異世界エレベーター
毎日投稿第7弾です。
よろしくお願いします。
異世界エレベーター
異世界へ行きたいと思った。
理由はもう掃いて捨てるほどあった。
この世は、もうなんか懲り懲りだった。
物の本によると、どうやらトラックに轢かれればかなりの確実に異世界へ行けるらしい。
しかし、実行するのは少し恐ろしかった。
伊勢は、ほかに異世界に行く方法がないか探してみることにした。
インターネットですぐに見つかった。
なんとyoutubeに動画まで出ている。
ただ、その動画では異世界に行くことは失敗していた。
その方法はエレベーターを使ったものだった。
一人でエレベーターに乗り、4階、2階、6階、2階、10階、5階という順番でボタンを押して移動する。
すると、5階で若い女性が乗ってくる。
1階のボタンを押すと、なぜかエレベーターは上へと上がり、10階に着く。
エレベーターが開くと、そこはもう異世界なのだそうだ。
移動する途中、5階の女性以外の人が乗ってきたり、自分が途中で降りたりすると失敗らしい。
それから、5階の女性には絶対に話しかけてはいけないとのことだった。
なんだか方法がやけに具体的で恐ろしかった。
試そうと思えばすぐにでも試すことができそうだ。
というわけで、さっそく試してみることにした。
伊勢は異世界へ行きたかった。
この簡単な方法なら、成功すれば異世界に行けるし、失敗したところで休日が1時間程度潰れるだけだ。
伊勢は久し振りに、ワクワクした。
知り合いのマンションが12階建てだったので、連絡してそこをこっそり使わせてもらうことにした。
深夜1時、人が一番少なそうな時間帯を選んだ。
友人が見守っている(というかスマホで動画撮影している)中、1階のエレベーターへと入った。
覚悟を決めてきたはずなのに、やたらと緊張した。
みるみるエレベーターが上がっていく。
ぐん、と足に力がかかり、地球の重力が少し強まったかのように感じた。
4階に着いた。
エレベーターの扉が開く。
向こう側には、深夜1時のマンションの廊下が広がっていた。
誰も乗ってこないまま、エレベーターの扉が閉まる。
今のところ、なにも起きてはいない。
しかし、なぜか心臓の鼓動は早くなった。
エレベーターの扉というのは、本来は誰かが乗り降りするとき以外は開かないものだ。
誰も乗ってこないのに、エレベーターの扉がただ開いたり閉じたりするというのは、なんだか気味が悪かった。
4階に着いたので、今度は2階を押す。
エレベーターが下へと降りていく。
なんとなく後ろの壁に背中を貼り付けた。そうすると少し安心した。
2、6、2という順番で上下に移動する。
エレベーターの中で、体重が軽くなったり重くなったりした。
自分はいったいなにをやっているのだろうという気持ちと、なにか起きたらどうしようという不安、もしも本当に不思議な現象が起きたらという興奮、様々な感情が心の中で渦巻いた。
5階に着いた。
ここで、若い女性が乗ってくるはずだった。
若い女性というのは、なんだか素敵な響きだった。
しかし、女性は乗ってこなかった。
女性どころか、誰の姿もない。
ただの薄暗いマンションの廊下だった。
youtubeで見た動画と同じだった。
念のため、1階のボタンを押して降りた後、10階のボタンを押して上へと上がる。
やはり、なにも起こらない。
この世界のままだった。
いや、まだ諦めるのは早い。
異世界が、どんな異世界なのかはまだわからない。
わかっているのは、異世界には自分しか人がいないらしいという情報だけだ。
ひょっとしたらまだ気づいていないだけで、ここは実は異世界で、人間は自分一人しかいないのかもしれない。
伊勢はそんなことを考えながら、1階のボタンを押した。
1階に降りると、スマホを持ったままの友人が出迎えてくれた。
「なんにも起きなかった?」
友人が聞いてきた。
伊勢は黙ってうなずいた。
しょせんは作り話だったのだろうか。
やはり、そう簡単に異世界になど行くことは出来ないのだ。
異世界などというのはどこにも存在せず、きっとどうやってもたどり着けないのかもしれない。
残念だった。
明日も早い、伊勢は家へ帰らなければならなかった。
「まぁちょっとドキドキできて、楽しかったよ」
友人はそう言って自分の部屋へと戻っていった。
伊勢は悲しい気持ちで帰路に着く途中、トラックに跳ねられた。
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