3話 脱走
東から太陽が昇り始め、まもなく朝を迎える。
この日はいつものまったりした雰囲気のこぶたはどこにもいなかった。その代わりに
覚悟を決めた1匹のこぶたが草むらの陰で佇んでいた。
「もうそろそろかな…」
高い柵で囲われたコーン牧場。
唯一の出入り口「正面ゲート」は早朝の人が出入りする一瞬しか開かない。こぶたは、その一瞬を狙ってコーン牧場から逃げ出そうとしていた。
それからしばらくして人の話し声が聞こえた。
どうやらコーン牧場の管理人がゲートに向かっているらしい。
こぶたは緊張で小さな足を震わせていた。
自分にきっとうまくいくと言い聞かせて、手に人と書いて心を落ち着かせた。
ゴロゴロと馬車の音が近づいてきた。
恐らく取引相手の商人だろう。
ゲートが開く音が聞こえた。
その瞬間、こぶたはゲートに向かって一心不乱に走り出すのだった。
こぶたは一生懸命走った。
走って走ってゲートにたどり着き、勢いそのままに草が生い茂る近くの森へと走りこむ。
「やった!うまくいった!あと少し!」
こぶたは喜んだ。
「これで死なないで済む!」
そう思ったのだが、その判断はどうやら早かったようだ。
突然、体が宙に浮く感覚に包まれた。
上を見ると商人の護衛らしき人が自分を掴みあげていた。
「おいおい、こぶたが1匹逃げてるぜ」
「あぁ、すいません。ありがとうございます」
コーン牧場の管理人に渡されそうになったこぶたは必死に抵抗した。
しかし、こぶたの力なんてたかが知れている。
いとも簡単に管理人に捕まってしまった。
こぶたは泣いてしまった。
このままこの牧場で死んでしまうんだ。
そう思い胸が苦しく締め付けられた。
その時
「おい…なんだあれ?」
商人の護衛がそう言った。
こぶたは護衛が指差す方向を見た。
コーン牧場の奥から大量の砂煙が舞っている。
何事かと目を凝らしてみると一頭の牛が猛スピードでこちらに向かってきていたのだ。
その牛はこぶたの唯一の友達、牛侍だった。
「モォ〜!!」
牛侍はこちらに向かって来ている。
「なんだあれ!?とにかく危険だ!仕留めるぞ!」
護衛が牛侍に向かって矢を放とうとした。
こぶたは急いで管理人から飛び降りて、矢を放とうとしている護衛の足を掴んだ。
「!?邪魔すんな!」
護衛を慌てさせることに成功した。
そして牛侍はこぶたのところまで走り続け、こぶたを勢いよく頭で背中に乗せた後、全力で森の中へと走り去った。
コーン牧場からの脱走に成功したのだ。
牛侍と森の中を走っている途中、こぶたは牛侍を置いて逃げようとした自分を恥じた。
だからこそ
「ありがとう牛侍、置いて行こうとしてごめんな」
と伝えた。
もちろん牛侍はモォ〜としか鳴かないのだがこぶたは気持ちが伝わったような気がして嬉しくなった。
「よぉ〜し!牛侍!俺たちは生きて幸せになるぞ!」
「モォ〜!」
こぶたと牛の長い冒険が、始まった。