決意の先に…
俺は今日生まれて初めて自分の弱さを呪った。
自分が不倶戴天の敵である自覚もある。
敵対者を屠る力も持つ自信もあった。
しかし、人一人を救う力を俺は持つことは出来ていなかった。
どれだけ敵を倒せても、守りたい人を守れないのなら無力と同じだ。
そして、俺は神に祈る。
『あいつを…俺の親友を返してくれと』
突如、俺の周りに光の柱が出現し、流れに逆らわず飲み込まれていった。
▼▼▼
目が覚めると見たことのない部屋に跳ばされていた。
部屋の灯は少なく、最低限照らされているにすぎない。
ここがどこか分からないが出口もないので待つこなとにした。
数分間待っているとどこからかハイヒールで歩いてくるような甲高い音がした。
「ご機嫌よう、魔王さん」
声の主を確認しようと振り返るとそこに女神のような美しい女性が立っていた。触ると壊れてしまいそうな程に繊細で無機物のような永遠の美しさが溢れ出ている。微笑を浮かべている表情一つでも絵になっている。
「美しい姫様が何の御用で?」
「そんなに見構えなくても大丈夫ですわ、今回はお願いがありますの…」
「まずは自己紹介を、私は魔王 ギルベルト=ディアボロス
とある世界で元魔王です」
「私の名前はヴィーナス、ギリシャ神話オリュンポス十二神が一柱」
「は?」
彼女が言っている言葉の意味が俺では理解不能だった。
そもそも神話のような架空上と思っていて信じていなかった
――少し前までは…
「信じられないでしょうね、普通は」
「一つの確認をさせてもらっても?」
どうぞと促され、ヴィーナスの目を真剣な眼差しで睨んだ。
「あいつを堕としたのは貴方のお仲間ですか?」
その言葉とともに俺の身体から膨大な魔力が流れ出る。
もし、俺の探している人物を知っているのならなら今ここで情報を吐かせてから殺す以外の選択肢は無かった。
とてつもない殺気がヴィーナスに向けられる。
しかし、ヴィーナスは平気そうに微笑みんでいる
「正直に答えて下さい…俺は二人も女性を殺したくありません」
「ふふ…大丈夫よ、でも殺した奴の情報を持っている」
「っ!…そいつの情報は確かですか」
一瞬冷静さを失いそうになるが、すぐに自分を律して平静を装う。
ここに必要なのは感情ではなく情報だと、自分で分かっていたから出来たことだ。これが本当なら俺の野望に一歩どころか手の届く範囲まで近づくことになる。
「えぇもちろん、神に二言はないわ」
「回りくどいのは苦手なので本題を言ってもらっていいですか?」
嘆息を吐いて、自分の負けを認めるように両手を挙げた。
情報では明らかにこちらが負けている。
相手の 求めるものが分からない以上交渉の仕様もない。
さっきの発言もおかしな点があった。彼女は情報を知っているではなく持っていると答えた。つまり、交渉のカードを少なくとも一枚いや少なくとも三枚は持っている内心で思っていた。
「あら残念もう少し楽しめそうだったのに、それじゃ本題に入らせてもらうわね」
女神様は俺と舌戦をご所望のようだったがそれは俺のギブアップにより叶わなかった。
「それではギルベルト君、あなたに絶対悪になってもらいたいの」
「言葉の意味が分からない」
「簡単なことよ全ての魔王を殺して全ての悪をあなたが体現すればいい」
彼女の言ってる意味が未だに分からなかった。全ての魔王を殺す?
悪を体現する?
確かに可能ではある、しかしそれは俺にある汚名を着せることになる。
「絶対悪とは何ですか?」
「不倶戴天の敵、あらゆる生物の敵となる存在」
「それで最後に俺を殺して悪を消滅させることですか」
彼女はあまり戦うことは得意そうな気がしない。
仮に今ここで戦闘になったとしても十中八九俺が勝利する、
しかしどこからかそうならないかもしれないと思わせる何かがある。
「そんなことしても意味無いわよ、あなたが死ねばまた誰かが悪を成す…あなたには生き続けて全ての敵になってもらわないと」
「ここで分かりましたとは言えません…メリットもなさそうですし」
俺は踵を返し、どこかに出口がないか探す。俺にはこんな所で油を売っている暇はない。
一刻も早くあいつを生き返らせる方法を探さないと…
「あなたの親友を生き返らせてあげると言っても?」
「っ!?…俺をおちょくってるなら今ここであなたの首を飛ばします」
俺は彼女首元ギリギリで剣を止めた。流石に今のはふざけているしても看過できない。俺の怒った表情とは対照的彼女は興味深そうな笑っている。
「いいことを教えてあげるわ――人間に神は蘇生出来ない」
彼女の自信の理由はこれだ。
俺にあいつを生き返らせることは不可能だも思い知らされた。
「あなたには出来ると言うんですか」
俺の言葉を待っていたかのように指を鳴らす。
そうすると、ホログラムのが現れた。
少しすると彼女が目を開け俺と目が合う。俺は思わず抱きしめようと
するがホログラムなのですり抜けてしまった。
「彼女は生きてるのでも…あなたには会わせない」
確かに俺は彼女を殺していることに変わりはない。
そんな奴に会わせる奴はどこにも居ないだろう。
「私のお願い聞いてくれるわよね」
これじゃお願いじゃなくて脅迫だ。しかし、抗える力も彼女の居場所を探すことも今の俺じゃ出来ない。
ならいっそのこと汚名を背負ってもやってやると、俺は首を縦に振った。
『ギル…私待ってるね』
「今度こそお前の隣にいるからな」
ホログラムに近づいてキスをする。もちろん実体はないが今の俺にはそれで充分だった。
「なってやるよ――不倶戴天の敵に」
満足したようにホログラムの彼女は消えていった。
俺を待ってる人がいるそれだけで力が湧いてくるような気がした。
▼▼▼
「手短に説明するわね、今からあなたの行く世界には魔王が四人います、手っ取り早くまずはその人たちの討伐に向かって下さい」
そう言うと魔法陣が俺の足元に浮かび上がってきた。俺がここに来る媒体と同じ魔法構成となっていた。
「あなたに神の御加護を」
彼女は祈るように俺の手を握ってきた。
先程の嫌なら雰囲気とは違い今は俺の無事を真剣に思ってくれているらしい。
彼女が俺を利用する意図は分からない。
でも、俺はあいつを生き返らせるためにどんなことでもするとあの日に誓った。
強く決心をして今日という日を一歩踏み出した。