表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/191

第102話「謎めいた言葉」

 ダンは、イレーヌに対して質問を続けた。

 当然、『人喰いの迷宮』に関してである。

 クランフレイムが、行方不明になった経緯いきさつも改めて教えて貰う。


 冒険者ギルドには、守秘義務契約がある。


 元々、依頼とは受諾されるまでオープンである。

 広く告知され、応募者を募る。

 だが……

 受諾後は違う。

 受けたクランがどこ? 誰? と言う事も含めて基本的には明かされない。

 金額等、具体的な契約条件も含まれるからだ。


 しかし、今回の趣旨を考えると、イレーヌは融通を利かせた。

 契約条件も含めて、クラン炎の足どりを教えたのである。


 何と言っても人命が懸かっていた。

 

 親しいクランを救うという、純粋な気持ちから出たもので邪念は無い。

 まして、相手はダン。

 お互いに秘密を共有している。

 サブマスターとして、「問題はない」と判断したのだ。


「良く分かった……イレーヌさん、ありがとう」


「いいえ……有能なクランの命を救う事にギルドが協力出来れば嬉しいですよ」


「ダン!」


 エリンが、促すように叫んだ。

 もうこれ以上は待ちきれない!

 そんな雰囲気である。


「分かった、エリン。早速支度をしよう」


「了解、じゃあ勇者亭へ戻るんだね」


「そうだな」


 と、その時。


「私も行きます!」


 叫んだのはヴィリヤであった。

 私も行きます! というのは迷宮探索に絶対同行したいという強い意思表示である。


 しかしエリンは、ヴィリヤを完全スルーした。


「ダン、早く帰って支度をしよう」


 無視されたヴィリヤは、必死で食い下がる。

 当然ながら、アピールする相手は、エリンではなくダンだ。


「ダン、私も一緒に行きますっ! お願い、連れて行って下さいっ!」


 こうなると、エリンも無視するわけには行かない。

 呆れたようなジト目で言う。


「もう、エルフの貴女。少しは身のほどをわきまえて、部外者は駄目に決まっているじゃない」


「ううう~っ」


 エリンに「ビシッ」と言われて、ヴィリヤは犬のように唸った。


 イレーヌは、吃驚してしまう。

 ダンとエリンが来たと聞いて、会ってみたらエルフのヴィリヤ主従も居た。

 

 サブマスターのイレーヌにとって、ヴィリヤ達とは顔見知りレベルであって、特に親しくはない。

 冒険者ギルドという組織とエルフのVIPという、仕事上の付き合いというだけだ。


 但し、はっきりしている事がある。

 

 身内第一主義と言う種族的な性格からだが……

 何の所縁もない人間を、エルフは助けたりはしない。

 人間のクランフレイムとエルフのヴィリヤは、何の関係も無い筈なのだ。


 なのにヴィリヤは、クランフレイムの捜索に同行したいと申し出た。

 

 脈絡を知らなかったイレーヌにも、一目瞭然であった。

 

 女子の目から見て、すぐに分かる。

 

 ヴィリヤは……ダンが好きなのだ。

 凄く好きだから……

 大好きな相手の助けになりたくて、役に立ちたくて同行を申し出た。


 しかしダンには、れっきとした妻のエリンが居る。

 それも今、目の前に。

 

 エリンの物言いを聞くと、ヴィリヤの気持ちを面白く思っていないのは明らかであった。

 果たしてダンは、最終的にどのような判断をするのだろうか?

 他人事ながらつい気になってしまったイレーヌ。


 そして……


「エリン、勇者亭に戻るぞ……それからヴィリヤ、ゲルダ」


「は、はい!」

「はい」


「お前達も一緒に来い、話がある」


 意外な展開!


 この場では即答しないが、ダンはヴィリヤの参加を前向きに考えるらしい。

 驚いたのは、エリンである。


「えええっ!」


「エリン、さっきも言っただろう。俺にちょっと考えがあるんだ」


「駄目だよ、ダ~ン!」


 大声で抗議するエリンではあったが、ダンは首を振った。

 ヴィリヤ達が、勇者亭へ同行する事を許したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ところかわって……

 ここは勇者亭にある、かつてリアーヌが使っていた私室……

 店主のアルバンが誰にも使わせず、そのままにしてくれていたのだ。


 ダンはエリン、ヴィリヤ主従と共にその部屋で話している。

 リアーヌを含めた5人も入ると、もう『ぎゅうぎゅう詰め』状態であった。

 だが、外に漏らしたくない話なので致し方ない。


 状況を聞き終わったリアーヌは言う。


「おにいの時にも聞きましたけど……こんなに危ない迷宮なのに、大きな見返りもあるから……ギルドも、簡単に閉鎖出来ないのですよね?」


「ああ、人喰いの迷宮を、目当てに来る冒険者も大勢居るからな。閉鎖なんかしたら不満が凄く出るだろう」


「ですよね、それで……どうします」


「チャーリー達を助けに行くよ、絶対!」


 ダンとリアーヌの会話を遮る勢いで、エリンはきっぱりと言い放った。

 

 優しくしてくれて、仲間だと認めてくれたチャーリー達を救いたい。

 強い思いが、エリンにはあった。


 微笑んだリアーヌは、ダンの意思も聞く。


「ダンさん」


「ああ、エリンの言う通り、チャーリー達を探しに行こうと思っているよ。出来れば助けたいからな」


 ダンも、「当然だ」と言うように頷いた。

 

 だが、歯切れが悪い。

 気合が足りないと、エリンは思う。


「ダンったら、出来ればじゃあなくて、必ず助けなきゃダメ!」


 エリンが促すが、ダンは首を振る。


「いや、出来ればだ。絶対に無理はしない、安全第一だ。俺はともかくお前を危険にはさらせられないからな」


「え? だって! エリンは全然大丈夫だよ」


「誤解のない様に言うが……一応全力は尽くすぞ。だがお前の命には変えられない、本末転倒になる」


「…………」


「冷たく感じるかもしれないが、これが俺の考えだ」


 と、その時。


「ダーン!!!」


 叫んだのは、ヴィリヤであった。

 遂に『放置プレイ』が、限界へ達したのだ。

 隣で、部下のゲルダは微妙な顔付きをしていた。


「あ~! うるさいっ、今、凄く大事な話をしているのに」


 エリンが耳をふさいで苦々しく言うが、ヴィリヤはスルー。


「私も同行します! ぜひダンの力になりたいのです」


 身を乗り出して迫るヴィリヤであったが、相変わらずダンは飄々(ひょうひょう)としている。


「ああ、ヴィリヤか。すっかりお前の事を忘れてた……俺に考えがあると言ったんだっけ」


「う~っ、忘れないで下さいっ! ダンっ!」


 しかしダンはヴィリヤではなく、ゲルダの方へ向き直る。


「そうだな、じゃあこの件はゲルダに相談だ」


「わ、私に? 相談? も、もしかしてヴィリヤ様の代わりに私が探索に同行するとか」


「当たった! その通りだ」


 惚けたダンの良い方。

 

 自分が同行出来ない?

 代わりにゲルダ?

 そんなの、絶対認めるわけにはいかない。


 「いらっ」としたヴィリヤは、またも叫んでしまう。


「ダ~ン!!!」


「あ~、もう、うるさいっ」


 またも、お約束の掛け合いである。

 エリンとヴィリヤは、改めてにらみ合った。

 

 そして…… ダンはニヤリと笑う。


「まあ聞け……ゲルダを連れて行くが、実はヴィリヤなんだ」


「え? どういう事ですか?」

「ダン、何それ?」

「分からないです」

「教えて下さい」


 ダンの発した、謎めいた言葉……

 

 他の4人は意味が分からず、不思議そうに首を傾げていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ