い姉ちゃん。おひとりさまで、どこ行っくのぉ?」


 最初に質問したリーダーの男に続き、残りの男達も、はやし立てる。


「そうそう、ここら辺は危ないぞぉ」

「いひひひ、迷宮は物騒だからなぁ」

「俺達が一緒について行ってやる、ボディガードだぞぉ」


 男達から「いじられた」、女の表情は変わらない。

 全く、臆した様子がない。

 男達の目の前で、手を軽く振った。


「いや、断る。結構だ」


 女は同行を拒否したのに、男達は色めき立つ。


「おお、そうか! 断るのに結構ってのは、結局OKって事か?」

「やった、やったぁ」

「た~っぷり、可愛がってやるぜぇ」


 人数を頼んで、調子に乗る男達へ、女は「きっぱり」と言い放つ。


「私は要らんと言った! どこかの押し売りみたいな詭弁きべんを使うな。結構っていうのはノー、不要だって事だ」


 だが男達は、女に断られても、しつこく、めげない。

 まるで、執念深いハイエナのようである。


「おいおい、そんなにつれない事言うなよぉ」

「そうだ、そうだ」

「逆ハーレム最高だぜぇ」


 にやにやする男達に対し、女も不敵な笑みを浮かべた。


「ふん、お前ら……この国の冒険者ギルド所属なら、合言葉を知っているな?」


「な、何だとぉ、このアマ」

「したてに出てりゃ、いい気になりやがってぇ」

「少ししつけをしなきゃいかんなぁ」


 全く怯えない女を見た、冒険者の男達は意外だと思ったらしい。

 相変わらず凄もうとしていた。


 しかし女は、男達の恫喝を一切無視する。


「……では、合言葉を言うぞ。……我は万物の創造主、偉大なる創世神に誓う! 安全セークールス!」


 女は合言葉を告げた。

 だが、男達の反応はない。


「…………」

「…………」

「…………」


 無言になった男達を見て、女が面白そうに笑う。

 まるでこんな奴等は、全く危なくないとでもいうかのように。


「どうした? 合言葉を言ったぞ。お前達、返しの言葉を戻さないのか?」


 男達は、ずっと黙っている。

 女を見る目は、いつのまにか憎悪と殺意に満ちていた。


「…………」

「…………」

「…………」


 女は再び鼻を鳴らし、


「ふん……愚かな奴等だ。創世神への誓いを破れば、地獄に堕ちると心配しているのだろうが……」


「…………」

「…………」

「…………」


 男達が答えないのは、女の『指摘』通りであった。

 この世界では不思議な事に、悪党でも信心深い。

 改めて「創世神へ誓え!」と問われれば、はっきりと明言出来ないのだ。


 魔導灯の淡い光に満ちた空間に、女の嘲笑が響く。


「ははははは! 誓いなど関係ない! お前達がやっている事は立派な犯罪、既に地獄行き確定なんだよ」


 地獄行き確定!

「ずばん」と投げ込まれた直球の言葉を聞き、男達のタガは外れた。


「何だとぉ、くっそぉ!」

「この馬鹿アマぁ!」

「力づくでぇ、やっちまえ、おらぁ! 犯しちまぇ!」


「もう……本性を現したのか? 馬鹿は……お前達だ」


 そう言うと、女はピンと指を鳴らした。

 瞬間!


 「ごう」と音を立て、紅蓮の炎が立ち上る。

 どうやら女は魔法を使ったらしい。

 襲い掛かろうとした男達は全員、呆気なく炎に包まれた。


 ぎゃああああああっ!

 ぐわああああああっ!


 悲鳴があがる。

 絶叫!

 阿鼻叫喚!


 男達は哀願する。

 燃え盛る炎に包まれながら……


「た、助けてく……れ」

「お、俺には……子供が居る……ち、小さな娘が」

「寝たきりの……お、お袋がぁ」


 しかし……


「お前達が乱暴し、殺した人達にも居たんだよ、愛する家族がな……」


 炎に照らされた女は、厳しい表情で、燃え上がる男達を見つめていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 女を襲って来た男達は、『燃えカス』になって迷宮に転がっていた……


 ひとり残された黒髪の女へ、少し離れた場所から見ていたらしい別の女がふたり、そして狼のような犬が一頭、近付いて行く。

 近付く女達へ、背中を向けていた女はパッと振り返った。


 美しい女は何と!

 男に変わっていた。


 実は、この女はダンであった。

 待ち伏せしていた男達を試す為、変身の魔法で女に擬態し、囮役おとりやくになっていたのである。


『旦那様!』

『ダン!』


「うおおん!」


 近付いて念話で呼びかけた女達は……エリン、ヴィリヤ。

 そして、吠えた犬はケルベロスである。


 全員が消し炭になった男達を見た。

 ダンは、軽く息を吐く。


『見たか? ルーキーキラーとはこんな奴等だ。この地下2階までは、冒険者としてデビューし、日が浅い者が最も多い。それに迷宮は密室で、地上と違って目立たない。闇から闇へ葬るという言葉通り……奴等にとっては絶好の狩場なのさ』 


『…………』

『…………』


 エリンとヴィリヤは言葉を返せなかった。

 

 ダンと男達の会話も念話を通じて送られていた。

 これまで散々悪事を働いてもいたし、非道な悪党を擁護する理由もない。

 しかし割り切れない……この気持ちは何なのだろう?


 今回、ダンは『汚れ役』を買って出てくれた。

 ルーキーキラーとの戦いでショックを受けるエリン達を気遣ってくれたのだ。


 仲間同士で殺し合うなんて、虚しい……

 ふたりの、そんな微妙な心の内を、ダンは代弁してくれる。


『俺だって同族は殺したくない。だが……クランの自衛と、今後犠牲者を出さぬ為には仕方がない』


『…………』

『…………』


 エリンとヴィリヤは、またも口を閉ざしてしまう。

 そして、


『はぁ……』

『はぁ……』


 迷宮の現実に触れたエリンとヴィリヤは、ダン以上に大きなため息をついていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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