2.好きな人がかわいいから困る
初めてパソコンで全部ポチポチしました。
「ねぇ、灯里ちゃん」
「なに?」
今度はなんだ、なんて思いながら顔を上げると、彼女は少し困ったように眉を下げていた。これはめんどくさい案件だと瞬時に判断して目をそらす。手にしていたスマホからほかの人の投稿を見る。スクロールして、通販サイトの投稿には、かわいいジャケットの販売。かわいいと思っていると、彼女はめそめそしながら隣に座った。
「聞いて聞いて」
「はいはい」
「あのね。部活でさ、新入生歓迎会部活動勧誘があるんだよ。一分くらいの」
「へー、シュリ部は何言うの?」
そう、彼女の部活は手芸料理部。通称シュリ部。去年三年がいなかったせいで、二年連続で部長をしている。見た目はガサツそうなのに、意外と料理上手で家庭的なのがちょっとかわいい。惚れた弱みというか、なんでもかわいく感じてしまうのは恋した人みんなそうなのだろうか。
「新入生のみなさー--ん。こんにちは~、私は手芸調理部、通称シュリ部の部長、藤咲です。
あー、あー」
「はやっ」
言葉に詰まりながら、彼女はスクールバックから部活用のファイルを出した。ファイルの中には汚い字の書かれたルーズリーフ。
顧問の先生も、二年目だからと彼女に丸投げているのだろう。
私の前に置かれる新品のルーズリーフ。そして、シャーペンがころんと転がる。いやな予感がした。めんどくさい、そして、めんどくさがりの私でも好きな人のお願いは断れない。
「ねぇ、かわいいかわいいあーかーりちゃん」
「はいむり」
「きゃわいいね、愛してる。飴ちゃんあげるから」
「いらない」
「書いてくれるだけでいいのよ。それだけでいいの」
私のスマホを手から抜き取ってシャーペンを持たせる。そして、椅子を寄せて彼女は再度ねだるように私の手を持ってルーズリーフの上に置くのだ。
「お願い灯里ちゃん。高ちゃんの一生のお願い」
「高嶺ちゃん今世何周目?」
「多分もう230は回ったね」
仕方なくシャー芯を出してルーズリーフに書き始める。
新入生歓迎会、手芸調理部
藤咲 高嶺
別に特別綺麗な字でもないけど、確かに彼女の字に比べればマシだ。
「さすが灯里ちゃん。優しい」
「早く文章言って」
「新入生のみなさんこんにちは。私は手芸調理部、通称シュリ部の部長、藤咲です。
みなさんは、手芸調理部ってどんな印象がありますか?女子力高くて、可愛い女の子しかいない、みんな穏やかそう、なんて思っていませんか?大丈夫です、部長は体育会系でしたが」
「まって、いる?その流れいる?たぶんもう1分使ったよ」
「そんなに使ってないもん。え、高ちゃん?藤咲 高嶺部長?私はどっちでしゃべればいいの?」
「ほかの部がふざけたら高ちゃんでまじめでも高ちゃんでいいんじゃない?」
「それ公開処刑されろっていってるよね?灯里ちゃん鬼なの?オコなの?あんまりカッカすんなよカルシウムたりてるか?」
「これ以上カルシウムとって身長高くなりたくない」
「足長くってかわいくって素敵だから気にすんな。テーラードジャケットのダブルボタンが似合うんだよ。サイズが小さいならハイウェストで股下優勝しな」
何言ってるか全然わからない。彼女の服の話は難しいのだ。
「いやまぁ、書いてもらってるの私だからまずは高ちゃんね」
そういうと、まじめそうな顔で少し考えた後にドヤ顔をしていた。
「新入生のみなさーん。こーんにちはー。私は手芸調理部の部長、藤咲 高嶺です!
私たちの部活は4時15分から5時まで、週に4回」
そう言って4の数字が左手で示される。続けるようにバツが頭上に上がった。
「土日はありませー-ん。勉強が不安だよぉ、放課後にお友達と青春を謳歌したいっ!なんて思っている人にピッタリな部活です。部活によっては兼部なんかもできちゃいます。
作品を作りながら、みんなでワイワイお話をしたり、美味しいお菓子を作ったり、楽しいこといっぱいの部活です。
手芸や料理が苦手な人でも大丈夫!私部長も、手先が不器用で玉止めもへたっぴ。作った人形のあだ名は≪呪われたクマ≫それでもなんとかなります!
まだ部活を決めてないよ、迷ってるよって一年生は放課後4時15分に玄関前トロフィー棚前に集合してね。
私、茶髪で長い髪を縛った小さめの三年生、藤咲が目印です。旧校舎の活動室である図書館向かいの服飾室にご案内します。もちろん、直接来てくれるのも大歓迎です。
手芸調理部一同で待ってます」
にっこりと笑って言い切った彼女に、内心やめてくれと思った。一年生にまで名前が知れ渡った。好きになられたらどうするの。ライバルが増えてしまう。というか玄関に立って待ってるの?私はその姿を写真に収めれば、なんてしたら変態だ。彼女は下心がないから私の写真やほかの人の写真が撮れるんだ。私の写真は多くても、彼女の写真は少ない。下心消えて欲しい。無邪気に撮りたい。自分のダメさに恥ずかしくなってきた。
でも、そんなことは言えないので言われたことを思い出しながら文章を書き進める。
「長くない?一年生飽きちゃうよ」
「長くないもん。かわいいって言って。自己肯定感あげないと噛んだら恥ずかしくて死んじゃう」
「はいはい可愛いね」
「思ってないでしょ。よし、こんなもん、スマホで録画したから聞き返してメモしてね」
「ちなみに藤咲 高嶺部長バージョンは?」
「えーと、あぁ」
まじめな顔になって、少しだけ笑みを浮かべる。眉を少し下げたその表情は2年前を思い出した。そう、高校入学頃だ。
穏やかそうに、少し困り気味の優しげな人の顔をする。そして、出される声に強さはない。でも楽しさもない。ただ弱々しそうな声。
「みなさん、こんにちは。私は、手芸調理部の部長をしています。藤咲といいます。皆さんは手芸や調理に興味はありますか。
これから、私たちの活動を」
「あ、もういいや」
「面白くないんだわ。というか茶髪がまじめそうにしても茶髪は茶髪だっての」
まじめな雰囲気は余計になんだか一目惚れのころを思い出すのでやめて欲しい。やっぱり、私の好きな人はなんだかちょっとの動作だけでかわいいのだ。
「高嶺ちゃん、書き終わったらお菓子でも買ってよね」
「飛び切り美味しいお菓子を作るよ。そうだ、シフォンケーキにしよう。桜の塩漬けを作り始めようと思ってるんだよ。せっかく灯里ちゃんは桜が似合うんだから」
そう言ってスマホで桜のシフォンケーキについて調べ出す彼女は、楽しそうに笑っていた。私のために態々お菓子を作ってくれるって勘違いしそうになるからやめて欲しい。やっぱり、なんで私は彼女が好きなんだろう。ドキドキするし嬉しくなるし、これは友愛かもしれないのに。
「灯里ちゃん、私のこと好きなら一斤?ワンホールね」
「えっ、持ってくんの大変なんだけど。かわいくおねだりしてくれなきゃ嫌だよ」
「お願い」
下手くそなウインクをする。多分両目つぶってた。失敗して恥ずかしい。でも、彼女はにっこりと笑って頷いた。
「百点、可愛いからワンホール。桜が7,8分咲きになって塩漬けにできたら作るよ。かわいいウインクだったからお昼のデザートにパウンドケーキ作ってくるね。豆腐が小さいやつ一丁残ってて使い道に悩んでたんだ」
もしかして私は胃袋をつかまれているんじゃ。
パソコンで作るのとスマホでぜんぶ作るのとでは視野というかいろいろ変わる気がします。
主人公は心の中で荒ぶりますが、表面上は普通にしてます。




