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ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第2章:クエスト「ダンジョン実習」
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2-1

 冒険者と呼ばれる者たちの起こりは数百年前にまで遡る。

 大陸西部に端を発した長い戦乱の時代が終わり、それぞれの国家がようやく自分たちの領土を踏み固めはじめた頃、為政者たちの喫緊の課題は戦場という仕事の場を失った傭兵や、戦乱によって職を失った労働者への対応だった。

 彼らのような荒くれものたちの有り余るエネルギーを有意義な方向に導くため、簡易な手続きによって配達や警備、魔物の討伐といった労働を斡旋する"冒険者ギルド"が設立された。

 危険な力仕事を委託できるようになったことで為政者たちは増加する軍事費や殉死した兵士の遺族に支払う補償金に心を痛めることもなくなり、無法者たちもまた職を得て社会の一員──冒険者として受け入れられるようになった。

 こうして冒険者と冒険者ギルドは大陸各地に広がっていった。

 大陸北部に位置する王政国家クリシュカにおいても冒険者の性質は変わらないが、この地では彼らに大きな使命が託されている。

 それこそが地下迷宮"ダンジョン"の探索であり、日々増え続ける魔物たちの根源を断つことなのだ。


「そして、このヴィエッタ学園こそが次代の冒険者を育成するクリシュカで唯一の学園なんです。

 ……あの、ここまで大丈夫ですか?分かりにくいところがあったら遠慮せずに言ってくださいね。そのための教師なんですから」

「いえ、大丈夫ですよリラ先生。説明ありがとうございます」


 職員室から俺の編入することになる教室への道すがら、光沢のある長板が敷き詰められた廊下を2人で歩きながら、俺はこの世界について基本的な知識を教わっていた。

 昨晩俺を学部長室まで案内してくれた女性がクラス担任らしい。

 若草色のカーディガンを羽織り、水色の髪を両サイドで結んでいる優しそうな女性──リラ先生がほっと胸を撫で下ろした。


「ああよかった。結構難しい言葉も使いましたから、大丈夫かなって心配だったんです。

 ソウタ君は向こうでもしっかりとした教育を受けられていたみたいですね」

「こちらの水準が分からないので何とも言えないんですが……勉強についていけなくなるようなことにはならないと思います」


 歴史や地学など多くの分野は1から覚え直すことになるだろうが、培われたノウハウは通用するはずだ。数学はどの世界でも同じだろう。

 問題は座学より実技だった。ここは冒険学部なのだ。当然ながらダンジョンに入って魔物を倒すことになる。

 昨晩はどうにか切り抜けたものの、今の状態でさあ魔物と戦えと言われても足りないものが多すぎる。


「大丈夫ですよ、そんなに心配しなくても。他の子たちだって2週間ほど前に入学したばかりですし、みんないい子たちですからすぐに打ち解けますよ」


 ヴィエッタ学園は4月と9月の2回に分けて生徒を募集している。

 俺は4月の入学式直後ということで1期生と呼ばれる4月組に編入されたのだが、2週間やそこらでプリムラやアキュートのような立ち回りができるとは思えなかった。

 もしかするとこの世界の人間と地球人の間には根本的な性能差が存在するんじゃないかと勘ぐってしまう。

 さしあたっては戦う手段の確保だ。武器か魔法か、できるだけ早いうちに決める必要があった。


「服装は本当にこのままでいいんですか?制服がどうのってアキュートが言ってたんですけど」


 俺の恰好は未だに元の高校で着ていた黒の詰襟だった。嫌いではないが学園指定のものがあるのならそちらを使いたい。だがその心配は杞憂のようだった。


「騎士学部には制服がありますけど、冒険学部にはありませんよ。

 貧しい家の子たちも多いですからできるだけ余計な物は買わせないようにしているんです。

 何より冒険学部のモットーは自由と自立ですから。あっ、でも校則はちゃんと守ってくださいね。自由と無法を履き違えないように!」


 冒険学部は思っていた以上におおらかな学部のようだった。必要なのは独創性というエカテリーナ学部長の言葉を思い出す。

 果たして俺にそんなものがあるのか分からないが、やると決めた以上は当たって砕けるしかなかった。

 そうしてリラ先生からいくつかの一般常識や規則を聞いているうちに俺が所属することになる1-1(1学年1期生の意味らしい)の教室が近付いてきた。

 教室の扉の前まで来るとリラ先生は声のトーンを落とした。


「最後に1つだけ。ソウタ君が異世界から来たことは、生徒たちには伏せてあります。

 あなたは外国の生まれで、道中で事故に遭って入学が遅れたということになっています」

「やっぱり、バレるとまずいんでしょうか」

「必ずしもそうだとは言えませんけど……。でも、私たちの世界で最も知られている異世界は、魔界ですから」


 やはり魔物を連想される可能性があるということか。

 生徒の中には魔物に家族を殺された者もいることだろう。少々気が引けるが、余計なトラブルを避けるためには必要なことだった。

 俺の内心を察したのか、リラ先生が俺の肩に優しく手を置いた。……身長差のせいで指先しか届いていなかったが、気持ちはありがたく受け取っておいた。


「ですから、出自を明かすかどうかはソウタ君に任せます。……あなたが自分を偽る必要のない、本当に信頼の置けるお友達ができるといいですね」

「ありがとう……ございます」


 リラ先生は頷くと教室の扉を開ける。俺も先生に続いて中に入った。

 俺が通っていた高校と造りはほぼ変わらない、やや奥行きの広い教室。

 教室の前後と外側の壁にはレンガが敷き詰められており、教卓の傍には埋め込み式の暖炉が春先の暖かな休暇を満喫していた。

 窓の外には白い砂利の撒かれたグラウンドと、その上でランニングをしている生徒たちが見える。

 教室の中に目を戻すと、30人ほどの生徒たちが席について俺を注目していた。軽く見渡すだけでもなかなかに個性的な面々が揃っていた。

 「クラスで浮いてしまうかも」なんて考えるだけ馬鹿馬鹿しかった。なぜなら全員浮いているのだから。

 後ろの方でアキュートが「よう」と大きな声をあげて隣の席の眼鏡の男子に睨まれていた。教卓の正面にはプリムラが座っていて、小さく手を振っている。


「新しくこのクラスに入ることになりました、ソウタ=マツユキです。これからよろしく」


 こうして、俺の冒険学部での生活が始まったのだった。


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