誘いを断られる前提で一応誘う。
セレナの部屋に行き、ノックをする。
「セレナ、ジュリアだけど……」
返事がない。もう一度ノックをするが答えはない。
嫌な想像をしてしまったが、部屋の中で人が動く気配はする、最悪な事態ではないだろう。
「セレナー、明日はお昼一緒に食べようね。メアリーも気にしてないから……」
外から声だけかけて、部屋に戻ることにした。
次の日、教室に向かうとセレナはすでに席に着いていた。ホッとして声をかけると予想以上に明るくテンションが高い返事が返ってきた。
「ジュリアおはよう!今日も素敵な朝ね。何だかすごく気持ちがいいわ。」
「いや、どっちかというと曇りだし、そんなにいいかな。」
え、大丈夫この子。一周まわっておかしくなってしまったのか。
心配していると、メアリーも教室へと入ってきた。
するとセレナがメアリーに近づき話かけた。
「メアリー、この前は酷いことを言ってごめんなさい。あなたが優しさが羨ましくて、つい当たってしまったの。」
「え……えぇ、別に気にしてないからいいけど。」
「良かった!またお昼も一緒に食べましょうね。」
メアリーがどうしたのかと視線を送ってくるけど、私だってわからない。
不自然すぎるくらい晴れやかだ。
その様子をジュリオも見ていたのか、授業が始まるとこっそり話かけてきた。
「セレナ嬢どうしたの、一体。」
「わっかんないよ、無理してる感じではないけど……」
「俺がさっき夏休みの誘いした時も即答でいいわよって言われたんだけど、ノリまで何か良くなってるよ。」
「それは本格的にヤバイね。頭でもぶつけたのかな。」
普段のセレナならジュリオの誘いは冗談として聞き流すか真面目に断るだろう。
本当にどうしてしまったのだろうか。
昼休み、セレナとメアリーとで食堂に向かう。
セレナは変わらずにこやかにメアリーに対しても話しかけている。
「メアリーは本当にキレイな髪をしてるわよね、何か特別なお手入れでもしてるの?」
「特には……あ、シャンプーはこの学校の薬学部から貰ったのを使ってるけど……」
「そんなのがあるのね、ぜひ私も使ってみたいわ。」
と初めて聞いた会話のやりとりばかりだ。
いつもは挟まれて話をするのに全く間に入らずとも会話が進む。
「あら、レミジオもお昼なのね、良ければ一緒に食べます?」
セレナが通りかかったレミジオを見つけて声をかける。
昨日まで存在すらスルーされてたレミジオは戸惑いながらもセレナの隣に座った。
「あ、あぁ。セレナがそういうならお邪魔させて貰おうかな。」
「邪魔だなんてとんでもない。」
「その……この前は僕も言いすぎてすまなかった。」
セレナの笑顔に耐えきれなかったのか、レミジオが謝る。結果オーライなのかもしれないぞ。
「この前……?何のことかしら。」
言葉だけ聞くとまだ根に持ってわざと言ってるようにも聞こえるが、実際セレナの顔はキョトンとしており、本当にわかってなさそうな表情だ。
あれ、ついさっき謝ってたよな?
急に、思い出そうとしてるセレナの顔から表情がなくなる。
「あぁ、ダメ、思い出しちゃう……忘れないと……」
と呟きながら立ち上がり、歩きだしてしまった。
一瞬何が起こったのかわからずに三人共セレナを見送ってしまったが、明らかに様子がおかしい。
セレナの後を急いで追うことにした。




