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落ちた

「26歳の誕生日おめでとー!」


ガヤガヤと賑わっている中、乾杯と少し大きめな声も周りに溶け込んで消える。

ガツン、と少し強いグラスを打ち鳴らす音とともに相手側の並々と注がれたビールの白い泡が波打って溢れ落ちた。


「おとと」


喉をならして煽る親友のおじさんのような姿に苦笑いしつつ、私も一緒にオレンジジュースを一口煽る。


「私らも26歳……四捨五入したらもう30歳!おかしい、なんで私ら独り身なんだろうね。ねぇ、なんで彼氏って簡単に作れないのか議論しない?」


「ちょっと、もう酔ってるの?」


まだ一杯しか飲んでないからそれはありえない、と思いながらも今日はやけにテンションが高い。

仕事で嫌なことでもあったのかな??


わたし、岡崎里奈と國枝美沙は幼稚園からの付き合いで大人になった今でも変わらず仲良くて、親友というよりはもう家族のような関係である。

美沙は『あたしが姉だからね』なんてニヤリ顔で笑うけど結構人見知りをするタイプで前に出るのが苦手な彼女は何かをするとき私の後ろで事を待ってることが多い。それでも私がモタモタしてたりパニックになって言葉が出ないときなどは颯爽と助け船を出してくれるので一概には決めれないけれど。


「里奈?聞いてんの?」

「はいはい聞いてるよ~」

「だからさぁ、あたしは思うわけよ」


はいはい、そうだね、なんて相槌を打ちながらカラッと揚がった唐揚げを摘まむ。

~~~ん、美味しい!

しっとりジューシー、これこそ唐揚げだよね!うっすら色付いてサクサクした歯ざわりの『から揚げ』と書かれたもの、あれは『竜田揚げ』!から揚げとは違うのよ。

ニンニクと生姜が入っていてガツンとくるもの、これこそ私が常に求めてる王道の唐揚げだ!

うむうむ、ビールには唐揚げなんてよく言ったものだね。なんて、一滴も飲めないから私はオレンジジュースを飲み干す。


「すみまーせん、飲み物おかわり!

麦焼酎のコーラ割ください。里奈はどーする?」


「それじゃあ、烏龍茶お願いします。あと料理はこれと、これと……これ」


私はお酒より料理。

家だと母と私の二人きりでそんな手の込んだものを作ろうとは思わないから、ここぞとばかりに食べる。

揚げ出汁豆腐に浅利の酒蒸し、イカと大根の煮物


「たまには里奈も飲めよ~」

「あのね、私は運転手だよ?」

「代行呼べばいーじゃん」

「お金かかるでしょ。それにお酒苦手だからいいよ」


なんて蓮根のはさみ揚げを食べながら呑兵衛の誘いを断る。NOと言える日本人なんだよ、私。

目の前ではちぇーと拗ねながら手ずから日本酒をグラスに注いでいた。

あれ?焼酎いつの間に飲んだんだろ。


「大丈夫?明日休みだからって飲み過ぎじゃない?」


「うるせぇ、飲まずにいられるかってんだ」


えぇ、いきなり口が悪いよ!あんたどこの飲んだくれ親父だよ。

仮にも乙女でしょうが。


「26にもなって実家暮らしだし、彼氏はいない。ほんと乾物女、まじ乙」


「あれ、愚痴だよね?私にも刺さってるんだけど、言葉の刃が」


まぁ、年齢的にも周りが続々と結婚していって子供もいるってなると取り残されてる気分になるよね。

親からも結婚結婚って急かされて嫌になっちゃう。

でも昔から私たちが言ってるセリフ


「もうさ里奈、結婚できなかったら二人で田舎の小さな家買って暮らそうね…」


小さな庭があってそこで家庭菜園しながら猫と暮らすんだってのが美沙の口癖だもんね。


「ジャジャーン!見て里奈っ、今まで役立ちそうなことをメモってきたやつ待ってきたよ」


はい、と渡された見覚えのあるそれは美沙が≪二人暮らしする為≫にありとあらゆるサイトから使えそうな生活の知恵や主婦やおばあちゃんの知恵をまとめた知恵ブックだ。

パラパラと捲っていくと、美沙の好きな自家製レシピだったり、家庭菜園、掃除に役立ちそうなこと、その他いろいろなことが書かれている。


「おお~結構溜まったね」

「でっしょ」

「でも、家庭菜園のページになんで私の名前が?」


ご丁寧にタイトルの横に【里奈のために】と大きな文字で書かれている。

私の為って、美沙がしたいんじゃないの?


「え、だって家庭菜園とか絶対あたしには向いてないよ。枯らす自信あるもん。それに里奈のほうが畑持ってたんだし経験あるでしょ」


「そうは言ってもおばあちゃんがやってたのを隣で手伝ってただけだし…」


おばあちゃんが作った野菜は近所で作ってるものより出来が良くて美味しいって評判だった。

物々交換で皆おばあちゃんの野菜を欲しがってたけど、作り方とかは独自のやり方だったから私には分かるはずもない。


「大丈夫大丈夫!」

「もう何を根拠に言ってんの」







「ほら、時間も時間だしそろそろ帰ろ」


「うぃ~す」


少しゆらゆらと不安定に揺れる美沙の背中を押し、お会計も済ませて外へ出る。


「「ごちそうさまでした」」


おおきにー!なんてセリフを背中で聞きながら私たちはフリーフォールに乗った。

いや、乗ったことは人生で一度もないんだけどね??!

あれ!?これがもしかして一回目なのーー!??


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