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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白い朝

作者: 來繰円絽

 









  眩い朝日には美味しい食事を

  華やぐ人々には素晴らしい歌を

  煌めく星々には清い水を









 きらり、と太陽が窓から顔を出す。

 朝だ。


 青葉の露が朝日に照らされて輝いている。


 そうか、昨晩は雨だったのか。


 暖かい毛布から身体を起こす。

 爪先にひんやりとした感触が伝わる。

 朝だ。







 川がさらさらと流れている。

 それを横目に朝食の用意をする。



 今日はどうしよう。


 やっぱり、君の好きなものにしよう。



 ふかふかのパンとミルク、新鮮な果物を棚から出 す。


 パンを焼こう。

 焦げ目からちりちりと香ばしい香りが漂う。


 ミルクを注ごう。

 真っ白なミルクがとくとくと注がれる。


 果物を切ろう。

 甘い果汁を漏らしてしゃきしゃきと刃が下ろされる。



 君を待つ。

 幸せな時間が流れる。







 少し遅いな。



 時計を見る。


 そうだ。

 君が帰ってくるまで、君が書いた本を読もう。



  「眩い朝日には美味しい食事を

  華やぐ人々には素晴らしい歌を

  煌めく星々には清い水を」



 君がいつも言っていることだ。


 君は、宗教や、教育や、信仰だとか言うものを嫌う。


 「美味しいご飯を食べて、素敵な歌を歌って、

 煌めく星達と眠るだけさ。」



 僕には意味がよく分からなかったけど、

 きっと、きっと、素敵なことなんだろう。

 だって、君が言うんだから。




 それにしても、今日は遅い。





 パンが冷めてしまう。



 そうだ。

 今日はベーコンも焼こう。


 いつもはパンとミルクと果物だけだけど、

 今日は君も頑張っているのだろうから特別に焼こう。



 僕はベーコンが好きだ。



 でも君は、


 「本来、僕達が肉を食べるのはいけないんだよ。でも、美味しいものだから、特別な日だけ、食べよう。」

 

って言う。



 いいよね。今日は特別な日だ。




 じゅわっと良い音を立てて、ベーコンが踊る。

 火が揺らめき、ぴりぴりと焼けていく。


 本当は卵も焼きたいけど、今日は我慢。


 ちくたくとなる時計とじゅわじゅわと焼けるベーコン。




 それにしても、今日は遅い。






 ちく。たく。


 遅い。


 君のために用意した朝食が冷めていく。


 ちく。たく。


 遅い。


 いつもの疲れた顔が見えない。


 ちく。たく。


 遅い。


 いつものよく分からない言葉が聞こえない。


 ちく。たく。


 遅い。


 「眩い朝日には美味しい食事を」


 ちく。たく。


 遅い。


 「華やぐ人々には素晴らしい歌を」


 ちく。たく。


 遅い。


 「煌めく星々には清い水を」


 ちく。たく。


 ちく。たく。


 ちく。たく。


 ちく。たく。


 ちく。たく。




 あ、




 思い出した。



 君のよく分からない言葉の最後のひとつ。



 ちく。たく。


 ちく。たく。


 ちく。たく。





 「裏切った人々には懺悔の肉を」







  眩い朝日には美味しい食事を

  華やぐ人々には素晴らしい歌を

  煌めく星々には清い水を

  裏切った人々に懺悔の肉を



 朝は太陽と一緒に朝食を食べ、

 昼は働く人々に歌を歌い、

 夜は星と一緒に水を飲み、

 深夜には裏切り者を肉にする。





 僕にはまだ、難しい言葉が分からない。


 君が書いた本も理解できない。


 でも、


 僕は分かった。



 今日、君は帰ってこない。






 朝食をそのままにして、部屋のドアを開けて、廊下に出る。



 トーストの香ばしい香りも、

 ベーコンの焼ける音も遠ざかる。




 浴室のドアを開ける。




 「やっぱりここにいたんだ。」



 君がぶら下がっている。




 「裏切った人々には懺悔の肉を。」





 そうだ。

 昨晩は雨だったんだ。


 君が新しい肉を見つけてきたから。


 君を信仰した女の人を連れてきたから。





 君が朝に帰ってくるのは、

 ベーコンが特別なのは、

 僕が難しい言葉を分からないのは、





 君のおかげなんだね。






 「裏切った人々には懺悔の肉を。」


 僕は何度も唱える。

 また忘れてしまわないように。


 「裏切った人々には懺悔の肉を。」


 僕は何度も唱える。

 またベーコンが食べれるように。


 「裏切った人々には懺悔の肉を。」


 そういえば、なんで君はぶら下がっているんだっけ。





 ちく。たく。


 ちく。たく。


 ちく。たく。





 君は、宗教や、教育や、信仰だとか言うものを嫌う。



 なのに、君は信仰した。


 それに、僕も君に信仰していた。



 僕は、

 君がいないと生きていけなかったみたいだ。


















 きらり、と太陽が窓から顔を出す。

 朝だ。


 青葉の露が朝日に照らされて輝いている。


 そうか、昨晩は雨だったのか。


 暖かい毛布から身体を起こす。

 爪先にひんやりとした感触が伝わる。

 朝だ。


 ふかふかのパンとミルク、新鮮な果物を棚から出す。


 パンを焼いて、

 ミルクを注いで、

 果物を切って、




 僕は、首を吊った。

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