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第114話「ルーキーキラー①」

 エリンとヴィリヤは最初の戦いでスライムを倒すと……

 次にゴブリン、更に再びスライムと戦い、そしてまたスライムと戦い……

 冒険者として、少しづつ実戦経験を積んで行った。

 

 その間、ダンは敢えて何もせず、ただ見守っているだけであった。

 敢えて戦わない事で、エリンとヴィリヤの絆が深まる事を見守っていたのだ。


 ダンが加勢しない事もあり、エリン達は戦いの際、真剣に且つ慎重に戦っていた。

 いくら相手が低レベルの魔物とはいえ、絶対に気を抜くなと、ダンから徹底させられていたからだ。


 ギルドから、提供して貰った地図に従い進む一行は……

 地下3階へ降りる階段の間近に迫った。

 と、ここで。


「うおおん!」


 またも、ケルベロスが吠えた。

 

 どうやら前方に、何者かの気配がするらしい。

 部下のゲルダに擬態したヴィリヤが、美しい眉をひそめる。

 魔法発動の時以外、会話は念話だ。


『また敵……ですか』


 一方エリンは首を振った。

 そして、


『ううん……これって、敵とは違う。旦那様……そうだよね?』


 エリンから同意を求められ、ダンは苦笑している。

 当然『敵』の存在は、キャッチしていた。


『ああ、エリンの言う通り、この反応は魔物ではなく俺達の同胞。つまり人間族だな。人数は4人……場所が場所だし、冒険者クランらしい……全員、男だ。年齢は……ばらばらか』


 この先に居るのが人間と聞いて、エリンとヴィリヤは安堵する。


『やっぱり、人間? じゃあ、旦那様、敵じゃないよね? ケルベロスの勘違い?』


『へぇ、冒険者のクランなのですか? で、あれば、エリンさんの言う通り、ひと安心ですね』


 しかしダンは手を挙げて、横に振る。


『待て待て、ふたりとも。戦いの時は絶対に油断するなと言っただろう?』


『だって! 相手は人間だよぉ』

『そうですよ、エリンさんの言う通りです』


 顔を見合わせて、頷き合うエリンとヴィリヤ。

 ダンは、少し嬉しくなって、思わず微笑む。


『おお、ふたりとも意見が合って来たな。やはり何回か一緒に戦うと違う』


 ダンに指摘され、エリンとヴィリヤは見つめ合ったまま、固まってしまう。

 言葉も出て来ない。

 表情は……複雑だ。


『…………』

『…………』


 ダンは小さく頷くと、満足そうに笑う。


『まあ良い傾向だ、お前達の距離は確実に縮まっている』


 距離が縮まっている……

 果たして本当にそうなのだろうか?

 あまりそうは感じない。

 様々な思いと感情が、ふたりの間には飛び交っていた。

 

 そして……

 相変わらず、エリンとヴィリヤ、ふたりから言葉は出て来ない。


『…………』

『…………』


 ダンは頃合いと見たのだろう。

 索敵でキャッチした、『敵』の話を再開した。


『じゃあ、話を戻そう。この先に潜んでいる奴等は『ルーキーキラー』かもしれない』


 ルーキーキラー?

 初めて聞く言葉にエリンは首を傾げ、ヴィリヤは記憶の糸を手繰る。


『ルーキーキラー?』

『ダン、その名は、聞いた事はありますが……一体、何なのですか?』


 エリンとヴィリヤの視線を受け、ダンは詳しい説明に入る。


『よく覚えておいてくれ。人間やエルフでも悪党は居る。地上に山賊や強盗が存在するし、奴らは金品目当てに襲って来るから敵だとみなしているじゃないか』


『確かに』

『まあ、そうですね』


『ルーキーキラーもそうだ。文字通り、初心者殺し……金品目当てでデビューしたての冒険者ばっかりを狙う不届きな奴等さ』


『え? 狙う? それって?』

『人間同士、エルフ同士、同族で殺し合うって事ですか?』


 エリンとヴィリヤは信じられなかった。

 冒険者は助け合うものだと認識しているから。

 ルーキーキラーは、完全に真逆な存在だから。


『ああ、そうだ。奴等は冒険に不慣れな同胞を襲って、金目のものを奪うのは勿論、装備品まではぎ取る』


『旦那様、何それ?』

『許せないです! 強盗行為じゃないですか?』


『ああ、男はそのまま殺し、女は乱暴して殺す無法者だ。まあ同族同士だとしても、相手から襲われたら、自衛の為に相手を倒すのは仕方がないな』


 ルーキーキラーの悪辣さを聞いたエリンとヴィリヤ。


『さいってぃ! ヴィリヤ、そんな奴等、許せないよねっ!』

『そうです、エリンさん! 絶対に許せません!』


 またまた意見が合い、憤るエリンとヴィリヤ。

 しかし感情が激していて、お互いに気が付いてはいないが。


 見守るダンは益々、嬉しくなって来た。

 彼はそんな心の内を隠し、ふたりに話を合わせる


『だな。俺も許す気はない、もし出会ったら……絶対に容赦しない。出来心とか抜かして命乞いをしても、な』


『でもどうやって見分けるの? 旦那様は相手の心を読めるから……分かる。エリンも、相手の邪な気配で……多分分かる』

『で、では、心など読めない常人は? どうやって? いきなり襲われたら困ります』


『エリンの言う通り、俺には相手の心が読める。そしてヴィリヤの疑問にも答えよう。不審な冒険者が居た時は合言葉がある』


 合言葉?

 エリンは当然、ダンに尋ねる。


『旦那様、合言葉って何?』


 しかし、エリンの問いに答えてくれたのは、何とヴィリヤであった。


『エリンさん、合言葉とはお互いを確認したり、合図を送る為にある言葉です』


『な、成る程!』


 今迄のエリンであれば、素直に納得などしなかっただろう。

 宿敵エルフの説明など、耳も貸さなかったに違いない。

 やはりエリンとヴィリヤの『距離』は確実に縮まっているのだ。


 ヴィリヤが、ダンへ問う。


『でも、ダン。合言葉って、具体的にはどうするのですか?』


『ああ、ギルドが定めている公的な言葉だ』


 また知らない言葉が出た。

 ヴィリヤに負けてはいられない。

 対抗するように、エリンは問う。

 ダンへ向かって。

 その……つもりだった……のに。


『公的?』


『エリンさん、公的というのは個人的なという事ではなく、おおやけに、皆に対してって事ですよ』


『そ、そうなんだ。……あ、ありがとう、ヴィリヤ』


 不思議な事に……

 エリンは礼が言えた。

 ヴィリヤへ感謝の気持ちを籠めて……

 

 何故だろう?

 あんなに憎い、宿敵のエルフの筈なのに……


 ダンが僅かに微笑む。


『ああ、ヴィリヤの言う通りだ。戦闘不能を含めた危機的状態に陥っている場合以外は、必ず返事をしなくてはいけない。もし正しい返事をしなければ……攻撃されても仕方がないと、ギルドのルールで決まっている』


 ヴィリヤの言う通り……

 そんな、ダンの話を聞きながら……

 エリンは不思議な感覚に捉われている。

 それが、クラン全員を繋ぎ始めた絆である事を、彼女はまだ気付いてはいなかった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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