逆ハー良いのかもしれない。
セレナと真実の友情を育めたと、私は満足していた。
一時はこのままセレナが悪役令嬢になる道を進むのかと思ったが、やはり根は良い子だったのだ。
「ジュリア……」
「なぁに、セレナ?」
「何でもないの、ふふっ。」
顔を赤らめて笑うセレナ、何だこれ。可愛すぎるでしょ。
え、私これセレナルートとかあるの?
「セレナ、そろそろあなたの出番よ。準備しなさいよ。」
メアリーが不機嫌そうにやってきた。
普段髪を下ろしているメアリーだが、レアなポニーテールをしている。
「わかっていますわ。あなたこそ、ヒロインなのだから無駄口叩いてる暇はないのではなくて。」
「今からしばらく出番ないのよ。台本に書いてあるけど。」
セレナとメアリーが不仲なのは変わらないらしい。
「はっ、もしや私を争って!」
「今からのシーンは特に争うシーンではないわよ?」
「ジュリアも台本読みなさいよ。」
つい口から願望が出てしまったのだが、別の意味で二人に呆れられてしまった。
そして、学園祭の日がやってきた。
「ではみんな、今までやったことを出しきって楽しもう!」
「おぉー!」
レミジオの掛け声にみんな気合いを入れる。
私たち中等部は全学年演劇でこのクラスはトップバッターだ。
高等部は飲食店を含め色々な催しを出すので、自分達の演技の前後は回れるようになっている。
他のクラスはわからないが、だいぶ良い出来だと思う。
レミジオとメアリーに華があるのは勿論、他のクラスメイトも演技に熱が入っている。
勿論私も気合いを込めて花びらを降らせている。
「ドキドキしますわね。」
「セレナなら大丈夫よ、練習でも上手かったし。」
「そうそう、ダンスシーンだって俺との相性ピッタリじゃん。」
「そういう割りに、ジュリオには足を何度か踏まれそうになりましたけどね。」
裏手でこそこそと喋っていると、ブザーが鳴り、幕があがった。
ここからは無駄なお喋り禁止だ。
舞台の中心に立ってるメアリーを見て観客が息を飲んだのがわかった。
普段でも可愛いメアリーだが、緑のグラデーションが綺麗なドレスに髪もしっかりアップにしていてライトの当たった姿はまるで女神像のような美しさだった。
「ここは俺の家の領地と思うが、君は誰だい?」
安定の格好良さのレミジオが出てくる。
キャーっと観客席から聞こえてくるのは気のせいではないだろう。
中等部の今ですら『レミジオをお慕いする会』があるらしい。全員がお互いの身分を知っているわけではないのに末恐ろしい限りだ。
メアリーが歓声とセリフが被らないように、ゆっくり間をとり口を開く。
「ワタシはチカクのムスメよ。」
違う意味で、私達裏方も含め、呆然と固まった。
「ちょっ、メアリーって練習の時はあんなんじゃなかったよね?」
「えぇ、むしろ演技指導と言って私たちに言ってくるくらいでしたけだ……」
囁くようにセレナに確認をとるが、やはり練習のメアリーは上手かった。可愛い紅を塗った口からは流暢なセリフが出ていたはずだが……
「アナタとイエはカンケイあるのカシラ」
何だあの棒読みは?
「そういわれれば、難しい質問だ。だが……」
レミジオは練習通りに演劇を続けるが、逆に演技力の差がひどく、観客もいまいち話に入れないまま、舞台は幕を閉じた。




