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2015年9月10日pixivに投稿済。
“普通”の高校生だった僕は、帰宅途中にこの世界に喚ばれた。
召喚というと、喚ばれる方にも何らかの前兆があると思い込んでいたけど、実際喚ばれた僕がはっきり断言する。
そんなものはない。
いかにもな複雑な紋様の魔法陣が現れて…とか、突然空間に裂け目が…とか、光が僕を包んで…とか。
そんなものはない。
まばたきしたら、もう別の場所だった。
信号待ちしていたはずの僕の前から横行する車と雑音と、同じように信号待ちしていた同じ学校の同級生なんだか下級生なんだかわからない女生徒の姿が消えた。
何百回と往復したはずの見慣れた景色の代わりに、風景を切り取ってコピペしてきたかのように、その世界は突然現れた。
「成功だ!」
「おいでになった…!!」
「神様だ!!」
そしてまず、こんなにも摩訶不思議なことが起こると人は何も言えない。
僕は車のエンジン音の代わりの多人数の揃った「おおぉ…!」という声を無視して、キレイに整列して座っている作務衣のような衣服を着た集団がひれ伏すまで、無感動に眺めた。
そして、ようやく脳みそが活動しだす。
鼻を通じて相当年季の入ったカビ臭いニオイと、目を通じてここが通学路ではないと認識したのだ。
それでも僕はどうしてか落ち着いていて、頭を下げたままピクリとも動かない集団に対して、いやいやわけわかんないよ説明しろよという意味を込めてはっきりとこう言ってやったのだ。
「スミマセン、なんのことですか」
アスカの民に喚ばれたときのこと。
「神様! 今度からはおれっちがお護り致します!!」
「人違いです」
「ブレイブとお呼びくだせえ!!」
「帰してください」
「二人で偽神をやっつけにいきましょう!!」
「話聞けよ!!!」
全く話がわからないうちに、僕は神様になっていて、偽物の神様を倒しにいくことになっていた。
話は単純なのだが、村に代々伝わる呪術師が、世界を救う神様を呼び出したら僕が来たと。
…そいつポンコツじゃないか!!
「神様…我々をお見捨てになるのですか」
「世界は荒れております。 どうか、アスカの民に慈悲を!」
「我々をお救いくださいませ」
すると、また「神様~」「神様~」と大合唱がはじまる。
あちこちで上がるそれは最早呪いの言葉だった。
「呆れ果てましたね」
合唱の脇をすり抜けて男が割って出てくる。
この集団とは明らかに違う、至るところに装飾がついたまぁ高そうな装いで、僕は瞬間的に見た目も言葉遣いも偉そうなヤツだと思った。
でも、「さぁ神を名乗る不届き者を倒しにいってください神様!!」なんて言われていた僕には、まさに神様だった。
「貴方方、本当にこの少年が神に匹敵する力をお持ちだとお思いですか?」
すると、僕を送り出そうと集まっていた集団が一斉に罵声を上げる。
この民族は小規模なんだけど、“神様”を送り出そうとしてるから女も子供もお年寄りも総出で集まっており、なかなか圧巻の人数だ。
それが一斉に怒鳴るから、何を言ってんのかなんてほとんどわからないけど、ただただ圧倒される光景ではあった。
正直びびった。
そんな悪意を偏に向けられた男はどんな顔をしているのだろうと心配になって見たら、怖じ気づくどころか“こいつらバカじゃねぇの”と言わんばかりの顔で、「…底が知れますね」
そこで、腰に下げていたランプからもんもんと大量の煙が上がった。
ジンだ。
「いや~ないでしょ。どー見てもモブでしょ。村人Aでしょ」
今でこそこれはジンだとわかるけど、そのときの僕はそれはびびった。
驚きという形容では、召喚されてきたときより良いリアクションだったと思う。
口をアゴが外れるほど大きく開けて、本当に腰を抜かすところだった。
「濁りきった目で現在から目を逸らし、挙げ句に力のない子供に信仰心を押し付け生贄に差し出しますか。東の民も落ちぶれたものですね」
口と一緒に空いてた耳に入ってきたのはそんな言葉だ。
そして、暴動が起こった。
民族を煽るような言葉はそのまま暴力になって、キルゴットに向けられた。
何人もの若い男や屈強な男、どこからか武器を持った男が一斉にキルゴットに襲いかかり、そして散った。
キルゴットの周囲の地面が隆起し、破裂したのだ。
今でこそ彼のお得意技だとわかるが、そのときは頭の先から足の爪先まで、全身に震えが走った。
でも、一言で驚きと表するものじゃなかった。
「私と来なさい。無駄死にはさせません」
「旅の途中でたまたま立ち寄っていたの」
アリエルが言う。
僕がキルゴットに連れられた直後のことだ。
「何故貴方までついてくるんですか」
「逆だろ!! てめぇらがおれらの神様攫ってんだよ!!」
「だいたい、喚んどいて還せないとか、まじポンコツー(笑)」
「最早言葉もありません」
「還せねぇんじゃねぇよ!! まだ神様には役目があるんだから、それを果たしていただこうってんでねぇか!!」
ブレイブが騒ぎ立てる。
キルゴットの魔法を披露したら、実にスムーズに村から出ることはできたのだが、一族の体面のためか率先してなのか急き立てられてなのか、後からこいつだけ走ってついてきた。
「にぎやかになったね」
アリエルが笑う。
声を立てるわけでもなく、かみ殺すようにクスクスと、目尻を下げた。
僕はあの騒動の中、アリエルの存在に少しも気付かなかった。
どうして気付かなかったんだろう!
「私はアリエル。よろしく、トキヤくん」
僕はランプの精霊を見たせいもあって、その名を聞いて思わずその印象を重ねてしまった。
人魚姫だ。
クリスマスも正月も関係なくマイペースに投稿。
昔のなので見直したいけど見直したら全修正しそうなので、このまま上げます。