死亡
新作なう
男は、誰しも一度、ヒーローに憧れる。
姫のピンチに颯爽と現れて救う王子
仲間と共に魔王を討伐する勇者
迫りくる人をなぎ倒す英雄
救いを求める人を導く聖者
そんなヒーローに、一度は憧れるだろう。
そして俺は、どんな敵も圧倒的な力でねじ伏せるダークヒーローに憧れた。
しかしそれを実行には移さないだろう。
妄想の中で、ただただ憧れを抱くだけ。
それで終わりだ。
そこが、俺と人の差だったのかも知れない。
幼稚園の頃、俺はイジメられていた。ただ怯えるだけの日々、ハブられ、無視され、嫌がらせをされた。
そんな日常の中で、俺は『強者を挫き、弱者を救う』そんなヒーローに、強い憧れを抱いた。
抱いてしまった。
小学校の頃、俺は徹底的に体を鍛え、頭を鍛え、強者を目指し色々行った。
川を逆流して泳ぎ、石を砕き、木を蹴りおる。
毎日の睡眠時間や食事時間、入浴時間や学校に通う時間以外の全てを注ぎ込み、俺は憧れを目指し歩み続けた。
両親は仕事の都合上、海外にいることが多かった。
その分給料はいいのか特にお金には困ることなく、俺はひたすらに、ただ強者になろうとした。
中学に上がった頃、俺は髪を金髪に染めた。少し店員がミスをしたのか、銀と金、黒のメッシュのようになったがこれはこれでと諦めた。
中学ではサッカーや野球、テニスやバスケなどの球技系から水泳や陸上など幅広い部活を掛け持ちし、身体を極限まで鍛えた。
そして高校に入る頃、俺の体は瓢のように引き締まった筋肉、身長178cm体重47kgという目指していた肉体に近い体つきとなった。
唯一の欠点があるとすれば、その肌だろう。
両親があまり日焼けしない体質だったため、俺にも遺伝したのか肌がほとんど日焼けしていなかったのだ。
しかしそれは仕方のないことだと割り切った俺は、普通の高校生活を送ることにした。
はずだった。
きっかけは、俺が教室に忘れ物をした時だった。
偶然告白の場面に遭遇してしまった。
それだけならば良かったのだろうが、フラレた男子生徒が逆上して、ナイフを取り出した。
流石に危険だと思った俺は、咄嗟に彼女を庇ってナイフをその身に受けた。
もしかしたら、他に何か方法があったのかもしれない。
しかし反射的に動いてしまった俺の体に、ズブリ、とナイフが刺さる。
あぁ、結局鍛え上げた肉体など無意味で、文明の力には勝てないのか。
そう思った俺の目には、最後に涙を流す、女生徒がいた。
その顔を見て、俺は安らかな死を迎えた。
はずだった。
「うぅ…………痛っ?!痛………くない?!血も出てない。まだ生きてる?!いや、でも確かに俺が死ぬ感覚はあった…………そもそもここは何処だ?こんな洞窟は、見たことがない。
それこそ…………いきなり移動させられた?」
そこまでの考えに至った俺の耳に「ぐぎゃががぎゃあが!!」という聞いたことのない声が届いた。
何かここは危険。
そんな感覚が訪れた俺は、暗闇の中を一人歩き出すのだった……………
気まぐれに新作を投げました。2,3日くらい後になんかを更新します