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第112話「ふたりで課題を」

 ダン達が歩く、『人喰いの迷宮』表層地下2階は……

 一体どこの、誰が設置したのかは不明だが、魔導灯があちこちに備え付けられていた。

 

 ちなみに魔導灯とは、魔力により生み出される灯りを、半永久的に保つ魔道具だ。

 迷宮初心者にとっては、大変重宝し、ありがたいものである。

 真っ暗闇の中で探索をする際、松明たいまつなどを使わずに済むからだ。


 その魔導灯が、ダン達と迷宮の古びた石壁を淡く照らす中……

 鼻を「ひくひく」させながら先頭を歩くのは、ダンが召喚した冥界の魔獣ケルベロスである。

 

 現在ケルベロスは、冥界に居る時の真の姿を見せてはいない。

 ダンの家に居るのと同様、真っ白な普通の犬に擬態していた。

 だが風貌は段違いにワイルドであり、普通の可愛い犬というよりはどちらかというと獰猛な狼に近い。


「ううううう」


 いきなり、ケルベロスが唸る。

 しかし、魔導灯が照らす前方には何もいない。

 どうやら、少し離れた位置に居る敵をキャッチしたようである。


 3人のうち、索敵に長けたダン、気配読みに長けたエリンも既に敵を認識していた。

 しかし表層という場所柄、たいした敵ではないらしく、ダンもエリンも慌てた素振りは見せない。


 やがて、ダンが敵の正体を見抜くが……苦笑した。

 念話で、エリンとヴィリヤへ伝える。


『ふむ、これは……スライムだな』


『スライムって、何? この弱い気配が、そうなの? 旦那様』


 先程からエリンは、ダンに対し、旦那様と呼ぶ事を徹底している。

 今回の迷宮探索では、ヴィリヤと折り合うように言われて従っているものの……

 自分はれっきとしたダンの妻である、その厳然たる事実を改めて強調する、せめてもの抵抗といえる行為なのだ。


『ああ……そうか、エリンはスライムを知らないのか』


 思わずつぶやいたダンの言葉を聞き、ヴィリヤは驚く。


『え? そうなの?』


 ヴィリヤは違和感を覚える。

 

 そもそも……

 スライムはこのような地下迷宮は勿論、地上を含め、この世界のどこででも見られる、最弱な魔物のひとつである。

 ゼリーのような身体を持つこの魔物は、とてもありふれた存在であり、人間でもエルフでもどんな種族の子供でも知っているくらいだ。 


 先程聞いた話によれば……

 エリンは先日、冒険者ギルドの認定試験を受け、ランクDに認定されているという。

 中堅以上の冒険者と言い切って良い。


 そんな実力者がスライムを知らない?

 彼女は一体、どこの出身なのか?

 ダンと会うまで、エリンは一体どんな暮らしをしていて、何と戦う経験をしたのか?


 考えても考えても……分からない。

 思い浮かばない。

 ヴィリヤはもう、本人へ聞かずにはいられない。


『エ、エリンさん、貴女って、本当にスライムを知らないの?』


『うん、知らない!』


『…………』


 きっぱり言い切られてしまった……


 絶対おかしい、納得がいかない。

 いぶかし気な表情で、黙り込んだヴィリヤへ、ダンは言う。 


『多分……エリンの育った土地には……スライムが居ないんだろう』


 とぼけたダンの口調だが、表情は真面目である。

 彼の目を見ても、嘘を言っているようには思えない。

 と、いうか……

 ヴィリヤは、ダンが真実を述べていると信じたい。


『え? ダン、冗談でしょ? そんな場所って、この世界に存在するの?』


『いや、ヴィリヤ、俺が言ったのは冗談じゃないぞ。確かに存在する』


 ダンが言った事は、確かに冗談ではない。

 エリンの居た地下世界には、何故かスライムが居なかったと聞いているからだ。

 そして地上のダンの家へ来てからは、たまたまだが、未だにスライムとは遭遇していない。


 ヴィリヤは思う。

 ダンの口ぶりからすると、エリンがどこでどう暮らして来たのかを知っていると。

 そこがもしも、スライムの居ない世界であるならば、一体どのような場所なのだろう?

 知りたい、知りたい……ぜひ知りたいっ!


 元々ヴィリヤは、ヘビーな知りたがり屋なのだ。


『ダン、教えて! ど、どこ?』


 だがヴィリヤの願いはあっさり却下された。


『それは、内緒だ。ヴィリヤが、もう少しエリンと仲良くなったら、ちゃんと教えてやるさ』


『ええっ、そ、そんなぁ! 意地悪!』


 残念がるヴィリヤ。

 これは……意地悪ではないというか、ダンの希望する夢でもある。

 

 エリンとヴィリヤがこの探索を通じて、心を許し合える仲になれば……

 創世神教の熱心な信者であったニーナが、エリンを受け入れてくれたように……

 宿敵であるエルフのヴィリヤも、エリンを受け入れてくれるかもしれない。


 いや、絶対に受け入れてくれる!


 ダンは旧き言い伝えなどより、ヴィリヤの知的さと聡明さを信じたいと願っていたのだ。

 しかしこの問題はデリケートだ。

 ……焦りは禁物だろう。

 絶対、慎重に行かねばならない。


 そんな思いを込めて、ダンは言う。


『ははははは、お前達がお互いの事をもっと良く知れば、クランの連携も上手く行く』


『…………』

『…………』


 黙って見つめ合うエリンとヴィリヤ。

 表情はお互いに複雑だ。

 エリンは、相手が宿敵のエルフとはいえ……

 忌まわしい言い伝えが大きな誤りだと認識され、完全に払拭されて欲しいと願う。

 

 片やヴィリヤは……人間に擬態したエリンの正体を知らない……

 エリンはダンの妻……憧れの『玉座』に対する羨望だけがある。

 熱い嫉妬が、大きく心を染めている。


 と、その時。


「うおおん!」


 犬……否、ケルベロスが大きく鳴いた。

 先ほど察知した敵が、クランへ接近したのを告げたのだろう。


『丁度良い。エリンとヴィリヤ、いい機会だ。冒険者としての課題を与える』


『え? 旦那様、課題?』

『ダン、課題って何?』


『うん! ふたりきりで(スライム)を掃討してくれ。魔法でも体術でも良い。考え、相談して連携するんだ』


『え? だ、旦那様!』

『ダン!? 私達だけで?』


 吃驚して、大きく目を見開いたエリンとヴィリヤ。


『…………』


 ダンは無言でふたりを見つめると、肯定する返事の代わりに、大きく頷いたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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