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出合い

皆さんは、竜飛海底駅をご存知だろうか。

北海道と本州を結ぶ日本最大の海底トンネル、青函トンネルの中の青森側にある駅である。

海面下140メートルにある竜飛海底駅は元々青函トンネル内での設備故障の際の避難経路として作られた駅であり、北海道新幹線開通と同時に廃止となった駅である。

駅には現在は保線を行う我々しか立ち入ることができない。

当然ながらそんな所に住むところは無く、人妻なんているはずもない。


「まあ、そうだよな」


俺はSNSにある竜飛海底駅周辺に住む人妻のセフレ募集の投稿を見てそう呟いた。

こんな所にセフレを募集している人妻なんているわけがないのだ。

多分自動作成されたものだとわかっていつつも、俺はそのセフレ募集をしている人妻のプロフィールを開いた。

名前は白雪さん、年齢欄が空欄になっている。

胸元に写る服の上からでもわかる大きな膨らみが彼女が人妻であることを物語っていた。顔は清楚な

感じで髪も綺麗だ。そして何より、スタイルが良い。俺好みである。

「ん?」

ふと、彼女の写真の下に表示されたコメントが目に入った。

『夫と死別してもう5年になります。寂しくてつい……』

どうやら彼女は未亡人らしい。

確かに、この容姿なら男なんて選り取りみどりだろう。このアカウントが本物であれば。

当たり前だ。JR職員ですら限られた人間にしか立ち入ることができない竜飛海底駅に住んでいる人妻がいるわけないのだ。

この白雪という女が本物かどうか確かめるために、俺はメッセージを送ってみる事にした。


『竜飛海底駅に住んでいますか?』


我ながらバカみたいな質問だとは思う。

だが、もし本当だったとしたら面白いことになると思ったのだ。

しばらくすると返事が来た。


『はい、私以外にも誰かいるんですね』


おいおい、マジかよ。本当に住んでいるのか。


『僕は青函トンネルを担当している保線屋です。明日仕事で龍飛定点に行くのですが、そこでお会いしませんか?』


こんなところに人妻がいるわけない。居るとしたら化けてるキツネくらいだろう。

そう思いながらも、何故か俺は彼女に会おうとしていた。

翌日、予定通り俺は龍飛定点での仕事を終わらせた。

いつも通りの仕事だったが、今日に限って言えば普段よりも早く終わったように思える。

というのも、俺の目の前に広がる光景が原因であった。


そこには、一人の女性が立っていた。

年齢は恐らく20代後半と言ったところだろうか。肌は白く、目はパッチリとしている。金髪を肩まで伸ばしており、ふゆというのに服装も白いブラウスに黒のロングスカートといった清楚系だ。

おそらくFカップはあると思われるのだが、ブラウスがはち切れそうなほど押し上げられているせいで全く大きさを感じられない。

しかし、そのギャップもまた魅力的に思えた。


「こんにちは」


俺が挨拶をすると、彼女も返してきた。


「こんにちは」


見た目だけでなく声も良い。というか、本当に住んでるんだ……俺は驚きを隠しつつ話を続けることにした。


「あの、どうしてここに?しかも1人で……」


普通に考えればありえないことだ。いくら本州と繋がっているとはいえ、JR職員以外立ち入り禁止のハズである。

青函トンネルには、列車に乗った人間と関係者以外立ち入り禁止であるが、極稀に小動物が入り込むケースがある。タヌキは居ないので、化けて出るといえばキツネくらいだろう。そんなことを考えていると、彼女は言った。


「夫が死んでからずっとここで暮らしているんですよ」


なるほど、それで竜飛海底駅に住み続けているという設定なのか。人妻は好きだが、流石に幽霊とかそういうのは勘弁して欲しいものだ。

だが、それならば尚更気になることがある。どうやってこの駅に辿り着いたのかという事だ。


「えっと、失礼ですけどどうやってここまで来たんですか?」

「実は夫と一緒にここへ来まして……、私はここから動けずにいます」


全くわからん。どういうことなんだ。

幽霊か化け狐の仕業か。どちらにせよこれ以上聞いても答えてくれなさそうだ。


暗闇の中、彼女と二人きり。少し怖いなと思いつつも、せっかくだから色々聞いてみることにした。

「普段は何をされているんですか?」

「特に何も。たまに来る電車を待ってるだけです」

今この駅に停車する列車なんてない。新幹線も通過するだけの駅だ。


「じゃあ、僕が来る前もずっと一人で?」

「はい、来る人もいないですし、話す相手もいなくて退屈でしたよ」


当たり前だ。竜飛海底駅は俺たち職員以外に誰も立ち入ることのできない場所だ。白雪の言う通り、来る人などいるはずもないのだ。


「ところで、貴方はどうして私のところに来たんですか?」


逆に聞かれてしまった。まあいいか。


「それはですね、僕のSNSを見て連絡してくれたみたいでしたので、どんな人かなーって思って」

「そうですか、でも良かったです。これで退屈せずに済みますね」

「あ、いやいや、僕ら保線員以外の人がここに来るなんて無いですよ?」


実際俺も竜飛海底駅のセフレ募集をみて面白半分で連絡をしてみたわけだし。まさか人がいるは夢にも思わなかったが。


「そんなことより、どうやって生活してるのかの方が興味あります」


竜飛海底駅から出れないのなら食料等はどうしているのだろう。


「ああ、食料のことでしょうか?大丈夫ですよ、ちゃんと確保していますから」


さすがに理解できなかった。

住むところにしてもそうだ。


仮にトンネル内で暮らしているとして、食事やトイレは一体どこで行っているのだろう。


「えっ、本当にトンネルの中で暮らしてるんですか!?」

「そうですが何か問題でも?」


いや、問題は大ありだと思うのだが。


「そもそも、なんでそんなところに?というか、どうやって生活しているのか気になります」


俺は幽霊とも化け狐ともわからない人妻(?)を目の前にして混乱していた。


「とりあえず、話を聞かせてください。どうしてこんなところに?」

「えっと……その……」


彼女は口ごもりながら答えた。

しかし、彼女の説明はいまいち要領を得なかった。というか意味がわからん。

ただ、一つだけわかったことがあった。

この人は間違いなく人間ではない。

俺は彼女が何者か確かめるため、質問をすることにした。

といっても、幽霊や化け狐だとしたら何ができるかわかったもんじゃない。

俺はまず、最も簡単なものを聞くことにした。


「あの……あなたは幽霊とかだったりします?」

「ふふっ、幽霊か化け狐か。面白いことをお聞きになる方ですね」


俺の言葉を聞いて彼女は笑った。しかし、その笑顔にはどこか恐怖を感じる。


「あの、僕は真面目に聞いてるんですけど……」

「あら、すみません。私だって別にふざけているわけではないのです」

「では、教えていただいてもよろしいですか?」

「いいでしょう。私は化け狐です」


彼女はあっさりと答えた。

やはり化け狐なのか。しかし、幽霊ではなく化け狐ということは実体があるということだろうか。

俺がそんなことを考えていると、彼女は話を続けた。


「ほら、これが耳です」


そう言って彼女……白雪さんは自分の頭にある三角の耳に手を当てて見せた。


「えっと……これは本物……ですか?」

「ええ、もちろんです。尻尾もあります」

「触っても……あ、やっぱいいです」


恐るべし妖怪。化け狐の耳なんて初めて見た。


「それで、なんでセフレ募集なんてしてたんですか?」

俺は本題に入ることにした。

「えっと……私は夫を愛していました。ですが、夫は死んでしまいました。そして一人になった時、寂しさを埋めるためにセックスをする相手を探し始めたんです」

なんだよその理由……。

「つまり、欲求不満を解消するために相手を探そうとしたと?」

「はい、そうです」

「で、見つかったんですか?」

「いえ、全く見つかりませんでした」


そりゃそうだろ。


「まあ、でも、こうして貴方に出会えたので良かったです」


いや、良くないだろ。幽霊じゃなくても変なものに取り憑かれるかもしれないんだぞ。

というか、化け狐ってことは人を化かすんじゃないのか?

そんな疑問よりも、道民として気になる点があった。


「もしや、エキノコックスに感染してたり?」

「あの、エキノコックスってなんですか?」

「北海道に生息する寄生虫です。人の体内に寄生すると脳まで行って大変なことになるんですよ」

「ここはトンネル内とはいえ、本州ですから大丈夫じゃないでしょうか?それに、貴方はもう既に私に触れていますし」


確かにそうだ。俺の手には彼女の毛が触れている。

だが、安心はできない。俺は彼女に聞いてみた。


「あの、本当にエキノコックス感染してないですよね?」

「大丈夫ですよ。わたしはホンドギツネですし。さっきから言っているように化け狐の体液は人間に無害ですから」

「えっ、それって……」


おい、やっぱり化け狐じゃないか!


「だから言ったじゃないですか。幽霊でも化け狐でもないって」


いや、言ってねえよ。


「ところで、私のこと抱いてくれますか?」


突然何を言ってるんだこの人妻は。


「いや、それはちょっと……」

「そうですよね。私みたいなおばさんは嫌ですよね」

「そういうわけでは……」


正直、俺は人妻が好きだ。でも、相手が狐となれば話は別だ。


「私は貴方のことを気に入っています。だから抱きたいと思ってもらえるよう頑張ります」

「いやいやいやいや、頑張っちゃダメです!」

「そんな……私はどうすれば良いんですか?」

「とりあえず、ここから出ます。なんといってもここ、僕の仕事場ですから」


俺は彼女を説得することにした。


「えっ、出してくださるんですか!?」

「えっ、出しませんけど?」


俺は彼女の言葉を遮るように答えた。


「どうしてそんな酷いことを言うんですか?せっかく貴方を好きになってくれたというのに……」

「いや、だってあなた、狐でしょ?」


俺は目の前にいる女性に問いかける。


「そうですが、それがなにか?」

「いや、普通に考えて化け狐と一緒にいるのはマズイでしょ」

「でも安心してください。わたしはホンドギツネなのでエキノコックスには感染してません」

「いや、そういう問題じゃなくてですね」

「えっ、違うんですか?」

「ええ、違います」

「では、どういう問題があるというのですか?」

「だってあなた、狐でしょ?」

「そうですけど、何か?」

「何かって……。狐と人間が一緒にいたらダメでしょ」

「ええー、そうですか?」

「当たり前でしょ」

「私は気にしないのですが」

「僕はします」

「どうしてもですか?」

「絶対にです」

「じゃあ、わたしは人間ってことにしませんか?本当はもっと上手く化けられるんですが、貴方のような男性にアピールするためにわざと下手くそに化けていたんです」


なんだその面倒な理由……。確かにそう言うと彼女は黒髪で耳も尻尾もなくなって、普通の人間らしくなった。

それにしても、彼女はなかなか折れない性格らしい。このままではいつまで経っても帰れそうもない。俺は彼女に言うことにした。


「分かりました。そこまでいうなら、あなたのことを人間ということにしましょう」


俺の言葉を聞いた途端、彼女の顔がパッと明るくなった。


「本当ですか?ありがとうございます」

「ただし条件があります」

「なんでしょう?私ができる範囲であれば何でもやりますよ」

「まず、僕の前以外でキツネに戻るのは禁止です」

「わかりました。これからよろしくお願いしますね、旦那様」

「はい、こちらこそ」


こうして俺たちは出会った。これが後に北日本最大の怪異となる『化け狐』と、それに巻き込まれる鉄道マンの物語の始まりだった。


「あっ、でも、お尻は触らないで下さい。变化が解けそうになるので」

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