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1.好きな人の第一印象


「灯里ちゃん、私の第一印象教えて。あ、可愛いと綺麗とヤンキーは無しよ?」


その言葉に、私は大学受験の面接対策プリントをめくった。“貴方の周りからの第一印象”その次は“貴方は周りからどのような人だと言われるか”と周りからの評価を聞かれている。もうそんなところまで行ったのかと驚きながらも、文章作りが得意な彼女ならこんなの楽か。


「第一印象ね、うーん。高嶺ちゃんの第一印象」


その言葉に過去を振り返る。高校入学時に私は彼女をどのように思っただろうか。


女子校ということや、自分が遠くからの入学で友人がいない事もあって、緊張でそれどころでもなかったような気もする。

でも、少しずつ思い出すうちにハッとした。今になっては嬉しいけど、高校入学のときは教室に入って絶望したんだった。そう、彼女の所為だ。


最初に目に入ったのは教卓。そしてその目の前、一番目立つ席に座っていたのが彼女だった。

赤みを抜いた茶色の髪をポニーテールにした女の子の後ろ姿。うちの学校は染髪を禁止していて、規定で肩につく髪を縛らなくてはならない。

思い返したクラス名簿に横文字の名前の人はいない。地毛か、染髪か。どうか隣じゃありませんように、なんて思いながら壁に貼られた席順を確認した。

壁に貼られた自身の名前は教卓の目の前。念のため横文字の名前の人を探したけどいない。まさか、首を横に振ると私の隣は既に座られている。そう、茶髪の彼女が隣だった。私は絶望した。もう終わった。仲良くなれない。


周りを見渡しても、ほかに茶髪はいない。彼女だけどこか浮いた雰囲気を醸し出していて心の中で不安になった。近づくにつれて、彼女の顔が少しずつ見えてくる。見えてきたのは、仏頂面で無表情。長いまつ毛と綺麗な二重。ハーフだろうか。ハーフであって欲しい。


私は持っていたスクールバッグを机に置きながら恐々と声をかけた。


「あ、あの...」


ゆっくりと向けられる顔。長いまつ毛はカールしていて、ビューラーで上げたのかとメイク禁止の校則を思い出した。でも、まつ毛の主張に負けないくらいの強めの顔だった。正直怖い顔に見えた。

私はこの人の隣で生きていけるのだろうか。


「初めまして」


その言葉と一緒に、柔らかい笑みがこぼされた。というより、優しい笑みだった。見た目よりもずっとずっとおとなしそうな控えめな笑みだった。


私はその笑みに、ドキッとした。何にドキッとしたのかわからない。でも、また瞬間にふわふわと心をよぎった。


「あ、え、えっと、私、国木くにき 灯里あかりです」


頭の中で練習した言葉は名前だけがスムーズにでた。


「国木、さん?私は藤咲ふじさき 高嶺たかねです。高嶺って呼んで欲しい。よろしくね」


高嶺ちゃん、綺麗な名前だと思った。でも、顔はハーフのような純日本人のような。判別はつかない。その髪色は何か。地毛か、私は恐々頷いた。


「たか、ねちゃん。私も灯里でいいよ。お隣、よろしくね」


「灯里ちゃん、うん、よろしくね」


スクールバックを机のフックにかけて座る。チラリと隣を見ると、また無表情だった。でも、姿勢はいい。


私の中で彼女は

《笑うと優しそうだけど、茶髪で姿勢のいいヤンキー》

だった。


それがいつのまにか化けの皮が剥がれて変な人になってしまったのかと思うと笑えてしまう。でも、この時点で私は彼女の横顔から目を離せなかった気がする。凛とした佇まいにどこか惹かれた。


「おーい、思い出した?あーかーりーちゃん?」


その言葉にハッとすると、退屈そうな彼女がいた。思ったよりも長く考えてしまっていたみたいで、彼女はシャーペンをおいて私を見ていた。


「どんな印象?」


「あーうーん。茶髪?」


「それ大体の人に言われるから、続きはヤンキーかと思った、でしょ」


「まぁ、うん。だって高嶺ちゃん真顔だったし。結構怖かった」


「だから、緊張してたんだよ。不安だったし、お隣さんがヤンキーだったらどうしようって思ってたし」


「いや、まじでそれこっちのセリフね。横文字に改名して欲しい、シェイクスピアとかどう?」


シェイクスピア、彼女が前に言っていた本の作者だった気がする。たしかロミオとジュリエットだった気がするけど、私は男女の恋愛にも、別に同性の恋愛にも強く惹かれてるわけじゃないから気分は乗らなかった。今まで彼女以上に惹かれた人はいなかったから。


「これを機にヤマト・ナデシコとかにしようかな。どう?なんかもう如何にもハーフっぽいよ。

次から私のことはナデシコちゃんね。いやぁ、高嶺ちゃん気に入ってたけど灯里ちゃんが言うなら仕方ないね!」


「ハイハイ呼びません。やっぱり入学した頃の大人しくて可憐そうな振りを貫き通した方が良かったんじゃない?」


「いや、無理無理。口塞がれたら死んじゃうもん。ギャグとか言って、一日五回は灯里ちゃんの口開けて笑う顔見ないとね。せっかくかわいいんだからニコニコして」


ちょっとグッときたのでやめてください。またドキドキさせられたので、馬鹿言ってんじゃないよ、みたい顔をしておく。恥ずかしい。

彼女は笑みを浮かべてシャーペンを手にした。そして思い出すように少し上に視線をずらしてから私に視線を戻す。


「灯里ちゃんはかわいいくて大人しくて読書好きなインドアな人に見えたのにね。蓋を開けてみたらかわいいし高嶺ちゃんをいじめるし、思いの外ツッコミ役だし中学の部活はテニスだし人は見かけに寄らないね」


「いじめてる?高嶺ちゃんが私をいじめてるよ」


「え?私のどこが虐めてる?愛してるわよちゅっちゅ」


「うげ」


「酷いわ、今度校長先生に言いつけてやるんだから」


「仲良いの?」


「話したことないよ」


「無理じゃん」


シャーペンで書いているのをみながら、私は今日もドキドキさせてこないで、なんて思う。クラスのみんなも人を笑わせるのが好きなんだね!くらいで流してるけどそれでいいの?


面接対策の文章を作りながら、私は愛してるが本気になれば良いのにとちょっとだけ呪った。

昨日、同じクラスの奈実ちゃんが彼女と話してて息を吐くように《可愛い》《大好き》を連発していたことを忘れない。奈実ちゃんと私どっちが本当に可愛いの!?なんて言ったら幻滅されそうだけど、どっちが可愛いの!?


でも、そもそも彼女にとって私も奈実ちゃんもただのクラスメイトなんだからそこを求めちゃだめだよね。分かってても、なんだか悲しかった。


「どしたの。黄昏てるの?まだ黄昏るには早いよ。彼氏に振られた?私は彼氏いないから男の子紹介できないのよごめんね」


「私もいないけど聞いてないしいらない」


「恋愛は良いものだよ。恋人作って結婚して、子供できたら是非教えてね。オムツケーキを贈りたい」


「自分が興味あるだけじゃない?」


「うん、実物を見てみたい」


子供って単語に、私の相手は男性であるのだと彼女のなかで確定してるのだと思った。同性じゃ子供は作れない。


「私、彼氏要らない」


「女子校だからって諦めちゃだめだよ。せっかくかわいいんだから、大学ではもっとおしゃれにしてナンパされるようにしてあげるからね」


「ハイハイナンパしてくる人とは付き合いませーん」


「それがいいよ。バイト先で捕まえたらいいさ。私よりも優しくてかっこよくて音楽ができて家庭的な男にしときなさい」


「手拍子できないのは高嶺ちゃんね」


「運動神経はいいからメトロノームカチカチしてくれれば叩けるよ」


「それは手でリズムとってないってば」

次話投稿の仕方をようやく学びました。思っていたよりもさらに難しくて難航しています。小説を書くのってすごく難しいんですね、書いている人に尊敬です。


主人公


国木 灯里

女子校に通う三年生。

好きな人の発言が空気よりも軽くへちまタワシよりもスカスカなのにドキドキさせられてる。好きだけど、好きなんだけど不本意。

学校へはスクールバスで通っている。


藤咲 高嶺

女子校に通う三年生。

発言の通り、息を吐くように誰かを褒めたり面白いことを言わないと生きていけないのだろう。

学校へは電車で通っている。

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