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第103話「貴女が私? 私は貴女?」

「ゲルダを連れて行くけど私? それって、一体どういう意味ですか?」


 ヴィリヤは、わけが分からず「きょとん」としていた。

 ダンの言葉を聞いていたエリンも、いぶかし気な表情になる。

 しかし、エリンにはすぐピンと来た。


 多分、ヴィリヤは………ダンが行使する変身の魔法を知らないのだ。


 ダンを魔法が存在しない異世界から召喚して、鍛えたのはヴィリヤではある。

 王宮魔法使いのヴィリヤは当時、屋敷で同居しダンの能力をほぼ把握していたが、ふたりは現在離れて暮らしている。


 一緒に暮らしていなければ、ダンの『全て』は把握しにくいだろう。

 召喚の際どういう取り決めをしたのか、エリンには分からないが……

 はっきり言える。

 ダンは自分が使える力持てる力を、全てヴィリヤへ報告してはいない。


 次に出たダンの言葉で、エリンの思った事が事実だと判明する。


「ヴィリヤ、ゲルダ、驚かずに聞いてくれ、俺はほぼ完璧な変身の魔法を使える。俺自身だけでなく他人へも」


「えええっ?」

「そ、それはっ!」


 驚くふたりへ、ダンは簡潔に説明をして行く。


「大きな声を出すな……今回の迷宮行きにおいて、ヴィリヤをゲルダへ、ゲルダをヴィリヤへと入れ替える。表向きは俺、エリン、ゲルダの3人で人喰いの迷宮へ行くんだ」


「…………」

「…………」


 説明を聞いて黙り込んだヴィリヤ主従へ、ダンは説明を続ける。


「沈黙は肯定こうていだという事か? どうやら理解したようだな。もしお前達が入れ替われば……そんなに大きな問題は起きない。ヴィリヤの命令で副官のゲルダを派遣するという形にすればな」


 アールヴの長ソウェルの孫娘であるヴィリヤが危険な迷宮へ行くとなれば……

 実現については困難を伴い、いろいろ議論が交わされる。

 

 しかし同じ貴族とはいえ、ゲルダはやや身分の低い貴族家の娘だ。

 加えてヴィリヤの忠実な副官であり、代理として行く名目も立つ。


「…………」

「…………」


「詳しい話はヴィリヤ、お前の屋敷へ行った時だ。エリン、リアーヌも一緒に行く。今夜はヴィリヤの屋敷へ皆で泊って明日の朝速く、出発だ」


「あ、ああ……」

「成る程……ですね」


 ヴィリヤとゲルダは納得したが、吃驚したのはエリンである。

 黙って話を聞いていたら、突然ダンがヴィリヤの屋敷へ泊るとなどと言うのだから。


「え? ダンっ、ヴィリヤの屋敷へ行くって本当? それに何故?」


「ああ、本当だ、エリン。理由はふたつ。ヴィリヤとゲルダへの魔法発動と付帯説明、それと人喰いの迷宮へ潜る準備さ。幸い、あの屋敷にはいろいろと物資があるからな」


「物資?」


 エリンが聞き直すと、ダンはゲルダへ目を向ける。


「迷宮行きに必須な物資……例えば携帯用の魔法水、食料他諸々だ。どうせお前達の国イエーラが友好国として迷宮の不明者探索を支援する形になる。構わないだろう? ゲルダ」


 迷宮行きに際して、ダンは屋敷に備蓄してある物資の使用許可を求めたのだろう。

 実質的に屋敷の物資を管理しているのは、実は副官のゲルダなのだ。

 ダンの言う通りイエーラが支援をする形になるだろうから、ゲルダには断る理由がない。


「は、はい……構いません」


「よっし、じゃあ善は急げだ。すぐにヴィリヤの屋敷へ移動しよう、全員支度しろ」


「分かったわ、ダン」

「了解」


 話が見えたヴィリヤは嬉しそうに……

 同様に、ゲルダも頷いた。


 一方……


「う、うん……」

「はいっ!」


 エリンは渋々、リアーヌは元気よく返事をした。


 こうして……

 ダン達は、ヴィリヤの屋敷へと移動したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後……

 ここは王宮魔法使いヴィリヤ・エスピヴァーラの屋敷の中、ヴィリヤの居間。


 既にヴィリヤとゲルダは、お互いの装備を変えて待機している。

 約束通りなら、まもなくダンが来る時間だ。

 いよいよ変身魔法により、ふたりは入れ替わるのだ。


「ヴィリヤ様、高難度の変身魔法って……アールヴでも使えるのは数人しか居ないと言いますね」


「ええ確か……お祖父様と、あとふたりくらいの筈よ」


 ヴィリヤは、軽くため息をついた。

 以前一緒にこの屋敷で暮らしていた頃……

 ダンは、包み隠さず話をしてくれた。

 『お尻ぺんぺん事件』があってからは尚更だった。

 ケンかもしたけれど、喜びを分かち合った日々は……楽しかった。


 変身魔法云々の話が出た時、ダンの妻達——エリンもリアーヌも驚かなかった。

 

 軽い焦燥感を覚えたヴィリヤは、軽く唇を噛む。

 

 もしヴィリヤがダンの妻になれれば……お互いに全てを共有出来る。

 実際には必ずしもそうではないのだが、今のヴィリヤの知識において夫婦とはそういう認識であった。


 とんとんとん!


 と、その時。

 扉が、リズミカルにノックされた。


「はい?」


「ダンだ、入室はOKか?」


「は、入って下さい」


 ヴィリヤの予想に反し、扉を開けて入って来たのはダンだけではなかった。

 何故か、彼の妻エリンとリアーヌも一緒である。


「どうして、おふたりが?」


「当然さ。エリンは今回同行する仲間だし、リアーヌは王都待機だが大事な連絡係。情報共有は大事だからな」


 ダンの言葉を聞いたヴィリヤは、つい反論したくなった。

 強い感情が湧き上がる。


「本当は?」


 「違うんでしょ!」 ……と、言いたい。

 愛し合う夫婦だから伝える。

 全員が、一心同体なのだろうと。

 しかし、ヴィリヤは途中で言葉を飲み込んだ。


 問われたダンは、ヴィリヤをじっと見つめる。


「本当は、って何だ?」


「……いえ、何でもありません」


「ふうん……」


 ヴィリヤの言葉を聞いて首を振ったダンは、早速魔法発動の準備へと入った。

 独特な呼吸法で体内魔力をあげ、詠唱をする準備なのか唇を僅かに動かす。


 緊張気味なヴィリヤとゲルダを見て、エリンは以前自分が変身魔法を受けた時の事を思い出した。

 つい、「くすり」と笑ってしまう・


 頃合いと見たのか、ダンが詠唱を開始する。


「エルフの気高き貴族ヴィリヤ、同じくゲルダ! 今ここに、お互いの姿を仮初かりそめとして、入れ替えるものなり!」


 エリンの時と同様である。

 ダンの双腕から、独特な魔力波オーラが放出された。

 魔力波に包まれたヴィリヤとゲルダは一瞬気が遠くなり、思わず倒れそうになった。


変化ムータティオー!」


 ダンの口から決めの言霊が発せられると、ヴィリヤとゲルダの身体が眩い白光に包まれる。

 白光は、ふたりの全身を包み込み、正視出来ないくらいに眩しかった。

 暫し経ち、やっと発光の勢いが収まった。

 ヴィリヤとゲルダの輪郭が見えて来る……


「あ? 貴女が私?」

「こ、これは!? 目の前に私が」


 ヴィリヤとゲルダが、お互いに顔を見合わせると、吃驚して目を丸くする。


 自分が変身したという感覚が全くないまま……

 目の前に立っていたのは、間違いなく『もうひとりの自分』であったのだ。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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