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第一章 オンライン社会の確立

「オンライン」

 人と直接触れ合わずに、画面を通して物事が完結する世の中になった。疫病が流行していた当時は、当然必要だったと思う。だが、目下のところ、表面上は便利さを謳う、いい加減なオンライン社会が確立してしまった。


 わたるは高校二年生。

 今日の一限目は英語だ。九時になる前に、授業の準備を終えて、自身の机に座っていなくてはならない。

 タイムリミットまで残り三十分。

 まず、学校から貸与されたタブレットの電源を入れて、内側のカメラが、自身の上半身を映すようにセッティングした。

 次は電波の確認だが、アンテナを示す記号が全開なので大丈夫だと思う。万一、授業途中にインターネットが遮断され、落ちてしまうような接続障害が起きると、成績の減点対象になってしまうのである。

「航、はやく着替えなさい!」

「わかってるって」

 机の上に英語の教科書とノートを置いて、いったん一階に下りる。

 駆け足でダイニングに飛び込むと、テーブルには、イチゴジャムが直線に塗られた食パン二枚と、グラス一杯の野菜ジュースが用意されていた。

「ほら、早く食べなさい」

「おう」

 大口を開けて食パンにかぶりつき、野菜ジュースで胃の中に流し込む。繰り返していると、数回のどにパンが詰まりそうになった。

「……ですから、日本デジタル戦略的専門委員会は、内閣に邪魔されず、自由にやってもらう必要があるのです」

 航は、パンを口に入れながら、テレビのニュース番組に耳をそばたてていた。

 デジタル庁という行政機関があったのだが、それが日本デジタル戦略的専門員会という名に変わり、内閣に属さない独立した機関になった。

 思い返せば、デジタル庁ができたころ、その大臣は「高度なIT化を目指す」と様々な報道番組に出演して、政策の説明に躍起になっていたのだが、結局のところ、存在意義を残すことはできず、マスコミに税金の無駄遣いを指摘されると、古い考えの総理大臣が悪いとか、古びた慣習の国が悪いとか、文句ばっかり言って詰まるところ辞任した。

 そうして本格的なIT化を目指す、日本デジタル戦略的専門員会が、数年前から発足したわけだが、内閣から独立することによって問題も出てきた。彼らの政策を、誰も止めることができなくなったのである。

 政策のメインは、全てのオンライン化。手当たり次第にオンライン化を進めて、最近では葬儀まで画面越しにしたらしい。 

 「何でもかんでも手当たり次第にオンライン化していいのか」と、マスコミや反政府団体が、日本デジタル戦略的専門員会の委員長を槍玉にあげたが、びくともせず。そして目下のところ、内閣総理大臣に的を変えて攻撃していたのだった。

「なにぼーっとしているのよ」

 母に言われはっとする。

 意識を食べることに戻すと、口に入っていたパンを野菜ジュースで流し込んで、時間を確認するためテレビに視線を向けた。

「八時五十分?!」

 五分で朝食を終えるはずが、十分もかけてしまった。

 野菜ジュースを飲み干すと、残ったパンは昼に食べることを母に伝えて、洗面所へ向かった。母の「まったく……」というこぼしが背後から聞こえたが、言い返す余裕はない。オンライン授業が確立してから登校せずに済むので、早起きすることはなくなったわけだが、自宅で授業を受けられるという気の緩みから、今のようにいつも時間ギリギリである。

 急いで洗面所に入ると、鏡に映る自身を見て落胆した。寝ぐせがアニメキャラのように逆立っていたのだ。

 有名なメーカーから販売されている寝ぐせ直しを、前にかっこつけて買ったわけだが、こういう切迫する状態では、洗面台に直接頭を突っ込んで、蛇口の水で洗ってしまった方が格段に速い。

 航は、びしょびしょに頭を濡した後、ドライヤーの温風で手際よくセットしていく。

「五十五分よ!」

 急き立てる母の声が聞こえた。

 ほとんど乾いていないが、滴が垂れなければいいやと割り切って、二階の自室へ勢いよく入った。パジャマ用のスエットをベッドに脱ぎ捨てて、学ランに着替える。そのまま椅子に座って、学校用のポータルサイトを開き、ログインの状態にした。

 時刻は八時五十九分。なんとか間に合ったようだ。

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